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第28話 土の精霊さんは怖いです……

「おう! お嬢ちゃん! どうした! 何か良い素材の臭いがするがどうだ! 俺んところで作らせてくれよ!さぁ!早く出しなって!」 


 元気のよい土の精霊さん(おっさん)が勢いよく横から飛び出て来た。


 セリフだけ聞いたらただのカツアゲじゃないか。そして変に目を輝かせているからプラスで不審者も追加できそうだな。と言うか臭いってなんだよ? どう言う嗅覚してるんだ?


「あ、あのこれは、もう持って行く所が決まってて……。」


「大丈夫だって! 俺にかかれば良い素材はちゃんとした逸品に仕上げてやるからよ! 安心しな!」


 リィムが迫力に負けて後ずさりながら断ろうとするが逃がさないオーラが凄い。このままでは押し負けてしまいそうな勢いだ。


「まちな! 一人で抜け駆けなんて許さないよ! あたしだって最近は良い素材が無くて腕がなまってるんだ! あたしに任せな!」


 騒ぎを聞きつけて別の土の精霊さん(おばさん)が新たに登場する。これはもしかしてどんどんとお仲間が来る流れなのか?


「お嬢ちゃん! そいつよりも私の方が良い物作れるさ! さぁ、あたしに任せな! どんな物に加工がお望み何だい!」


「えっと、だから……これは……タツミさーん! お願いします! ちょっと助けてください!」


 二人の圧に負けて断り切れなくなってきたリィムが涙目で俺に助けを呼んだ。流石にここで助けないのは最低過ぎるだろう。


「ちょっと、俺達は持って行く所が決まっているから放してくれないか?」


 俺はリィムに群がって来た精霊さん達に声を掛けると


「「アンタは黙ってな!弱い奴の道具は作らないから!」」


 …………………酷くない? そこまで言いますか? いや確かに弱いけどさ。


 俺はその場で両手を地面に付けてへたり込んでしまった。口調が荒いから余計にメンタルを削られる、怖いよ土の精霊達。


「土の精霊は強い奴の武具を作るのが好き。雑魚には興味を持たない。」


 ハッキネン、頼むから追加ダメージを与えないで下さい。

「たた、た、タツミ君。だだ、だ、大丈夫だよ、すぐに強くなるよ!」


 ヒジリの優しい励ましも逆にダメージになります。そっとしておいて下さい。俺はいじけモードに入ります。


 そして騒ぎは喧騒さを増している様だ。もう手に負えない雰囲気がある。


「ん? お嬢ちゃん。随分と強い精霊力を感じるね。」


 ふいに後ろから声を掛けられたので振り向くと、そこには黒い瞳の日本人らしき人が居た。


 髪の毛が細いせいか茶色に見える、長さはセミロング位だろうがそれをポニーテールにしており、服装はザ・職人と言った感じのジーンズのズボンとエプロン、上着は半そでのTシャツの上に、これまたジーンズのタンクトップを着ている見た目が20代半ば位のお姉さんだ。


「あ、ああああ、あ、貴方は?」


 初対面でどもり過ぎなヒジリが慌てて聞き返している。これは聞いたら断れなくなる流れじゃ無いのか?


「ああ、あたしは土門どもん 瑠璃るり! お嬢ちゃんの気配が面白くてね、つい声を掛けちゃった! お名前は?」


「あ! ルリ! ちょ、ちょっと助けてください! あなたにお願いする為に素材を持って来たのですから!」


 リィムがルリを見つけて助けを求める声が聞こえてきた。いつの間にか土の精霊さん達がさらに増えてもみくちゃにされている。リィムも気の毒に……。


「ハイハイ! 皆! リィムの依頼先は私のようだよ! ルールは守って!」


 ルリが大声を上げて手をパンパンと大きく叩いて集まって来た精霊達をたしなめる。


「チッ、ルリの所か。仕方ねぇ。今度は俺らにも何か持って来てくれよ!」


「依頼主が相手に会って指名しちゃったら他は諦めるルールだからね、仕方ない。」


 そう言って精霊さん達が散らばっていく。そんなルールが有るのか。


 だから指名したい人に会う前に説得して自分で作る為に、道半ばで材料を持って歩いてる人を勧誘と言うか拉致る訳か。


「これが土の精霊の基本的な性格なのか……火の精霊のただひたすらに陽気な方が随分と楽だな。」


「私は材料さえ持って無ければ、関わろうとしてこないこっちの方が楽。」


 まぁ、ハッキネンならそうでしょうね! でも揉みくちゃにされたリィムさんが涙目になってますが?


「ル~リ~、もっと早く出て来てくださいよ~。」


 あ、いや訂正しておこう。真面目に泣いてるわ……。


「あっはっは! その位で泣くんじゃないよ! ほら、さっさと涙を拭いて! では早速工房に行こうか!」


 豪快に笑いながらリィムの手を取って立ち上がらせるとルリはついて来いと言わんばかりに前を歩きだす。


「土の精霊さん達はレア素材を持っているとこれだから怖いんです……しばらくはトラウマですよ……」


 そう言うとリィムは涙目のまま俺の後ろに回り込んで、服の裾を掴んで隠れる様に歩いて付いて来る。これはこれで可愛いと思ってしまった。


「まぁ、確かにアレは傍から見てても怖いわな……」


 俺もあんなのに囲まれたら怖くて一人では歩けなくなるだろう。下手なチンピラよりも怖いと思った。今だに小刻みに震えているリィムの頭をそっと撫でて落ち着かせる。


 ヒジリの横からの視線は何か気になったが敢えて見ないでおこう。


 そうして移動しながら思ったのは集落と言うには精霊の人数も規模も大きく、もはや街と言う方が正しいだろう。俺達は街中を移動してルリの工房件住居へと歩いて行く。


「しかしこれは立派な街だな。集落と言うには違和感がある。」


「そうでしょうね、土の精霊だけは集落がここの一カ所だけなのです。なので必然的に大きな街の様になっていきました。」


「土の精霊は何故一か所に集まっているの?」


 ヒジリがリィムの言葉に疑問を感じて聞き返す。確かに何故他の精霊とは違って集まろうとしたのだろうか?


「簡単な事、先程みたいなチャンスを狙うなら集まった方が効率が良い。」

「ハイエナかよ!」


 先程の光景を思い出すが、確かに集まっていれば素材を持って作って欲しい人は必ずここに来る筈だ。そうすれば依頼主を決めてないなら取り合い合戦が出来る。


 もし集落が点在したら依頼者も分散するから必然的にチャンスが減ると言う事か。

 

「さて、工房に着いたよ、まず中に入って要件と材料を見せて貰おうじゃないか!」


 ルリが大きな煙突が付いた工房の前に立ってドアを開けて俺達を中へと案内する。中には鍛冶道具が壁にたくさん並べられており、部屋の奥には大きな炉があった。


 しかし工房だと言うのに完成品の武器防具等は見当たらないのが妙だった。


「どうしたヒョロ君? 何か気になる事でも有ったかい?」


 ぇ? ヒョロ君って何だよ? 俺の事か?


「ヒョロ君、アンタだよ。見るからに弱っちそうじゃないか。」


 俺を指差してルリがもう一度ヒョロ君と言って来る。うん! 俺泣いて良いかな! 女の子のヒジリより弱いと認識されてるぞ!


「……ップップ……。」


 おぃ、ハッキネン。笑い声が漏れてるんだが? そろそろ本気でこいつのお仕置きを考えなければならない様だ。


「えっと、ルリ、流石にタツミさんはそこまで弱いわけでは無いのですが……。」


 リィムも困った顔でフォローしてくれている。ありがたくて涙が出そうです。しかし、先程から弱いだのヒョロとか酷くないか土の精霊達よ?


「まぁいいさ、名前で呼んで欲しいなら、ちゃんと自己紹介しな?」


 そう言われて名乗ってないのを思い出す。そして俺とヒジリは自己紹介を順番に済ませた。そしてヒジリはティルと入れ替わって自己紹介をさせたが……様子を見る限り寝てたのか? 眠そうにしている。


 最近静かだと思ったら、龍穴で調子に乗って精霊術を使い過ぎて体調を崩していたとヒジリが耳打ちしてくれた。確かに大技を連発しまくってたもんな。


「タツミにヒジリね。そして、今は意識が戻って無い精霊のティルレートと言うのが居る訳だ。ハッキネンも久しぶりに顔出したらどうだい?」


「いや、精霊力を消耗しすぎてる。まだしばらくは分離も表にも出れない。」


「ん?ちょい待ちな?ハッキネンの声、どこから聞こえた?リィムの中にいるんじゃないのか?」


 面と向かって話して、初めてハッキネンの声の聞こえる方向に違和感を覚えた様だ。そりゃ二人を知っているならそうなるよな。


「今はこっちのタツミの中に居る。何故か『同調契約』が成立してる。」


 ルリは目を点にして、頭の上にビックリマークが多数飛んでいるのが目に浮かぶような表情でしばらくの間固まってた。


「ちょいと待ちな、このあんちゃんの特異能力セカンドスキルか何かで契約を書き換えたのかい? 多重契約なんて見た事も聞いた事も無いよ?」


 物凄い驚きの表情だが、俺も解りません!誰か答えを教えてください!


「た、多分、原因は私のせいだと……お、思います。」


 ルリと言う初対面の人に緊張しながらも、ヒジリがおずおずと喋り出した。


「お嬢ちゃんが原因? 確かにお嬢ちゃんからは何か妙な力を感じるが。」


 ルリは顎に手を当ててよく解らないな。と言った様な顔をしている。俺も解らん!


「た、た、多分ですが、私がタツミ君を助けるためにアルセインとの契約を半分しかしなかったので、た、タツミ君の中の空き容量? みたいなモノが半分残っていたんだと思います。」


「要するに、一人一精霊の原則なのに一人半精霊として俺とヒジリがティルと契約したのが原因と言う事か?」


「そ、そうだと思います。そそ、そして残った半分の容量の部分にハッキネンが半分入ったのだと思います。」


 ん? ハッキネンは呼び捨てなんだ。まぁ気にしないでおこう。


「確かに私とハッキネンの契約はまだ残っているので、推論としては当てはまりそうですが、何故ハッキネンが半分の枠に入ってしまったのでしょう? ハッキネンの容量は関係ないのでしょうか?」


 リィムも不思議そうだったが、それよりもルリの方が余計に混乱して解らないと言った表情をしている。


「ん? ちょっと待ちな。つまりタツミのあんちゃんは自分の精霊を具現化してないのに精霊界に居るって事かい? 最初の精霊力の調整はどうやったんだい?」


 まぁ確かに、そもそも自分の精霊と契約していない人が精霊界をうろついて居ること自体が有り得ない事なのだろうが。


 さて、困った「大いなる再生者(グランド・リバイバー)」の話をせずにどうやって説明したものか。


「その件は少し話が長くなりますから、とりあえず座って話しましょうか。」


 リィムがそう言って近くに有った椅子に腰かけると皆もそれに合わせて開いている椅子に腰を掛けた。


 さぁ、どうやって誤魔化しつつも納得のいく説明をしようか?俺はかなり困惑しながら椅子に腰を掛ける。

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