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第46話 力を合わせて

 俺達が広い空間に慎重に足を踏み入れると3層へと戻る空間が広がっていた。そして予想通りの所にメズキが待ち構えている姿が確認できた。


「やっぱり待ち構えてるんだな、位置的にも厄介な位置だな。」


 毒を飛ばして来るのに上の位置を取られているとなると防戦一方になってしまう。それに攻撃手段を先に見せると対策されてしまう可能性も高いから接近するまでは溶岩の使用は控えたいところだ。


「ルリは近くに居る感じはするか?」


 ルリが気を引いてくれればその隙に近づく事も出来るのだが見当たらないのでルーリアに確認をしてみる。


「近くに居るのは判るんだけど、正確な位置までは解らないんだよ。」


「ルリに気付いてもらうだけなら、私がエクスプロージョンを打ち込めば気が付くんじゃない? この距離なら飛び散っても毒は来ないだろうし! 近くに居るならそれで気が付くでしょ。」


 ティルはそう言うと同時に火の玉を発生させた。 


「ちょい待て、誰がやって良いと言った? 流石にダンジョン内でそれはやめろ! すぐに消せ!」


「え、弾は発生させたら打ち出す以外消せないわよ? 諦めなさい。」


 何言ってるのと言う顔で平然と言いやがった! 流石にもう後戻りできないのなら諦めて方法を考えるしかないが……後で覚えておけよ!


「撃ち出したらその混乱に乗じて走って近づくしかないか……落ちて来る岩に気を付けろよ。後、避けられらたらでメズキの後ろで爆発させろ。」


「そうそう、切り替えが大事よ……って確かにあの素早さなら有り得るか。了解!」


 あ~このドヤ顔してる奴を後ろから引っ叩きたい! コイツにこの感情を抱くのは何度目だろうか! ヒジリが中に居なかったらそろそろ叩いてる自信がある! 


「なぁ、そう言えばプロミネンスの時みたいに詠唱は必要ないのか?」


「ああ、あれね。あれはただのノリよ。出力上げるのに時間が掛かるから、それっぽくやっただけ! その方が雰囲気出るでしょ?」


「何だよそれ! どこぞの中二病かよ!」


 いたずら顔でティルが片目を閉じるのだが俺も反射的にいつもの調子でツッコむ。


 そう返すと同時に発射用の火球が炸裂する。弾は一直線に上層に居るメズキ目掛けて飛んで行く。




 メズキも音でこちらを振り返り、咄嗟に体をのけ反らせて回避する。相変わらずの反射速度だなと感心するが、最初から当たると計算してないので問題は無い。


「よし! 走るぞ!」


 俺とティルが走り出すとメズキが避けたエクスプロージョンが天井にぶつかる前に爆発する。


 メズキは真後ろで起きた爆発で壁まで吹き飛ばされた。そして天井からは、衝撃で小石が大量にパラパラと降って来た、大きな崩落は無さそうで安心した。


「二人とも神経耐性の加護を発動させて、神経毒だけでも効きづらくなるんだよ。」


 ルーリアがアドバイスしてくれた。そう言えばこの前買った装飾品にそんな効果が有ったなと思って精霊力を各々の装飾品に込めるとうっすらと何かが発動しているのを肌で感じた。


 俺らはそのまま一気に坂を駆け上がると3層にたどり着いた。メズキはこちらに気付くと体勢を立て直して漆黒の大剣を構え直した。


「さて、本体は先程の戦闘から考えると上半身は無い。すると下半身か? または一度倒した後に集合精霊化して上半身の方に有るか?」


「悩むんなら最大火力で全部溶かせば行けると思うんだよ。」


 的確な判断だが、そこまでの威力を出すなら無駄撃ちは余計に出来ない。どうするかと悩ませると、ティルが両手を広げて多数の火球を作っていた。


「タツミ、氷を単純に具現化して頂戴。」


 ティルの言葉と火球を見て即座に意味を理解した。俺はすぐに目の前直径30㎝程の氷塊を次々に自分の周りに発生させる。


 それを見てメズキも荒々しい鼻息を上げて漆黒の大剣を振り回して毒液を飛ばして来たのだった。


「行くよ、連携技って言うのかな? こう言うの?」

「知らんがさっさと撃て!」


 短りやり取りをすると、ティルは火球をひょいっと指先で投げて氷塊にぶつける。火球は薬莢やっきょうの様に爆発すると弾丸の様に氷塊をメズキ目掛けて吹き飛ばす。


 氷塊は毒液にぶつかりながらもそのままメズキ目掛けて飛んで行く。攻防一体の攻撃だ!


「次々行くわよ! どんどん出して!」

「ほらよ!変な方向に飛ばすんじゃないぞ!」


 軽快な掛け合いを続けながら次々と氷塊を作り出してはティルがそれを発射する。次々と飛来する氷塊にメズキも漆黒の大剣で撃ち砕いたり回避して対処するが防戦一方に追い込む。


 暫くしてティルは小型のフレアボムを紛れ込んませて爆発する。その爆発で漆黒の大剣は大きく跳ね上がり防御出来ない状態に体勢を崩す。


「甘い甘い! 同じ攻撃しか無いと思わない事ね!」


 間髪入れずにフレアボムがメズキの腹部に直撃して壁に打ち付ける様に吹き飛ばしたのだ。


「今よ!」

「解ってる!」


 俺は月虹丸を逆手に構えてメズキ目掛けて走り出す。距離はおよそ数十メートル程だが身体強化の加速で一気に距離が詰まっていく。


 そしてメズキの目の前で右足を大地にめり込む位の力で踏み込んで急停止して剣先の力をメズキ目掛けて解放しようとした瞬間だった。


 メズキが明らかに嫌な表情で笑ったのを感じた。背筋に悪寒が走るのを覚えて咄嗟に切っ先の力前方ではなく真下へ込めて力をを爆発させる。


「タツミ!」


 ティルが驚いた声で叫ぶが、理由は技の暴発ではない。俺とメズキが居た所が全て黒い球体の毒に覆われていたからだ。

 

 俺は咄嗟に足元を爆発させた余波で吹き飛ばされて何とか避ける事が出来た。

 そして立ち上がろうとすると右足に激痛が走ってその場に倒れ込んでしまった。よく見ると黒い液体が膝から下にこびり付いて皮膚を浸食していたのだ。


「避けきれなかったか……。」


 急いで毒液を氷らせてから砕いて取り除くが、足は肉が見える位に焼けただれていた。腐食の毒を受けた様だ。幸い神経耐性を発動させていたので痛みだけで神経毒の方は回って無い様だ。他の無事な箇所はしっかりと意識どうりに動いてくれる。


「つーか、何だよあの黒い球体? スライムか?」


 先程の場所にはメズキの原型は既になく、そのまま左右に揺れる様にたたずんでいる岩の様に巨大な黒い塊が居た。


「多分、メズキの姿は仮の姿でアレが本来の姿と言う事ね。擬態してずっと決定的瞬間を狙っていたと言う所かしら?」


 ティルが騙されたと言わんばかりの表情をしている。


「つまり、あのスライムみたいな物が本当の姿と言う事か……って本体どこだよ? やっぱり全部丸ごと溶かすしか無いのか? ミノタウロスもそうだったが集合精霊体の知能って高すぎないか!?」


「多分ね、と言うか治してる時間もおしゃべりを悠長に続けている時間も無さそうよ!」


 そう言ってティルは再び多数の火球を作り出す。それを見て俺も現状を察してすぐに巨大スライムの方を振り返りながら氷塊を作り出す。


 振り返るとスライムはブルブルと小刻みに震えると表面に拳大のイボの様な黒い塊が出来ていた。そしてすぐにそれらを辺り一帯に広範囲に射出して来た。


「休む間も無しね! まぁあっちも切り札を出したんだから出し惜しみしないわよね!」


 ティルがそのまま氷塊を発射させてスライムが飛ばして来た毒液を撃ち落としていく。先程と同じ攻防が続く様に見えた。


 しかし実際には明らかに向こうの手数の方が多い。剣を振り回すモーション無しでブルブルと震えるだけで次々と弾を飛ばして来るのだから数の差が尋常ではない。


「ちょっとこのままだと明らかにジリ貧よ! どうするの!?」


 ティルが段々と押されている状況を理解して作戦を求めて来る。しかしこの状況では打つ手が思いつかない。氷塊を作るので精一杯で足の自己治癒もままならない位なのだ。


「そろそろ反撃のタイミングが来る筈だよ。準備しておくんだよ。」


 ルーリアが何かに気が付いたのか、俺達に伝えて来る。そしてその意味を即座に理解する。


 ルリが奥の通路から盾を構えながら走って来るのが見えたのだ。ルリは烈震衝を地面に打ち込んで鎖の長いモーニングスターを取り出した。


「苦戦している様だね! 毒スライムかい! 毒は何とかしてやるよ!」


 叫ぶとモーニングスターの鉄球をスライムの頭上の天井に打ち込んでめり込ませた。そして次の瞬間に鎖がみるみる短く圧縮されていく。そしてルリの体はスライムの真上に放り出されたのだ。


「毒を浄化してやる! タツミのあんちゃんはこいつに攻撃しな!」


 ルリはスライムの上に盾を構えて落下すると、盾から白い光が漏れ出してスライムが苦しんでいる様に小刻みに震え出して攻撃が止んだ。


「ヒジリ、足を急いで治療してくれ。もう一度やって見る!」


 俺はそう言って月虹丸を杖に様にして地面に刺して何とか立ち上がる。すると背中にティルの体温を感じた。


「ティル? 何をしているんだ?」


 首だけ振り返るとティルが背中合わせに俺に体を密着させていた。


「治している時間は無いわ。私が足の代わりになるからタツミは攻撃に集中して。」


 そう言うとティルは両手を構えて火球を作り出した。意味を理解して俺は無言で踏ん張りの効く左足を前にして逆手で月虹丸を構える。


「行くわよ!」

「ああ、来い!」


 そう言うとティルが火球を炸裂させて《《俺達を》》弾丸の様に吹き飛ばした。


「ルリ! 避るんだよ! 必殺技が出るんだよ!」


 爆発と同時にルーリアがルリに向かって大声で叫んでいた。俺達はその声を追い越す勢いで加速していく。


 月虹丸が火柱を上げながら地面をえぐり力を蓄積させていく、刀を落とさない様に右腕は限界突破を使って異常な加速に耐える。


 一瞬でスライムの目の前に届くと、左足を地面に踏み込ませて限界突破を使って有り得ない加速の力を急停止させる。止め切らないと俺達まで自分の技で巻き添えを喰らってしまうからだ。


 ルリは既にこちら側に飛んで回避をしていた。これなら大丈夫だ! 俺全身全霊を込めて月虹丸に溜まった力を開放する!


「喰らえ! 地摺りざんげぇぇぇつ!」


 俺の絶叫と共に刀が地面から引き抜かれて前方のスライム目掛けて大量の溶岩が勢いよく射出される。噴き出した溶岩が巨大なスライムを覆い隠す様に襲い掛かった。


 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!


 焦げる音を響かせながら黒い煙を出してスライムが燃えるように溶けていく。


 俺は月虹丸を杖にして何とか立ち、ティルは両ひざに手を当てて肩で息をしている。お互い力を出し切って立っているのがやっとだった。


「後は本体である結合結晶が露出してくれば、それを斬って終わりだな。」


 そう言って俺はティルの方に拳を突き出す。意味を察したティルも拳を出して軽くコンッっと拳を合わせた。


「こういうのも悪くないわね。」


 ティルが屈託のない笑顔を見せて来た。ああ、こう言うのも悪くないなと思っていると、スライムの3分の2程が溶けた所で結合結晶らしき物が視界に入った。


「アレを斬れば……。」


 そう言って月虹丸を構えようとするが、右足に力が全く入らない。左足は激痛が走るが何とか動かせる。しかし前に進まない。


 するといつの間にか表に出ていたヒジリが肩を貸して俺を支えてくれた。


「ああ、あ、アルセインも限界だったから……」

「ありがとう、助かるよ。これが最後の一閃だ。」


 間合い迄肩を貸してもらい、残っていた精霊力を月虹丸に込めて結合結晶を左腕一本で一閃すると、真っ二つに結合結晶は割れて霧散した。そしてその霧は月虹丸へと吸い込まれていったのだった。


 それを見届けるとヒジリは大の字に地面に倒れると俺も支えを失って同じく倒れた。ヒジリも生命力をだいぶ消耗したのだろう。


「あ、ごご、ゴメンナサイ! つ、つい力が抜けて……」

「大丈夫さ、むしろヒジリが居てくれなかったら勝てなかった。ありがとう。」


 そう言ってティルとやったように拳を伸ばすと、ヒジリは嬉しそうに拳を合わせて俺達は笑顔で笑いあった。


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