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第39話 銘刀に名前を

 そして三日が過ぎて装備の完成を迎えた。


「さて、後は銘打ちだが名前は決めたのかい?」


 ルリに聞かれるが、武器の特性も見た目も解って無いのに名前を付けるにもイメージが湧かなかった。


「一回見せて貰ってからでも良いか? 見た目でインスピレーションが湧くかもしれないから。」


 そう言うとルリは頷いて柄が付いてない剥き出しの刀身を俺に見せてくれたのだった。その刀身は綺麗な波紋が入っており、この前見た日本刀と変わらず芸術美の有る刀だった。


「ん~これだけだとやっぱり湧かないか、ちなみに何か特殊な加護や能力が有ったりするのか?」


 相変わらず頭を悩ませる。良い答えが出て来ないのでルリに質問するとルリは楽しそうな顔で説明を始めたのだった。


「そうだね、この刀の特徴は結合結晶を利用した事による持ち主の属性の精霊力を刀身に『蓄積』する事が出来るという事だ。さらに結合結晶の復元能力みたいな物を刀身にも利用しているので蓄積した精霊力を利用して刃こぼれも『自動修復』するのさ!」


 え? なにその奇妙な刀? 勝手に精霊力を使って自己修復? どんな妖刀だよ!


「何かそこまでの説明だと妖刀と言った方が良い様な性能だな……。」


「ちょっと、私が打った刀を妖刀なんかにするんじゃないよ! 後は私の方で付与した加護は『放出』だよ。結合結晶の『吸収』の性質を利用しやすくする為にね。」 


「つまり蓄積しておいた力を使って強い精霊術が使えるという事か?」


 これは便利そうな能力だと思った。が、しかしすぐにそれは考え直させられた。だって俺の術って『放出』系の能力が弱すぎるんだもん。


「いや、持ち主の俺が弱いとあんまり意味の薄い能力だな……。」


 そう言うとルリは何を言っているんだという顔をして俺に説明を続ける。


「ちゃんと説明は聞きな。持ち主の精霊力は『蓄積』だ。『吸収』の性質を忘れるんじゃないよ。」


 え? 何? これってドレイン系の能力が有るの? それってかなり鬼畜な能力と思うんですが。


「もちろん『蓄積』した力も『放出』は出来るが、メインは『吸収』の方さ。アンタの多重契約の体質を利用したね!」


「と言うと?」


 俺は意味が理解できずにルリに聞き返す。


「吸収するにもあんちゃんの精霊力との波長が合わないとこの刀は吸収できない。つまり、今の時点でこの刀はティルとハッキネンの力を吸収・蓄積が出来るという事さ。」


「つまり、ティルやハッキネンに精霊力を込めて貰えばそれを放出して利用できるという事なのか?」


「理屈上はね? 後は実践してみないと解らないね。という事で銘付けしたら早速試し斬りに行くからね!」


「え? 試し斬り?」


 俺がキョトンとしているとルリは俺の背中を豪快に叩いて言ってきた。


「当り前だろう! 私も付いて行くから龍穴で試し斬りをするからね! 下位精霊相手に試さないと実験にもならないからね。」


 俺はな~んか嫌な予感に襲われつつも、拒否権が無い事を悟って諦めた。


「さぁ、では銘付けしようか。名前は決まったかい?」


「解った、ではこの刀は「月虹丸げっこうまる」にしよう。仲間の力を借りて色々に光る月の様な刀と言う意味で。どうだろう?」


「月虹丸か、良い名前じゃないか。では銘を刻むよ。」


 ルリは満足そうに言って銘を刻み始めた。俺は自分の専用武器と言うフレーズだけでも興奮していたが実際に銘を打ち込まれて行く所を見ると余計に胸が高鳴る物があった。






 そして柄の部分が取り付けられて鞘に収まった月虹丸を俺はルリから受け取ると、ルーリアが一緒に黄土色の石がはめ込まれたブレスレットを渡してきた。


「それは私の能力の加護を与えたブレスレットだよ。月虹丸限定だけど、タツミっちの意思で出し入れ可能になるんだよ。」


 そう言われて俺はブレスレットを空いている左手側に付けると、この前買ったブレスレットと同じく形が変わって腕に巻き付いてピッタリのサイズになった。俺はビックリしてルーリアに確認する。


「これって、伸縮金属ってのを使ってるんだろ? かなり高価じゃ無いのか?」


「ん? そこそこ高価だけど、この前の特級原石の方が高いから気にしなくて良いんだよ。」


 そう言うとルーリアは静かにルリの隣に行った。そしてルリと手を繋いで同化して姿が見えなくなる。


「まぁ、あいつ無口だからあんまり喋りたがらないが、そのブレスレットはルーリアもかなり気に入った相手にしか作ってやらない特級品さ。特級原石でかなり感謝してたから受け取っておくれ。」


 そういう事なら遠慮無く受け取っておこう。でも俺の意思で使えるというがどうやって使うのだろう? 試しに左手で月虹丸を持って収納しろと念じてみる。


 次の瞬間、月虹丸の姿が跡形も無く消え去ったのだった。そして今度は出てこいと念じるとすぐに左手の中に月虹丸が現れた。


「おぉ、これは持ち歩きに便利だ! 凄いな!」


 俺が軽く感動しているとルリが意地悪そうな顔で教えて来た。


「ちなみに、その特級品は普通に買ったら、あの特級原石の数倍は積んでも買えない品だから大事に使いなよ。」


「え?」


 俺は相場を聞いて青ざめた。積んだら買えるじゃなくて積んでも買えないと言ったのだ。つまり超高級の非売品と言う事かよ! 逆に心臓に悪い逸品だなこれは!


「さて、みんなの所に行って龍穴に行く面子を決めるよ。」


 ルリは工房から家の方へと歩いて行く。俺も慌ててそれについて行ったのだった。





「さて、皆居たね。ではこれから試し斬りを兼ねて最寄りの龍穴に行くんだが、今回は面子を私の方で指定させてもらいたい。」


 全員がテーブルを囲んで椅子に座るとルリが議長張りに話し合いを開始した。と言ってもハッキネンとティルはどちらも同化中でリィムとヒジリの中からの参加だが。


「全員で行くわけでは無いのですか?」


 リィムが疑問の声を上げた、効率を考えたのなら全員で行った方が余計なリスクを背負わなくて済むからだ。


「そうだね、土のダンジョンは状態異常系の地形が多い特殊な環境なのさ。だから全員で行くとフォローしきれない。火の龍穴は行っただろうから判るだろうが、アレは継続ダメージを受ける仕様だっただろ?  それと似た様に危険な所なのさ、よくハッキネンは生きて帰って来たものだよ。」


 何? 何その仕様? 俺ら何も聞いてないぞ? もしかしてハッキネンの奴、知らないで火のダンジョンに行ったのか?


「私には程よい温泉の様な感じで良かったんだけどな~。」


 ティルが間の抜けた声で言って来たが、ダメージ系が温泉の様っていくら火属性のお前でもおかしいだろ! もしかしてドMか!?


「その発言はどうかと思うが……火属性でも精霊力酔いする位には気持ち悪くなる筈なんだけどね。人間にも濃い精霊力は毒になるけど、それが平気なら能力自体が余程高いんだろうね。」


 ルリが呆れているがティルはともかく、確かにリィムも平気そうだったな。二人とも能力が高いのは納得せざるを得ない。


「それで、あそこに居る時は消耗が激しかったのか。」


 ハッキネンが小声でつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。やっぱりコイツ知らないで入ったのかよ! でなければあんな危険に巻き込まれる事も無かったのに!


「ハッキネンも知らなかったのですか? かなり命知らずな行動をしていたという事ですね……。」


 リィムが冷静にツッコむ。そりゃそうだろう、下手すりゃ消滅するだろうに。


「いい勉強になった。次はもう行かない。」


 そもそも調べてから行けよ! どうりで火の精霊さん達が行かなくても良いと言う訳だよ! コイツのコミュニケーション能力も欠陥的だな!


「ポンコツ、文句が有るなら表で聞くぞ。」


「表じゃなくてもここで文句言ったるわ! お前もう少し人の話を聞いて情報を集めやがれ! それで消滅しかけるとかバカか!」


「おい、バカとは失礼な! 誰のおかげで生き残れたと思っている?」


「そもそもお前が調べておけば、龍穴に行かずに済んだんだろうが! 情報不足で仲間を殺しかけるとか一番ダメだろうが!」


 俺とハッキネンの言い争いが始まったが、それはルリの不機嫌そうな声ですぐに止められた。


「はいはい、ガキの喧嘩は後にしな。それよりも行く面子を決めると言っただろう? 黙って聞きな。」


 俺とハッキネンは圧に負けてそのまま黙る。


「まずは試し斬りだからタツミのあんちゃんは連れて行く。それに私もルーリアの新作の盾を試すから行く。ここまでは良いかい?」


 3人ともここは頷いてルリの話が続く。


「そして何かあった時の回復役としてヒジリちゃんには来てもらおう。そうなるとティルもセットとなる。」


ここでリィムが嫌そうな顔をする。


「もしかして私が留守番ですか?」


「そうだよ、リィムの戦闘スタイルはあそこには向かない。地形による状態異常付与が有るから罠を設置した時に状態異常になる可能性が高い。だからアンタは留守番だ。」


「私はどうする? 留守番?」


ハッキネンが声を上げるとルリはそれを肯定する。


「そうだね、タツミのあんちゃんの単独の実力での月虹丸の実験だからハッキネンも留守番だ。」


「解った。リィム、今回は諦めろ。」

「解りましたよ、今回は素直に留守番して待っています。」


リィムは不服そうだが納得して留守番をする事になった。


「では行くとするかい。場所は東の採掘場の奥の方だよ。さっさと出発しようじゃないか!」


 ルリの掛け声とともに立ち上がり、俺とヒジリも続いて立ち上がる。自分の武器を試すと言う心の高揚感が何とも言えず抑えきれなかった。


「本当に大丈夫なのかしら?」


 ティルの嫌なつぶやきが聞こえたが、聞こえなりフリをしておこう。


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