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第44話 心の同調

 「タツミ君! 起きて! 大丈夫!?」


 ヒジリの声がする、そんなに大声を出さなくても起きるから安心してくれと心の中でつぶやくが、段々と意識を引き戻されると同時に体中が地面打ち付けられた時の痛みを思い出したのだった。


「痛たたた……ヒジリは大丈夫か? 状況は?」


 重いまぶたを開けながら聞き返すと、ヒジリの涙目になっている顔が至近距離に映し出されたのだ。


「よよ、良かった! ら、落下の時に私を庇って下敷きになっちゃったから心配したの……」


「あ、そうだったのか……と言うかヒジリ。顔が近い。」


 吐息が掛かるくらいの至近距離でそんな顔されたら反応に困るのでもう少し距離感覚を覚えてください……ってこの光景何かデジャブが……。


「私の時はデコピンしたくせに、ヒジリには本当に甘いわよね。」


 ティルが不満そうにつぶやくと思い出した。やっぱりティルとヒジリは何となく行動が似ているなと改めて思う。


「ああ、あの、ごめんなさい。こ、呼吸しているか不安でつい……。」


 そう言いながらヒジリは慌てて顔を離して立ち上がった。照れ屋の筈なのに、たまに大胆になるよねヒジリさん。


「心配かけてすまない。ルリとルーリアは?」


 改めて周りを見回して状況を確認すると、あんまり宜しくない状況なのが一目で判ってしまった。俺達の周りには罠の黒いシミが大量に湧いていて下手に動けない状況になっていた。


「私達の近くの罠はルーリアが何とか処理してくれたのだけど。」


 ヒジリはそう言うと視線をルーリアの方に移す。俺も視線の先を確認してルーリアを視界に捉えたが何とも言えない光景だった。


「こっち来るな! このままじゃ、ストックしていた不要な武具も無くなっちゃうんだよ!」


 ルーリアが地面から収納していた武器や防具を取り出しては罠に投げつけて強引に罠を除去していた。しかしその様子は腰が引け過ぎていて、何とも滑稽な姿に見えてしまうのだった。


「ルーリア! すまない。意識が戻った。ルリの方の事は何か解るか?」


「あ、起きた! 良かった~。そろそろ手持ちが心許無くなってきてたんだよ。」


 俺の声が聞こえるとルーリアは安堵の表情を浮かべてこちらに駆け寄って来た。何と言うか今まで見た事の無い表情で、意外と年の割には甘えん坊の様な雰囲気を受けてしまった。


「ルリは大丈夫。多分3層に取り残されているけど土の精霊術や、あの盾が有ればあの程度の崩落なら何とか耐えれる筈だし、生きているのを感じるから大丈夫だよ!」


 今までの無口とは印象が違う位ハキハキと喋って来た。何か違和感が有る気がするが、ハッキネンの様に慣れて来てから素が出るタイプなのか?


「問題はヒジリだよ。この4層で体調に変化は無い? 正直に答えるんだよ?」


 そう言ってルーリアはヒジリの方は向くと嘘は許さないと言った顔で見据えて問いただしたのだった。


「そうね、ここで嘘は良くないわね。正直に言うと体の異変を少しづつ感じてるの。長時間の行動は厳しいと思うわ。」


 ヒジリが困った顔で言う。確かにこの場で俺達が同化出来るのはティルだけだ。交互に同化してもメズキが来た時に戦闘となるとお手上げになってしまう。


「解ったんだよ。正直に言ってくれてありがとう。私も覚悟を決めるんだよ。」


 そう言うとルーリアは真剣な表情で俺の方を向き直して説明を始めた。


「多分、私は《《タツミっちと同化出来る》》と思う。いや、正確には《《タツミっちなら私とも同化出来る》》が正しいと思うんだよ。」


「どういう事?」


 ティルが真っ先に聞き返す。これは同じ精霊からしても意味が良く解らないのだろう。俺なら出来るってどういう事なんだ?


 だがその前に待て、何だ? いつの間にかタツミっちで固定されてないか? 流石にその呼び方はどうなんだ? どこぞのおもちゃの名前か? ツッコむだけ無駄だろうがルリといい、普通に呼べないのかこのコンビは。


「ルリの推察だけど。同化を試した時に手を火傷したよね? 反発作用が働くから負傷したのであって、同化出来る可能性が有るからこその反発作用だと言っていたんだよ。」


 確かに何も起きないなら、あんな火傷をする様な事態にはそもそもならない訳か。


「そ、それってタツミ君が何かの特異体質か、知らないうちにそう言う精霊術か何かを得ていたって事?」


 ヒジリも意味が解らずに質問が増えるが、ルーリアは解らないものは解らないと言ってあくまでルリの推論でしかない事を伝えて来た。



「つまり、この現状をどうにかするには俺とルーリアが同化出来る可能性に賭けるしか無いと言う事なのか?」


「そうなるんだよ。そしてルリが言ってたのは心のベクトルを合わせる必要が有るとも言っていたんだよ。」


「心のベクトル?」


 俺が意味が良く解らずに聞き返すとルーリアも少し困った顔をしていた。しばらくしてヒジリが「あっ」と声を上げて推論を話し始めた。


「もも、も、もしかして心のベクトル、ほ、方向性と言う事だから。同じ目標とか、感情を共有させると言う事じゃないかな? ハッキネンの時はお互い死後の世界が有ったらヨロシクって言って二人で笑ってたんでしょ? それって同じ感情の共有、心のベクトルが一致したとも言えるのじゃないかしら?」


 言われてみればあの時は二人で死を覚悟していたな。感情の共有と言えば確かに共有だな。


「言われてみれば推論は当てはまるが。試しにヒジリが同じことが出来ないかルーリアで試してみるか? 俺の時の様になるか、同化出来れば俺だけじゃなくて誰でも出来ると言う事になるし。」


 逆に俺以外が出来るかの方が気になって来た。何か自分が特異体質だとしてもこの能力のメリットが良く解らない。だって出力を上げる為の生命力が弱いから宝の持ち腐れ感が凄い。


「そ、そうだね、試しにやって見ましょう。ルーリア、ルリを助けたいと言う気持ちで心のベクトルを合わせてみよう。」


 ルーリアはコクリと頷くとヒジリの正面に立って手を握る。


「ルーリア=ミアレス。ヨロシクお願いします。」


「ヒジリ、こちらこそお願いするんだよ。」


 二人があの時と同じセリフを言うが何も起きる気配は無いまましばらく時間が過ぎた。


「やっぱり私じゃ出来ない様だわ。」


「うん、あの時はもっと違う何かを感じたのを覚えているんだよ。それに恐怖を感じて拒否する感情が出たらこの前みたいになったんだよ。」


 ルーリアが改めて何か違うものを感じていたと言うと、やっぱり何か俺の体質が特殊なのかと思って複雑な気分になる。


「タツミ、私は不安の感情が嫌いって言ったわよね? そんなに悩まないで強くなれるチャンスだと思いなさいよ! 刀に名前負けしない! 月が光ってるのは誰かの助けが有るからでしょ! それでも良いじゃない!」


 ティルがこちらの感情を察して励ましてくる。どうしてコイツはこういう時に言うセリフが的を得ているんだろう。悔しくもなるが事実だ、受け入れようじゃないか。


「ティル、分離するぞ。ヒジリの方を頼む。」


 俺は覚悟を決めてティルと分離した。ティルは黙ってヒジリの方へと行きすぐに同化を済ませる。それを見届けて俺はルーリアと再び向き合った。


「ルーリア=ミアレス、よろしく頼む。ルリと合流してメズキを倒すぞ!」


「うん! 解った、必ずだよ!」


 そう言ってルーリアを手を握った。すると今度は握った手が温かい光に包まれるのを感じた。そして次の瞬間ルーリアはうっすら光ったかと思うと土埃に姿を変えて俺の中へと吸い込まれていった。


「同化……した。やっぱりルリの推察は当たってたんだよ。」


 ルーリアの驚きを隠せない表情が浮かんで来た。俺も正直驚いたが、まずは現状を把握し直すことにする。


「ルーリア、土の精霊術はどんなものが有るんだ?」


 精霊術の再確認だ、多分俺には鍛冶スキルは無いからもっと別な力の使い方を考えないといけない。


「土の基本は『土壌操作』『物質硬化』だね、もっとも他のスキルが有るとそちらにキャパシティを取られると基礎的な能力も大して使えなくなるんだよ。私の様に。」


「ナルホド、ルリの烈震衝や、即席模倣鍛造インスタント・クリエイトは土壌操作の力か、武器の硬度等は物質硬化で強めている訳だ。」


 能力を聞いてルリの能力に納得する。この前のゴーレムもこの二つの組み合わせと思えば納得できた。


「ルリが言ってたんだけど、多分タツミっちの本領は複合属性技って言ってたんだよ。氷と火属性を同時に使えたんだよね? 相性最悪のを使えたんなら他の属性が入れば全く可能性が変わるって言ってたんだよ。」


「同時発動は反発作用が酷過ぎて出来れば使いたくないんだが?」


 同時使用での反発による激痛を思い出してげんなりした気持ちになる。


「それは属性の相性が悪かっただけなんだよ。試しに土と火で使ってみれば良いんだよ。何か有ってもヒジリが居るんだよ。」


「よし、やって見るか。月虹丸にはティルの精霊力がだいぶ溜まっているから負担も少ないだろうしな。」


 そう言って俺は月虹丸を取り出して周りの罠を排除できるイメージを考えてみるのだった。


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