第42話 土の集合精霊
「ヒヒィィィーーーーン」
3層の奥の方から馬の鳴く様な咆哮が聞こえて来た。牛の次は馬ですか?
「なぁ? ルリさんよ。これって土の結合結晶を探しに来たんだろ?」
俺は目の前を陽気に進むルリに聞いてみると隠す様子も無く答えて来た。
「当り前じゃないか、結合結晶の性質を考えればお互い引きあうんじゃないかと思っていたのさ。正直見つかるかどうかは運だろうけど!」
クソが! この人もやっぱり土の精霊使いだけあって鍛冶馬鹿だ!
「タツミ、諦めなさい。こうなったら腹をくくって手に入れに行くわよ!」
ティルまで気合を入れて来たが、だからお前のそう言うポジティブな所は要らないと前も言った記憶が有るんだが? むしろヒジリの様に心配してくれた方がずっと気持ち的にも良いんですが!
「で、でも、ささ、さ、先程の鳴き声の精霊が結合結晶を持っているとは限らないんですよね?」
ヒジリが当然の質問をしてくる。集合精霊体が持っていると言う事になるのだろうが、今回は発生を確認した訳では無いので確証は無い。
「その時は4層まで降りるだけさ! 一応単独で4層までは行った事が有るからね! 安心してついて来な!」
そこまで行くと俺とヒジリが耐えられる保証が無いのですが? この人周りの情報入ってる? 大丈夫か?
「ヒジリは3層の時点で体調は大丈夫そうか?」
「ま、まだ平気です。む、無理はしないから安心して。前回ので無理をすると危険なのは知っているから。」
そう言うとヒジリはこちらの心配そうな顔で見て来る。前回は4層で既に危険な状態だったから冗談でも5層なんて行きたくないし、ヒジリの体調も気になる。
だって、絶対にヒジリは気を使ってティルを俺に寄越したままにするのが明白な気がする。自己犠牲が強い気がするのでそれも気を付けないといけない。
「ねぇ、タツミ。その感情を素直にヒジリに伝えてあげたらどうなの?」
ティルが俺にだけ聞こえる様に言って来た。
「そんな事、言ったら余計に気を遣わせるだろ。言わないのが正解だよ。」
小声でティルに返事をして奥へと歩を進めた。
「ん~そろそろかね? この先を曲がった辺りに居そうな雰囲気なんだが。」
ルリが足を止めると間近で馬の咆哮が聞こえて来た。どうやらこの先で待ち構えている様だ。
前回のミノタウロスも3層と4層の所で待ち伏せしていたのを思い出す。
あの時は俺達を待ち伏せしていたんだよな? 何故に集合精霊体はあの時は俺を執拗に狙っていたのだろうか? 何か理由が有る筈だ、偶然で片付けていると後でとんでもないしっぺ返しが来る予感がする。
「とりあえず、集合精霊体が相手だと俺じゃ単独で相手なんて出来ないぞ?」
念の為にルリに警告しておくが、この人は単独でも倒せそうな気がする。
「その時は私が盾になるって言ったろ? まずはやってから考えるんだよ!」
いや、やって見てダメだったらどうすんだよ! 命掛かった戦闘なんですが!?
ツッコむ間もなくルリは角を曲がり声が聞こえた方へと駆けて行く。そこには俺らより一回り程大きいミノタウロスの頭が馬バージョンの何かが居た。手にはゆうに2メートルは有りそうな大剣を持っている。
そしてその後ろには4層へと降りる坂道が有る空間が広がっていた。またここの位置かよと思ってしまったのは言うまでもない。
「なぁ、アレって何て呼べばいいんだ?」
相手はこちらを威嚇して戦闘態勢に入っているが、何と呼べばいいか悩むフォルムで頭を悩ませてしまう。
「日本風に言うなら馬頭鬼じゃないの? 洋風に言うならオロバスって所じゃないかしら?」
確かにミノタウロスが日本風に言えば牛頭鬼なのでそちらもしっくり来る。オロバスだと舌を噛みそうなのでメズキにしよう。
「ね、ねぇ、そそ、そんな事を悠長に考えている場合じゃ無いような……」
ヒジリが冷静にツッコミを入れて来るが呼び方は大事だ。いざと言う時に認識のズレで行動を間違えても危険だからだ。
「とりあえず、アレはメズキと呼ぶことにしよう。確かあんな感じの悪魔をゲームで見た記憶が有るから。」
「まぁ、何でもいいけど、そろそろ戦う準備をしな!」
そう言ってルリは盾を構えてメズキに少しづつ、すり足で近付いて距離を詰めていく。
「ミノタウロスほど大きく無いから、集合精霊体では無さそうだな。」
俺がそうつぶやくと、ルリは残念そうなため息をついて烈震衝を発動した。
「だったらさっさと終わらせよう、即席模倣鍛造!」
ルリは十数本の剣を作り出してメズキ目掛けて飛ばす。メズキは反応して両手で大剣を振り回して半数近くを撃ち砕くと残った半数はメズキに刺さらず後ろの地面に刺さった。
「しっかり防がれてる様なんだが?」
「だから言ったろ? 私は防御の方が得意だって。 攻撃は任せたよ。」
平然と攻撃は任せたと返事が帰って来やがった! 自分で行くと言ったんだから自力で何とかして欲しいんですが!
「仕方ねぇな、ヒジリもう少し下がっていろよ。」
俺は頭をかきながら前に出て月虹丸を構える。刀と大剣の勝負だとリーチが短いこちらが不利だ。受け流しつつ前に出るしかない。
メズキは大剣を右脇で構えて横薙ぎの姿勢をしている。どう捌いたものかと少し考えると、メズキは勢い良く踏み込むと俺の手前まであっと言う間に間合いを詰めて大剣を振り抜いて来た。
速い! 油断した! そう思った次の瞬間、鈍い金属音が俺の前で響いた。ルリが俺の目の前に入って大盾でメズキの攻撃を防いだのだ。
「ほら!今のうちに攻撃しな!」
俺は咄嗟に空いているメズキの左側に回り、メズキの首を目掛けて月虹丸に火の精霊力を込めて振り抜いたが、メズキは上体をのけぞらせて首をかすめただけだった。
俺は刀を返してそのまま袈裟斬りで振り下ろす。しかしそれもメズキは華麗に身をよじらせて躱すと、後ろに下がって一気に間合いを元に戻した。
「大きさよりも身軽さが厄介なパターンだな。」
あまりの身軽さに驚いていると今度はポンポンと軽く跳ねたかと思った次の瞬間、再び物凄い勢いで間合いを詰めて大剣を振り下ろしてきたのだ。
俺は咄嗟に横に飛んで攻撃を回避するが、大剣は地面をえぐり飛び跳ねた小石で視界が悪くなる。そのままメズキは地面にめり込んだ大剣を俺に向けて軽々と振って来た。
「反応が遅いよ! ぼさっとしないで相手の速度に早く慣れな!」
ルリが叫びながら俺の前に出て来て、メズキの大剣を盾で防ぐとそのまま大剣を押し返す様に弾いた。
「すまない、助かった。」
「良いかい、大剣と刀では相性が悪いから真っ向から打ち合おうと思わない事だよ。いくら月虹丸に自己修復機能が有ると言っても刃こぼれレベルだけだ。折れたら打ち直しだからね?」
「わかっている! ちゃんと受け流す。」
俺は月虹丸を中段で構え直した。メズキは体勢を直すとすかさず今度は横に飛んで俺達の側面に回ると再び突進して来た。
今度は見える、横薙ぎしてくるメズキの大剣に浅く斜めに当てる様にこちらも月虹丸を振る。
当たる感触を覚えた瞬間に左手を離して刀身の峰に添える。右手の手首を柔らかく使って力の方向を斜め上にずらしつつ自分の体は大剣の下を通る様に身をかがめて回避する。
大剣を流されたメズキは体勢を大きく崩してよろけた所をガラ空きの腹部に爆発を付与した月虹丸を振り抜き去る。
そして一拍置いてメズキの腹部から大きな爆発が発生した。
「流石にこれで終わりかな?」
勝ったとは思うが油断せずにメズキの方を注視していると、ルリが隣にやって来て周りを警戒している。
「何か、段々と様子が変になって来ている。こう、龍穴からの敵意? みたいなモノだ。」
「龍穴からの敵意?」
何だそれ? そんなありがたくない物は要らないんだが。ルリの緊張感が伝わって来ているので軽口を叩こうにも場違い感がある。
「何と言うか、口ではうまく言えないんだが。龍穴の罠が集まって来ていると言った方が良いのかも知れないね。」
どういう事だ? 罠が集まって来ている? 嫌な予感しか無いのですが!
そんな事を考えていると爆発の土埃が収まり、腰から上が吹っ飛んだメズキの残骸が見えて来た。その姿をみて安心したのもつかの間、ある違和感に気が付く。
「霧散しない……?」
「嫌な予感が当たったわね。多分あれは集合精霊体だけど、まだパーツが集まりきってない状態みたいだわ。」
ティルが嫌な事を言って来た。パーツが足りてないってどういう事だよ! 今の状態でもあのスピードとパワーは十分厄介だったんだが!
「来たよ! 気を付けな!」
ルリが叫ぶとダンジョンの天井や壁、地面からもたくさんの黒いシミが現れるとメズキの残った体に集まって行くのが見える。それとは別に、付近に下位精霊が発生する時の人魂みたいなモノも発生し始める。
「なぁ、集合精霊体ってダンジョンの罠とかも結合するのかよ?」
「結合結晶は精霊力を吸収だから、ダンジョンで発生している罠も精霊力と認識すれば吸収は可能なんじゃないかい?」
俺の疑問にルリも厄介そうだと言う顔をして答えて来る。流石にここまでは想定外だったのだろう。
「あの速度だ、逃げれば背中を撃たれる。やるしかないよ! 気合を入れな!」
ルリの声に緊張感が混じる。俺も再び気合を入れ直すと第2ラウンドが開始される。




