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第47話 タブレスの来訪

 留守番は好きではありません。家にじっとして居る事自体が今までの人生で少なかったからでしょうか?


「いい加減落ち着け、ルリが居るなら大丈夫。」

「落ち着いています。別にソワソワしてないし、留守番が嫌いなだけです。」


 しかし不本意です。いくら戦闘スタイルとの相性が悪い場所とはいえ全く役に立たない訳では無いのに。それこそハッキネンに変わるのも有りなのですから。


「私は面倒だから戦いたくない。そもそも目的が試し斬りだから不要。」


 ハッキネンが面倒臭そうな顔で言って来ますが、何もしないで一人で家に居るのはどうも落ち着かないのです。


「そんなに暇なら街に出る?」

「行きませんよ、帰って来た時に誰も居ないのは流石に嫌ですよ。」

「そう言うものか?」

「何となくね、家に帰ってきた時に誰かいた方が嬉しくない?」


 取り留めも無い話をして二人で時間を潰しながらのんびりと過ごしていると、不意に家のドアをノックする音が部屋に響きわたると、ドアが開いて黒ずくめの格好をした精霊の姿が見えました。


 振り返るとそこには私が一番よく知っている精霊が居ました。


「兄上! 久しぶり!」


 ハッキネンが勝手に分離して部屋に入って来た兄上の方へ笑顔で駆けて行く。私も一拍置いて後ろをついて行った。久しぶり過ぎてどう言葉に出して良いか解らない感情が押し寄せて来たのです。


「ハッキネンか? 髪色が元に戻ったと言う事は……。」


 兄上は本来居る人ではなく、別の知った顔が有る事に驚いた様子でした。そしてハッキネンの髪色が茶色から元々の白金色に戻っているのに気が付いて更に驚きの表情を浮かべたのでした。


「兄上、お久しぶりです。随分と会えないままでしたが……元気そうで何よりです。」


 兄上は視線を目の前のハッキネンから声がした私の方に移すと驚いた表情をしてます。


「リィム、お前目が覚めたのか? 精神の摩耗でもう目覚めないと思っていた。」


 兄上は信じられないものを見る様な目をしていましたが、夢でないと理解できるとこちらにゆっくりと歩み寄って抱きしめて来たのです。


「ちょっと兄上。照れ臭いので抱きつかないで下さい。もうそこまで子供じゃありません。」


 私が恥ずかしくて苦情を訴えますが、兄上の反応は変わらず。


「本当に良かった、家族が無事で喜ばない兄がどこに居る。」


 う~ん、困りましたね。兄上は私とハッキネンにだけは異常に甘いですから、余計に感情が高ぶってますね。


「兄上は本当に心配してた。ちょっとの間は許してやれ。」


 ハッキネンも止める事無く傍観してます。仕方ありません。だって顔を見上げなくても泣いているのが解ります。そう言う顔は見ないであげた方が良いのでしょうから。






「落ち着きましたか?」


 しばらくして兄上は私を離すと、改めてテーブル付近の椅子に腰を掛けてから話を始めたのでした。


「すまないな、少し感情的になり過ぎた。」


 兄上が照れ臭そうに視線を逸らして謝ってくるのですが、別に気にしなくても良いのにと思ってしまう。


「死んだと思ってた妹が生きていた。普通はそんな感じになる筈。」


 ハッキネンがフォローを入れてくれますが、それでも口をモゴモゴさせて照れ臭そうにしてます。相変わらず真面目過ぎな所は変わらない様です。


「しかしどうやって摩耗状態から回復したんだ? 意識をハッキリとさせるだけでも相当苦労する筈だが。」


 やっぱりその質問が来ましたか。詳細を話すなと口止めされてますし……どうしたモノでしょうか?


 私が悩んでいると、兄上は何かを察したように聞いてきました。


「ふむ、《《ここでは話せない》》内容なのだな? 話せるようになったら聞こう。」


 察してくれた兄上は無理に説明しなくても良いと言ってくれましたが、何か納得している様子が有ります。大いなる再生者(グランドリバイバー)の事を察したのでしょうか?


「ところで兄上はどうしてルリの所へ? 何か入用な物でも出来たのですか?」


 話がひと段落したところで本題を切り出してみました。私に会ったのは偶然でしょうから、ルリに用事が有ったのは間違いないでしょうし、兄上が他人の手を借りるのは相当珍しい事でしたから。


「ああ、そうだ。実は少し問題が発生してな。ルリの力を借りに来たんだ。」

「兄上がわざわざ力を借りに来たと言う事は、余程の事態なのですか?」


 少々驚きました。何かの作成ではなく《《力を借りに来た》》と言ったのです。大抵の事なら兄上は単独で何とか出来る程の最上位に近い精霊なのに。


「ああ、そしてお前達に会えたもの運が良かった。多分無関係では無い。」


 私達にも関係している事件が起きていると言う事なのでしょうか? 私とハッキネンが顔を見合わせていると兄上が話を続けました。


「とある《《人間が神器を生成した》》のだ。」

「久しぶりに聞いた。人間が神器を生成したのは十数年ぶり。」


 ハッキネンも深刻そうな顔をする。人間が神器を生成出来たと言う事は人間界に戻る為の鍵を手に入れたと言う事です。つまり大規模災害が起こる可能性が発生したと言う事。


「では、大規模災害を抑える為の準備をする為に?」


 この状態になったらやる事は一つ。大規模災害を如何に弱らせるかになるので、各精霊界の力の有る精霊を集めて備えるのです。


「いや、違う。問題はその神器持ちの人間が精霊を襲撃しているのだ。」

「まさか、『厄災』になっているのですか?」


 『厄災』とは精霊界で一定の行動をする事で人間界に大きな自然災害を起こすモノの総称として使われていますが、今回の人間はそれに該当するようです。


「そうだ、神器で得た力で次々と力の有る精霊を消滅させている。」


 何という事で素か……人間界に戻る為ではなく、自分の破壊衝動を満たす為の神器化をしたと言う事ですか? このままでは精霊の数が減って別の方で異常気象等の大規模災害が起こってしまいます。


「兄上やレピスでも止められないのですか?」


「やって見ないと解らんが、神器相手に下手は打てない。確実に倒すために十分な戦力を用意しないといけない。」


 確かに神器の能力は特殊過ぎます。そして相性次第では相手の神器を完封する事も出来るのでその判断は間違っていません。


「後、問題なのはその人間の名前だ。」


「「名前?」」 


 ハッキネンと声が被りましたが、名前にどのような問題が有るのでしょうか?


「奴の名前は『工藤 龍一りゅういち』、そして弟を探していると言っていたそうだ。」


「工藤? 確かにタツミさんと同じ苗字だし、タツミさんも兄が居るとは言ってましたが、この苗字は今の日本なら多いから偶然の可能性が高い様な気がします。」


 そう言って可能性を否定しようとしたのですが、すぐにそれは否定されたのでした。


「残念ながら弟の名前は『工藤 辰巳』と言っていたそうだ。この前ハッキネンが面倒を見てくれと言われた人間では無いか?」


 私とハッキネンは顔を見合わせて言葉に出来ない感情を共有しました。信じられない? いや意外? 何と言えばいいのでしょうか? とりあえずタツミさんが動揺するのは間違いないと感じたのでした。


「確かに同じ名前。ただ、ポンコツは精霊使いとしての才能はほとんど無い。珍しいと言えば複数精霊と契約出来る位だから兄弟とはいえ意外過ぎると言うか……。」


「複数精霊と契約だと?」


 兄上が意外そうな表情をしています。確かに珍しいですが、その表情は驚きとは違う感じがしました。


「タツミはティルと命名契約しているのに私とも同調契約が出来た。複数精霊と契約は初めて見た。」


「久しぶりに聞いたな、過去にも数例有ったが……そうか、お前達はカナンとは会っていなかったな。」


 兄上が懐かしむ様子で言いましたが……その名前には少しだけ聞き覚えが有ります。


「カナンさん? 確かエル君の亡くなったお母さんの名前ですよね? タツミさんの様な体質だったのですか?」


「そうだ、クリューエルの母だ。カナンは火と光の2精霊と契約していた。しかも事情が少し複雑だったせいで可能だったのだが……今度はどう言った事情が有って可能になったのだ?」


 兄上は深く考え込みだしました。やはり複数精霊との契約は何かしらの原因が有るようですね。


 しかし一体何が原因でタツミさんはその様な力を手に入れたのでしょうか? 謎は深まるばかりです。


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