第37話 プロミネンス・エクスプロージョン
「さて、デカブツ! そんなんじゃいつまで経っても俺を追い払えないぜ?」
俺は目が合ったと認識したのですぐに挑発してみる。
「もう一人の精霊はまた隠れたか、ちょこまかと煩いハエだ。」
やっぱりリィムの方を警戒されている。ゴーレムは俺を脅威と見てないのだろう、周りを見渡してリィムを探している様だ。どうやってこちらに注意を引き付けたものかと悩むと付近にとある物が転がっているのを見つけた。
「おっと、お前の攻撃のおかげでここら辺に有った宝石の原石が随分と掘れたぜ。」
そう言って俺は辺りに散らばっている原石を何個か手に取ってゴーレムに見せつけてやった。
「貴様! ここの宝石は渡さないと言ったはずだ!」
ゴーレムは宝石を見ると我を忘れたように再び俺に殴りかかって来た。
「こいつ単純だな……、ミノタウロスの方が知能が高くないか?」
呆れつつも攻撃を回避しながら再び逃げつつも離れ過ぎずをキープして相手を挑発し続ける。リィムが土煙に隠れながら罠を設置しているのを確認しつつ時間を稼いだ。
「どんなに図体がでかくても動きが遅ければ当たりはしない! ほらほら、また宝石の原石を回収できたぜ?」
そう言って原石を拾っては背中のリュックに入れて背負い直す。その様子を見てゴーレムはさらに怒りを増して俺を執拗に狙って来る。
「調子に乗るな! 追い払うだけと思ったが許さん! 殺してやる!」
ゴーレムは土の棍棒を作り出して両手でバットを振るような構えをした。
「あ、いきなりそんな攻撃して来るのか?」
俺は横薙ぎの攻撃が来ると解ったが、棍棒も大きさと長さが尋常ではない。走っても射程からは逃れられないだろう。身体強化で飛び越えるしか無いと判断した。
「死ねぇぇぇ!」
ゴーレムは気合を入れて棍棒を横薙ぎに振った。俺はそれを跳躍して躱すと、目の前のゴーレムに新しい腕が生えていた。そしてその腕で平手打ちするように俺に腕が近づいてきた。
「だよね、ゴーレムが腕2本だけって決まってる訳無いもんな。」
直撃の前に氷刀を咄嗟に具現化する。そして近づくゴーレムの手に氷刀を刺すと同時に爆発させて、その推進力を利用して何とか逃げれたが……
「ち、やっぱり同時使用は副作用が酷い。両手が……。」
直撃は避けたが俺は勢いよく吹き飛ばされたて近くの岩に激突した。むしろそのダメージよりも氷と火の同時使用による両腕の痛みの方が深刻だった。いくら直撃回避の為とは言え、氷刀に爆発を付与するのは今後は考える様にしよう。
「一撃で虫の息じゃないか、もう終わりだな。もう一人のハエも潰してやるよ。」
そう言うとゴーレムは棍棒を再び構えて横薙ぎに振ろうとする。
「これで終わりだ!」
そう言ってゴーレムが棍棒を振ると同時に俺の後ろの岩からリィムが飛び出して俺を抱えながら跳躍をして回避した。
「ギリギリ間に合いました。」
リィムが出て来た岩が棍棒で吹き飛ばされた。それと同時に仕掛けた罠が発動を開始する。
「飛んで避けるなら、さっきと同じだ!馬鹿め!」
そう叫ぶとゴーレムは再び生えた腕で殴って来るが、それが俺達に届くことは無かった。
円状の魔法陣みたいな文様が浮き上がり、そして円から線が伸びてゴーレムの周りに有る別の魔法陣へと延びていき、全部で8つの魔法陣が繋がって正八角形を描いた。
「連鎖式トラップ『八寒地獄・青連』です!」
リィムがそう叫ぶと罠の中のゴーレムが急速に氷って動かなくなる。そして岩の表面がめくれ上がり蓮の花弁の様になっていた。
「凄い威力だな。」
「これが私の切り札の八寒地獄です。青蓮は第六獄ですが私の今の力だとこれが限界です。それ以上の紅蓮獄、大紅蓮獄となるとまだまだ修行が必要ですね。」
そう言うとリィムは照れながらも、まだまだ修行が必要と言う。龍位精霊でも最大級を使える訳では無いのだと思ったが、それでもこの威力かと圧倒された。
前にティルが龍位精霊は災害レベルだと言ったが目の前の光景は確かに災害レベルの能力だと実感できる威力だった。
「さっさと避難しなさい! 巻き込まれるわよ!」
遠く離れた岩場の上からティルの声が響いた。
「おっと、あっちもヤバそうだ。急いで離れるぞ!」
俺とリィムはティルの方へと走り出した。それと同時にティルの詠唱みたいなものが聞こえて来た。
「原初より来たれり古の炎、盟約に則りて、ここに顕現するべし、我に従いてその力を開放せよ。」
詠唱が始まるとティルは両手を自分の前に広げて爆裂弾と発射用の2個の火球を作り出す。そしてその色が赤から黄色、黄色から白へと変わっていく。
詠唱が続くとさらに白から青へと炎の色が変わる。前に言っていた最大火力の炎の色だ。火球の大きさも直径50cm位の大きさまで膨らんでいる。
あの大きさはヤバくないか? もっと離れないと巻き添えを喰らうのが明白だ!
そしてよく見るとティルの髪と目の色が段々と薄紅色から真紅に染まっていった。それどころか髪はうっすらと発光し、目には真紅の輝きを宿していた。
「その力を持って、汝の名の元に敵を滅ぼしたまえ!」
さらに詠唱が続くと今度は青い炎に帯の様な何かが発生している。何かで見た事が有る、確か太陽から吹き出る炎の映像だ、確か名前は……
「プロミネンス・エクスプロージョン!」
ティルが叫ぶと同時に耳をつんざく爆音が鳴り響き発射用の火球が爆発する。一瞬遅れて物凄い衝撃波が飛んで来るが、視線は青い炎の帯を纏った火球から目が離せなかった。
火球は目にも止まらない速さで俺達の頭上を通り過ぎる。そのままゴーレムに着弾した瞬間、一拍置いてから白い光を放つと炸裂した轟音と衝撃波が時間差で襲い掛かってきた。俺とリィムは爆風で吹き飛ばされたのは言うまでも無い。
「耳が……、なんつー破壊力と轟音だ。」
爆心地を見ると前とは比べ物にならない程の大きなキノコ雲が上がっていた。ゴーレムの姿は跡形もなく、その代わりに直径20メートルはゆうに超えているクレーターが出来ている。そしてその中心部の地面は熱量で溶かされて地獄の溶岩の様に見えた。
「なぁ、あのゴーレムの精霊って消滅したのかな?」
ちょっと気の毒になって生存確認をしてみるがリィムが即時に生存を否定して来た。
「あれで生きていたらそれこそ龍位精霊でも上位クラスになりますよ。私だって自信は有りませんから。」
龍位精霊でも消滅させれる位の威力なのかよ。つまりティルってヒジリとなら龍位精霊レベルの能力を持っているって事か?
「耳が痛い、何が起きた?」
ハッキネンの声が今更聞こえて来る。コイツあの戦闘中でも寝てたんかい!
いや、むしろそれほど消耗していたのだろうな、今の自分の両腕の反発作用による痛みを考えるとあの時のハッキネンの消耗はもっと酷い筈だ。
「すまんな、起こして。もう終わったから休んでていいぞ。」
俺がそう言うと、ハッキネンは眠そうな声でブツブツ言いながらまた声が聞こえなくなった。やっぱり無理させてたんだな。後で何か労ってやらないとな。
「ふふふ……、最っ高〜にスッキリしたー! これが私の全力よ! どう? 見直したかしら!」
大きな声が聞こえてティルの方を振り返ると、岩の上に髪の色が元の薄紅色に戻っているティルが地面に突っ伏して倒れている姿が視界に入った。
自慢気に叫んでいるが、ぶっ倒れている状態で言われても説得力が無いんだが? もしかしなくても使える全精霊力を使ってぶっ放したな。
「おい、それは起き上がってから言おうか? 冗談抜きで立てないとか言うなよ?」
「立てません! 全力を使ったのでしばらくはヒジリも動けないと思うわ!」
うん、コイツ何言ってやがるんだ? 普通は少し位余力残せよ。どう見てもあの破壊力はオーバーキル過ぎるだろうがよ。
「仕方ありませんね、ティルを運ぶのはタツミさんにお願いしますね。私はそんなに力が有る方ではありませんから。」
リィムがヤレヤレと言った顔で運搬を依頼して来た。そして爆心地の方へ歩いて行き、ティルの精霊術で掘り起こされた宝石の原石を回収し始めた。
「仕方無いな、最近おんぶしてばっかりの気がするんだが……。」
そう言って俺はティルの方へと歩いて行く、そして背中におぶると、長い髪が俺の頬をくすぐって来た。
土埃も少し混ざっている筈なのに何だろう? とても良い匂いがする。それに何か別の意味で緊張して来た。特に背中の感触がヤバいです。
「タツミ、今の感情を素直に言ってごらんなさい?」
「お前な、冗談でもそう言うのは辞めろよ? ここに置いて行かれたいのか?」
この野郎! 絶対に解ってからかって来やがった! ヒジリも起きているのに今の感情をそのまま言ったらただの変態だろうが!
「素直に言えばいいのに、別にこの状況なんだから役得と言っても誰も怒らないわよ。」
「お前な、俺を何だと思ってるんだ?」
ティルのニヤケ顔が俺をイラつかせる。確かに役得と言えば役得な内容なので反応に困るし、どうせコイツは俺の感情を読むのだから嘘は通用しないのが腹が立つ!
「何をしているのですか? 限界突破まで使って力を使い切ったのに元気ですね。」
回収を終えて戻って来たリィムが俺達のやり取りを聞いて呆れた顔をしている。それを見たティルが意地悪そうな顔をして返事を返した。
「ん~、タツミが私の胸の感触を楽しんでいる様だから注意しただけよ。」
「はぁ!? ちょ!? お前!」
ティルに抗議をして再び視線をリィムの方に向けると、顔を真っ赤にして頬を膨らませながら涙目でこちらを睨んでいる。
「私は疲れたからヒジリに変わるわね!」
あ! おい! コイツ逃げやがった! そう思っているといつの間にかリィムが先程集めた原石が入っているリュックを振りかぶって投げるポーズをしている……
「タツミさんのバカー!」
リィムがそう言うと全力投球でリュックを投げつけて来た。俺はそれを腹で受け止めて悶絶するが、倒れたらヒジリが巻き添えを喰らうので何とか耐えた。
いや、力無いとか言ってるけど、かなりの剛速球でしたが?
投げた後にリィムはスタスタとこちらに歩いて来て投げたリュックを拾い直す。そして今度はリュックの肩ひもの部分を持つと、フルスイングでもう一度俺の腹にリュックを打ち付けた。俺は体をくの字の状態にして悶絶するしかなかった。
「最低です! もう少しデリカシーと言う言葉を身に付けてください!」
そう言ってリィムは怒って街の方へと歩き出したのだった。
「あ、ああ、あの……タツミ君……大丈夫? アルセインがゴメンね……。」
ヒジリが申し訳なさそうに謝って来るが、別にヒジリが悪いわけじゃない! ティルが悪いんです! そして良い所に打ち込まれて呼吸できません!
「ティルかハッキネンが起きていると毎回こんなオチなのは気のせいか?」
俺は恨めしそうな声を絞り出しながらリィムを追って街に戻って行く。




