第29話 ルーリア=ミアレス
椅子に座ってふと気が付く。
「なぁ、さっき入った時に椅子なんて有ったか?」
「そ、そう言えば、いい、いつの間にか椅子が出て来たような?」
俺とヒジリが顔を見合わせて疑問を口にするとそれを見ていたリィムが「あ」と言った声を出した。
「スミマセン、それはきっとルーリアの能力です。彼女は大地に物の記憶を覚え込ませて格納する事が出来るのです。そして自由にそれを取り出せるので使わない物は大地に保管しているのです。」
「「大地に保管?」」
見事に声がハモったが大地を倉庫の様に使うって事か?
「ああ、そうか。では先に紹介してた方が良いね、ルーリア出ておいで。」
そう言うとルリの体から土埃みたいな物が舞い上がる。そして段々と形になって来たかと思うと、ルリの隣にそっくりな精霊が出て来た。こちらは髪の色と瞳が綺麗なグレーだった。
「……ヨロシク。」
そして沈黙が数秒流れたが……自己紹介終わり!?
「あー、ルーリアはですね、とっても無口なんです。とりあえず皆の自己紹介は……。」
「さっき中で聞いてたんだよ。」
「「「…………。」」」
再びの沈黙。リィムが何とかフォローして場をつなげようと必死な表情なのが見ててつらい。
「まぁ、私の相棒はこんな感じだからいつも私の中に居る感じなんだ。能力を使う時だけコソっと出てて来る感じなんだよ。」
そこまで言うとルーリアはルリをじっと見つめている。何か言わせたい様だ。
「ああ、後、簡単な大地へ記憶させる容量が少ない物なら私の中からでも操作が可能らしい。椅子もこの能力で出したのさ。」
それでもまだルーリアはじっとルリを見続けている。
「同化したいのかい? ダメだよ、お客様が来てるんだからアンタもちゃんと出てなさい。」
そう言われるとルーリアは頬を膨らませて子供の様にすねたかと思うとつま先でタンと地面を叩くと、椅子が地面から生える様に出て来た。そしてそれに腰を掛ける。あまりの不自然な現象に俺とヒジリは目を丸くして見入ってしまった。
「凄いな、今のがルーリアの精霊術か。」
「ルーリアの精霊術はかなり特殊。」
ハッキネンが補足説明をしてくれる。俺とヒジリが感嘆の表情を浮かべているとそれを見たルーリアは満更じゃなさそうな顔して少しドヤ顔になる。
「土の精霊さんって凄い元気なイメージが有りましたが、ルーリアさんは物静かなので安心できますね。」
ヒジリが先程までの光景を思い出しながら安心した表情で話しかける。
「私からしたらルーリアは興味が有る事以外にはとことん無関心なだけさ。ハマった時は私でも手を焼く位さ。」
ルリが呆れ顔でヒジリに言う。つまり、ルーリアもスイッチが入れば先程の精霊たちと同じようになると言う事か。
「何となく出会った頃のハッキネンの様な感じもしなくも無いが……。」
「オイ、ポンコツ。文句が有るならしっかり聞くぞ。」
「いいえ、あの頃のお前でもここまで無口じゃ無かったよな。失礼。」
むしろティルをやかましいと言って黙らせてた位だが、喋らなかった訳では無いから明らかに違うか。
「で、そろそろ本題に入ろうか。どうやって最初の精霊力の調整の問題を解決したのかを。」
ルリがそろそろしびれを切らした様だ。それ見たヒジリが緊張した様子で説明を始める。
「最初の精霊力の調整ですが、先に私がアルセインと契約して同化をしました。彼はその時まだ気絶していたので、その間に私がアルセインから精霊力の簡単なコントロールを教わってから彼を起こしてアルセインと契約してもらいました。」
なるほど、契約までの時間差でコントロールを覚えたと言う事にした訳か……って無理が無いか! 俺だってティル無しで一人で行動できるようになるまで1週間以上はかかったんだぞ!? いくら何でもそんな説明信じる訳が……
「へー、まぁ確かにスジが良けりゃ可能か。あんた天才肌なんだね。私の時は半日位で何とかなったからよっぽど精霊界との相性が良いんだろうね。まぁそういう事なら最初の精霊力の調整は確かに納得した。」
納得された……え? 可能なの? どれだけ俺って才能無いんだよ……
「しかし、二重契約はそれが原因とは断定はしきれないと思って良いのかい?」
一番の謎はそこだよなぁ。それに関してはヒジリも困った顔で答える。
「に、二重契約が成立した理由は正直解りません。あ、あくまで可能性の話なので、これ以上は私達も解らない事の方が多いです。」
あくまで今までの話もヒジリの推論にしか過ぎないので、二重契約については俺らも解らない事が多いのでこれ以上は答えようが無い。
「リィムとハッキネンはタツミのあんちゃんと二重契約になって何か変化は有ったかい?」
妥当な質問だ。気にして無かったが何か変化が有るなら答えに結び付く可能性もあるからな。
「何も変化は無いですね。タツミさん経由でティルさんの属性の力が使える様子も無いですし、ハッキネンとの繋がりもしっかりと感じます。」
「同じく、リィムとの間の繋がりは変化無い。リィムとの同化も問題無い感覚はしっかり有る。私とポンコツの契約が『同調契約』のせいかもしれないが。」
二人とも変化を否定する。こればっかりは俺では解らないので二人の感覚を信じるしかない。
「変化は無しか、判らないね。試しにルーリアでも同じことが出来るのかね?」
ルリの素朴な疑問に後ろに居たルーリアが物凄く嫌そうな顔をする。
「試す……気?」
ルーリアがボソっと喋った。自分の相棒で実験するなと言う目をしている。そりゃ見知らぬ奴と万が一でも契約の可能性が有るのは嫌だろう。
「だって、試してみた方が早いじゃないか! ルーリアで出来ないなら空き容量はもう無いと言う事でハッキリするじゃないか。逆に出来たのなら何属性まで可能なのか興味が湧くもんだよ。」
ルリの様子は既に実験する気満々だ、ルーリアに拒否権は無いのだろうか?
「さぁ、ちなみにハッキネンとの時はどうやって契約したんだい?」
ルリがポニーテールの髪を体ごと左右に揺らしながら前のめりに聞いて来る。どんだけテンション上がっているんだよ……。
「確か、あの時は……。」
「ポンコツが私を押し倒してた。」
「「え?」」
ハッキネンの発言にヒジリとルーリアだけが驚きの反応する。だよね、普通そうなるよね!
「おい、待て。その言い方だと俺が悪者か変質者みたいな言い方じゃないか?ちゃんと状況を説明しろよ?」
自分の名誉の為にもここは正しい事を伝えねば、本当にロリコン認定されてしまう。
「あの時は龍穴の崩落で4層まで落下して二人とも倒れたんだろうが! むしろ押し倒したと言うならお前が先に俺の上に居たじゃないか!」
「その後、起きたポンコツに転がされた。」
ヒジリとルーリアの表情がシンクロしている様に「うわぁ……」と言う様な顔をしている。
ルリは普通に頭で分析している様でそこら辺は興味が無いようだ。リィムに至ってはまたかと言った顔で頭に手を当てている。
「だから表現の仕方! 俺が慌てて起き上がったらお前が動けなくて転がり落ちたんだろ! そして、俺も直後に精霊力酔いで倒れた所にハッキネンが居ただけだろうが!」
「それを押し倒したと言うのじゃ無いか?」
こいつ! ヒジリもルーリアもドン引きしているじゃないか! 俺がロリコン認定されたらどうするつもりだ!
「ポンコツ、私をロリ認定するなら、リィムもロリだからな?」
あ……、コイツ、やりやがった。
「タツミさん? 今何と?」
横に居たリィムが物凄い涙目でプルプルしながら怒っている。そちらを向けません! この野郎地雷を踏み抜きやがった!
「つまり接触した状態だったのは判った。後は何かトリガーになりそうな事は無かったのかい?」
ルリが話を本線に戻してくれたが……この人本当にブレないな……。この会話の流れで本気で二重契約の事以外に興味が無いとかある意味凄いな。
「後は、今にも死にそうだったからハッキネンのフルネームをその時は知らなかったから聞いたんだ。」
「フルネーム?」
ルリは不思議そうな顔をする。知らないと言う事はリィムが起きなくなってからはハッキネンと会っていないと言う事か?
「それは、リィムがしばらく目覚めなくて。私がリィムを忘れない為にリィム=ハッキネンと名乗っていた。だからポンコツが私の名前を知ったのはその時。」
「なるほど、で、リィムが久しぶりに目が覚めたと理由も気になるが、続きは?。」
ルリは黙々と現状を認識していく。
「で、確か……死後の世界が有ったらヨロシクとか言ったような?」
「確かに、お互い名前を確認し合った後にそんな事を言った。」
二人とも意識が朦朧としていたのでうろ覚えだったが、こんな所だろう。
「よし、解った! ルーリア。握手してタツミのあんちゃんとお互いヨロシクって挨拶してみな。タツミのあんちゃんはルーリアの名前を呼んでから言う事。」
ルリが現状に近い状況を試そうとしてルーリアに声を掛けた。
「……嫌。」
でしょうね!俺が逆の立場でも嫌だよ!
「契約主命令! ちゃちゃっとやりな! 別に減るもんじゃないだろ!」
ルリさん貴方も言葉を選んでください。表現がギリギリアウト臭いです。
「仕方ない、こうなったらルリは諦めないんだよ……。」
ルーリアが諦めて立ち上がって俺に手を差し出す。それを見て俺はルリを方を見るが拒否権が無い雰囲気で仁王立ちになってこちらを見ている。
「はぁ……、仕方ない。ハッキネン一回分離だ。」
そう言うとハッキネンは俺から久しぶりに出て来た。表情はとても気怠そうで、顔色も明らかに良くない。回復して居ない事が明白だった。
「リィム、そっちに戻る。外はしんどい。」
そう言うとハッキネンは心配そうにしているリィムの手を握り、氷の粒に変化して中へ消えて行った。
「さぁ!実験開始と行こうか!」
ルリの興味本位しかない声が工房に響き渡った。




