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第36話 はぐれ精霊

 少しずつハッキリして来た意識を確認する。龍穴では精霊力酔いを起こして必要以上に力を使ったらしい私はその後の気怠さに困らされていたが、今はだいぶ落ち着いたのを自覚できた。 


「ヒジリ、おはよう。」


 私の声を聞いてビックリした様子のヒジリが一拍置いてから返事をしてくる。


「アルセイン起きたのね、おはよう。調子はどうかしら?」


 ヒジリは相変わらず一人だけアルセインと呼んでくる。いい加減みんなと同じにティルと呼べばいいのにと思う。


「ヒジリ、いい加減ティルって呼んで欲しいんですけど? 意識は無くても記憶は起きた時に共有されるから、ずっとアルセインと呼んでたのも解っているんだからね?」


「だって、私があなたに付けた名前はアルセインでしょ? 何か問題でもある?」


 そう言ってヒジリは知らんぷりをして聞き流している。絶対にニックネームを付けられたことに対する嫉妬でしょうが! 感情で解るのに!


「そもそも、ヒジリの名前じゃニックネームや愛称って付けづらいでしょうから諦めなさいよ……」


 私は呆れた顔でヒジリに言うが、今度は怒った感情が飛んで来た。


「別に私がどう呼ぼうと良いでしょ? 私が寝ている間に随分とタツミ君と仲良くやってたようだし。」


 あーあ、拗ねちゃってる。別にからかっていただけで仲良く? と言うかヒジリの言う仲が良いとは別の方向性だと思うんだけど?


「で、タツミは何処に?」

「朝からリィムと買い物に行ったわよ。」

「ナルホド、それで余計に機嫌が悪いのね?」


 遠慮なくぶち込ませていただきましょう。イライラを私に当てられても困るので、いっそ吐き出させてしまおう。


「アルセイン? もうちょっと言葉を選んでくれないかしら?」


「これ以上の選びようは無いと思うのだけど? 気になるなら家でじっとしてないで散歩にでも行ったら?」


 全く、意中の男が他の女性と一緒に出掛ける位でこんなにイライラしちゃって……って、まぁ普通は気が気でないものか。


「でもね……バッタリ会ったら何か後を付けていたみたいで嫌じゃない?」


 ヒジリが両手の指をモジモジさせながら言っている。


 こう言う所の押しが弱い! もうちょっと押しなさいよ! と思うが、言うと逆効果なのが解っているのだが、人間界での普段のストーカーの様な行為はどうした? と言いたい。


「じゃあ変わってよ。私が体を動かしたいし! ヒジリも生命力はほぼ治ったんでしょ?」

「そうだけど、アルセインは平気なの?」

「ほぼ全快よ!」


 私は親指を立ててバッチリという合図をする。


「解ったけど、あんまり無茶しないでね?」


 ヒジリの同意を得て私は表に出ると思いっきり背伸びをする。


「ん~! 久しぶりに自由に動ける! ねぇねぇ、ちょっと郊外の方に《《アレ》》を撃ちに行ってみても良いかな?」


「え、《《アレ》》をやる気なの? 私も初見だから解らないけど色んな意味で使って大丈夫なのかしら?」


 ヒジリが不安そうな顔をするが、私は生まれて初めて全力で精霊術を使ってみたいのだ! タツミが主契約の状態が長かったので、思いっきり力を開放したくてウズウズしていた。


「とりあえず、被害が少なそうな所を散歩がてら探してみましょう!」



「だったら街の東の少し先に採掘場が有るんだよ。その付近は荒野の様になっているから、そこにした方が良いと思うんだよ。」


 あまりにも不意に声をかけられて、ビクッとしてそちらの方を振り向くと、気配もなくルーリアがこちらを見ていた。


「ルーリア、ビックリさせないでよ……心臓に悪いわよ。」


 そう言うと、ルーリアは少し呆れたような顔で返事を返して来た。


「ずっと、ここに居たんだよ?」


 あ、居たんだ……ゴメン気配が無さ過ぎて気が付かなかったわ……。無口過ぎて気配すら無いとか怖いわよ……。


「何かやるならそこでやるんだよ、あそこは特殊な装備の実験もやったりするから多少なら問題ないと思うんだよ。」


 そう言ってルーリアは立ち上がり、自分の部屋の方に戻って行った。ドアの閉まる音を確認して私達も郊外に繰り出すことにした。





 私達は街を出てルーリアに言われた方向へ歩を進めた。最初の方こそ緑豊かな街道だったが、2時間程歩くと広い荒野が目の前に広がった。


「お~、ここなら確かに見晴らしも良くて、回りに被害が出なさそうね!」


「しかし何でここら辺だけ荒野なのかしら? 他は緑が豊かなのに。」


 ヒジリが不思議そうな声で質問して来たので簡単な知識を披露する事にした。


「陰陽五行説での説明になるけど、金は木とって相剋属性なの。つまり金属が豊富にとれる地帯は植物にとっては育ちづらいという事なのよ。」


「つまり、土の精霊界だと金属も木も両方含まれるから金属が優位な所は木がダメになると言う事?」


「そういう事、だからここら辺なら多少精霊術を使っても問題無いわね。逆に破壊した後は鉱石の採取が楽になるでしょうし!」


「頼むから坑道とか破壊して誰かを生埋めにしないでね……?」


 ヒジリが心配そうに言うが、土の精霊が生埋めなんて洒落にならない。最低限は土を操作できるのだから地上に出る事位は簡単に出来る筈だ。問題は私の精霊術に巻き込まれた場合だろう。


「大丈夫だよ、さてと、何か良い目標は有るか探してみましょうか。」


 そう言って散策を続けていると前方で大きな土煙が上がっているのが見えた。何か大きい物が動いている、私は好奇心を抑えられずにそちらの方へと足と進める。



――――――――――――――――――――――――




「何だよコレ! 本当に山かよ!」


 俺が絶叫すると同時に真後ろに大きな岩石の拳が打ち下ろされて、強烈な地鳴りが鳴り響いた。拳だけでもゆうに直径数メートルは有る大きさだ。ミノタウロスなんて比じゃない巨大さだった!


「確かに厄介ですね、私の罠を当てても質量の方が大きいので効果が薄いです。」


 リィムも先程から罠を設置しては踏ませているが、あまりにも大きすぎて効果が薄い上にダメージを与えた所がすぐに土で修復されていく。


 退治に来たのは良いが、想像以上にはぐれ精霊の能力によるゴーレムが大き過ぎたのだ。


 はぐれ精霊はこちらを確認するや否や、すぐに好戦的な態度でここの宝石は俺の物だと言って能力を使用してきたのだった。

 自分を核にして全長7,8メートル以上は有るゴーレムを作り出したのだ。問題は高さもだが、横幅というかパーツがデカい! 小さな山と言う表現が有る意味正しいだろう。


 あの店主が土属性じゃ相性が悪いとか言ってたが、これはどの属性なら相性が良いんだよ! 質量による暴力だろこれ!


 俺は身体強化でおとり役をしながらリィムが罠を設置しては隠れると言う戦い方をしていたが一向にらちが明かない。


 土煙が舞っている間に身を隠しながらリィムと合流して相談をしなおしていた。


「この前の紅雪月花べにせつげっかと言う技はどうなんだ? あれじゃ倒せないか?」


「あれは罠の設置点から内部から氷らせるのであの質量だと相当時間もかかりますし、本体に届く前に設置部分をパージされたらそれで終了ですね。」


「現実的じゃ無いのか、何か他に切り札的な何かは無いか?」


「後は範囲型トラップで氷らせて動きを止めるのは有りますが、あの質量を砕くとなると私単独では難しいですね。」


「トドメの一撃が必要と言う事か。俺じゃ火力不足だからな……。」


 手詰まり感が漂っている。いかにリィムが龍位精霊でも攻撃型と言うよりは補助型に近いので火力不足が課題だ。


「だったら、私がトドメをさすから動きを止めてもらえる?」


 不意に後ろから声がして振り向くとそこにはティルが居たのだった。


「ティル!? 何でここに? と言うか体調は大丈夫なのか?」


 俺は驚きを隠せずに声を荒げてしまった。しかしティルは自慢気に、そしてにこやかな笑顔で答えて来る。


「もちろん大丈夫よ! たまたま精霊術の試し打ちに来たらアレが見えたからこっちに来てみたのよ。コレって爆破して良いんでしょ?」


「構わないが、爆破……? この質量を出来るのか?」


「何言ってるのよ? 今はヒジリと同化してるんだから、タツミの時と違って全力で打てるわよ! それにここは屋外だからね、遠慮なく撃てるってものよ!」


「悪かったな! 俺じゃ生命力不足でお前は全力出せないだろうよ!」


「ちょっとアルセイン! タツミ君に失礼でしょう!」


 ヒジリがたしなめているが、相変わらずの皮肉が今は頼もしく感じる。


「二人で何とかしたかったのですが仕方ありませんね、では私がゴーレムの動きを止めますのでお願いしますね。」


 リィムはちょっと悔しそうな顔をしたがティルの火力を期待して罠の設置へと移動を開始した。ティルも狙いやすそうな位置を探すと言って移動をし始める。


「さて、ではおとり役を継続して頑張りますか。」


 そう言って土煙が静まるとゴーレムと俺の目が合うのを感じた。


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