第33話 ヒジリとの買い物
俺はヒジリと二人で土の精霊街の中を買い物ついでに探索していた。
「しかし完成までの時間が最低1週間とは、何をしたものかな?」
「そ、そうですね。やはり良い物を作るには時間が掛かりますね。」
ルリに刀を依頼してから二日。とりあえず俺達は余った精霊石で街中の雑貨の買い物をして良いと言われたのでブラブラと歩いていた。
通貨の概念は無く基本的には物々交換なのだそうだ。特にここは鍛治素材は大歓迎だから良い物を探せばと言われた。
リィムとハッキネンはケガの治りがまだよろしく無いのでルリの家で安静にしている。火の精霊界から離れたから自然回復も早くなった筈なので回復に専念するそうだ。ティルもまだ調子が良くないとヒジリの中で深い眠りに戻った。
「しかし、雑貨と言ってもなぁ……防具としての肘あてとかはルリが既に作ったものを譲ってくれると言うし、何か良いモノ有るか?」
「そそ、そうだね、や、野営道具も寝袋とテントが有れば事足りるものね。食事や水の心配が無いとここまで荷物って減るものなのね。」
そうなのだ。精霊界では食事が必要無いから調理器具も要らない。本当に必要な物が少ないのだ。
何か必要な物が有るか考えながら散策していると、ふとヒジリの足が止まった。
「どうした? 何か気になる物が有ったか?」
「え? ああ、あ、あの、な、何でも無いですから大丈夫です。」
声を掛けるとヒジリはビクッとして慌てて誤魔化してきた。気になるのでヒジリの後ろを覗き込むとネックレス等のアクセサリーが並んでいた。
「欲しいのか? 女の子だからこういうのに興味有って当たり前だよな。別にゆっくり見ても良いんだぜ? 時間なら余ってるし。」
「あ、でで、でも私こういうお店とか来た事無いので何が良いか判らないんですよね。」
「俺も無い、でも気になるならこの前の治療のお礼に何か買おうか?」
折角だからと思い店の中に入ってみると中は意外と薄暗かった。しかし、そこには様々なアクセサリーが壁から店の陳列棚に所狭し並んでいた。
指輪、ネックレス、イヤリング、腕輪等が一つ一つ輝きを放って存在をアピールしている。まるで星の海の中に居る様な幻想的な世界だった。
「うわぁ、とても綺麗。素敵なお店だね。」
「ああ、本当に凄い。」
二人で呆気に取られていると奥に居た店主らしき土の精霊さん(お姉さん)がこちらに声を掛けて来た。
「いらっしゃい。人間のカップルなんて珍しいわね。しかも初々しくて良いわねぇ、特別にペアセットにするならお安くしてあげるわよ。」
見かけるなりいきなりブッコんで来やがった。別に恋人じゃありません! 変にヒジリが意識しちゃうから辞めてください!
「え? えええ、え!? こここ、恋人!?」
ヒジリが顔を真っ赤にしている。そこで沈黙するな、勘違いされたまま進むだろう?
「いや、俺達はそんな関係じゃ無いんで! 旅の仲間です!」
俺がキッパリとお姉さんに否定すると、ふーんと言った顔でヒジリの方を見つめている。え? 後ろでどんな顔してるのか振り向いた方が良いの?
「貴方、人間のくせに鈍感なの……」
「あわわ、あの、お姉さん。このネックレスって綺麗ですね。何から出来ているんですか?」
ヒジリが慌ててお姉さん言葉を遮る様に商品の説明をお願いしてくると、お姉さんはヤレヤレと言った顔でヒジリの方へ行って説明を始める。
「あ、ボウヤ、最近は街中にもはぐれ精霊が出るから表の様子を見ててくれないかしら。この子のお買い物にじっくり付き合ってあげたいと言うなら別だけど。」
お姉さんに何となく店の外で待ってろ的な圧を感じたので仕方なく俺は表に出て待つことにした。
「何、あのボウヤってかなり鈍感なの? 貴方の態度見てれば好意が有るってわかりそうなのに。」
お姉さんは小声で話しかけて来きましたが……私の態度ってそんなにバレバレなのかしら?
「え、いや、その。そ、そうなんですけど見てて解りますか?」
「あのリアクションで判らない方が問題だと思うけど……アナタ苦労するわね。」
同情されてしまいました。別にまだ自分の好意を伝えているわけでも無いから、今はこの距離間で良いと思っているのだけどダメでしょうか? 下手に動くとフラグ・クラッシャーの彼は気が付かずにフラグをへし折りそうな気がする。
「もし本気で落としたいなら、ああいう鈍感男はストレートに行かないとダメよ!」
お姉さんが何故か励ましてきますが……いきなりストレートに言ったら、ただの変人かストーカーと思われるじゃないですか! あ、自分ストーカーに近かったですね……スミマセン。
「い、いや、彼とは知り合ったばかりなので、ま、まだ距離とかが詰まって無いので……少しづつ親しくなってからと思ったのですが。」
「ん~一理有るわね。でも半端に親しくなると逆に恋人とは見れないとか言われちゃうわよ。特に旅の仲間だと、そのまま仲間としか見れないとかね。」
「えええぇ!? それは困ります!」
「恋愛は押し引きのバランスが大事だけど、何も意識されてないのはもっと問題よ。ある程度の好意を少しづつ伝えていかないとダメ。」
いつの間にか恋愛相談会になってしまいました。でもこうやって人と話すのも苦手だった私的には気さくに話しかけてくれるお姉さんのアドバイスや励ましはありがたいです。
「とりあえず、人間だと指輪だと少し重すぎるわね……、男でも付け易い物となるとペンダントかしら?」
そう言ってお姉さんは一組のペンダントを出してくれました。シンプルな飾りつけで付けても邪魔にならず、かつ中央の石の存在感をアピールするような素敵な品です。
「キレイですね。赤と青のペンダントなのですね。」
「一応、少しだけど精霊術のダメージ軽減効果がついてるわ。そう言う名目で二人で付けちゃいなさい。他の悪い虫を追っ払うのにも便利よ。」
お姉さんはウィンクをしながら私に渡して来ました。もうこれは買うしか有りません。お気遣いありがとうございます! 私は即座に袋から代金となりそうな精霊石を取り出しました。
「あら、随分上質な火の精霊石ね。これだと少し貰い過ぎだから。お嬢ちゃんにはこれも付けてあげる。」
そう言うとお姉さんは私に小指に嵌める位の小さな指輪をくれたのです。
「これは?」
「その指輪は少量だけど生命力を蓄積することが出来る指輪よ、いざと言う時の切り札にして。それと彼も同じ精霊石を持っているなら呼んでからにしなさい。そして彼に買ってもらったと言う事にするのよ。」
お姉さんは楽しそうな顔をして私に頑張ってと小声で言うとタツミさんを店内へ呼んだのでした。
「そこの彼、もう良いわよ。」
やっぱり女性の買い物は長いと言うが本当だな。世の男性の苦労を思いながら待っていると思ったよりは早く呼びつけられた。
「ヒジリ決まったのか?」
「え、ええ、こ、このペンダントと指輪にしました。買っても大丈夫でしょうか?」
そう言ってヒジリは綺麗な赤色の石がはめ込まれたペンダントとシンプルで小型のこちらも赤い石がはめ込まれた小さな指輪を見せて来た。
「気に入ったのなら良いんじゃないか? 問題無いよ。火属性の赤ぽっくて似合うと思う。」
そう言うとヒジリは照れた顔をしながら喜んでいる様だ。
「お姉さん、これで足りますか?」
俺は持っていた袋から精霊石を取り出してテーブルに置く。
「はい、十分よ。そこでスマートに支払い出来る男はモテるわよ、毎度あり。」
精霊石を渡して店を出ようとするとお姉さんに呼び止められた。
「これはオマケ、アンタの分よ。精霊術防御の加護が付いてるから付けといて損は無いわよ。お揃いの品だから大事にしなさいよ。」
そう言うとヒジリと同じ型の青い石がはめ込まれたペンダントを渡して来た。加護付きなのか、こう言うのは地味に馬鹿にできないモノなのだろうと思いお礼を言う。
「こう言うのは貰ったらすぐに付けなさい。店を出たら即トラブルって事も無いわけじゃ無いのよ? お嬢ちゃんもね。」
お姉さんは何故かヒジリの方を見てウィンクしている。まぁ言ってる事は正しいから言われるがままに付けてみた。
「タツミ君、似合ってますよ。」
ヒジリが満面の笑みでこちらを向く、その胸元には俺と色違いのペンダントが見えた。この場合は流石にこう言わないといけない事位は俺でも解る。
「ヒジリも似合ってるよ。」
「えへへ、ありがとう。大事にするね。」
そう言ってヒジリは満足そうにお店の出口の前まで行くと、こちらを振り向いた。
「男性からのプレゼントは初めてです。」
店の入り口から差し込む光が後光の様に見えた。胸元の赤い石の光も相まり、ちょっと幻想的で綺麗だなと思ってしまった。
世の中ではこう言うのをデートとか言うのだろうか? と一人で思いふけりながら街の喧騒に俺らは戻って行った。




