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第26話 火の精霊界・エピローグ

「さて、やっと着きましたね! あれが境界線です!」


 リィムが元気そうに遠くに見えて来た半透明な緑色の壁みたい物? を指差して駆けて行く。背中には集落で貰ったリュックサックを背負っている。

 

 俺達はあの後、集落に帰って精霊石を置いてきた。そして最後に残ってた精霊の力に馴染んだ精霊石を受け取って境界線に向かったのだ。


「ヒジリ、様子はどうだ?」


「まま、ま、まだ、本調子ではないですが……ふふ、普通に歩く分は大丈夫です!」


 ヒジリは相変わらず緊張した顔をしていた。こんな時どんな風に声を掛けたらよいか悩んでしまう。この子はかなり真面目っぽいので茶化すのは違う気がする。ティルだったら軽口をたたいて励ますのだがそうはいかない。


「ヒジリも慌てるなよ? 俺らを治すのにかなり消耗してるんだ。無理に使って倒れたら大変だから、慌てずに自分の回復を優先しろよ?」


「し、心配してくれてありがとう。だ、だ、大丈夫よ、ちゃんと少しづつだけど良くなって来てるのは感じてるから。」


 そう言うとヒジリはどもりながらも、ぎこちない笑顔を向けて来た。


 来る途中に色々話を聞いたのだが、ぼっちの期間が長かったせいで人との距離感の取り方とかが慣れてないそうだ。後は意外と同じ高校だったのも驚いた、同じクラスになった事が無いから知らなくても無理は無いか。


 ティルの距離感の無さは自分の対人関係スキルの不足が原因だとヒジリは言っていたが……ティルの性格や雰囲気では茶化して何とかなったが、この子の雰囲気であの距離感をやられたらヤバい。何と言うか照れ臭くなってしまう。


「でで、で、でもこうやって皆でお話しして歩くのも楽しいですね。」


 ヒジリがしみじみとした顔で遠くを見て微笑んでいる。その横顔を見て俺は不覚にもドキッとしてしまった。


 ティルでは見た目と雰囲気が合って無かったのだが、今は完璧に一致している。何と言うか絵になっていると言った方が良いのだろうか? 来る途中に聞いた心疾患の話も含めて「薄幸の美少女」と言うフレーズが似合い過ぎていると思ってしまった。


「ポンコツ、鼻の下が伸びてる。」


 ハッキネンが呆れた顔でツッコんで来る。相変わらずこういうツッコミは早い。


 ハッキネンはあのまま俺に同化している。何かあった時に、リィムは一人でも何とかなるが

俺は危険だからと言う事らしい。


「やかましい、誰が伸ばしてるって?」


 すぐに反論するが、ハッキネンの発言に気が付いたヒジリは顔を真っ赤にしてどうしたら良いか判らない顔をしている。


「ハッキネン。俺はまだいいが、ヒジリが反応に困る様な発言はもう少し控えておけ。まだ距離感とか慣れてないんだから。」


 ハッキネンに注意するが、こいつはそういう空気はほとんど読まないだろう。いや、解っていてやってる可能性もかなり高い。


「早く行きますよー!」


 少し離れた所から振り返ったリィムが手を振りながら声を掛けて来る。


「解った!すぐに行く!」


 返事をして俺達は境界線の方へ向かう。ヒジリも助かったと言わんばかりの表情だった。


 だいぶ話せるようになったが、まだぎこちなさは少し残っている。どれ位でこの子は慣れるのだろうか? 極端なあがり症なのか人慣れしてないのかよく解らない。






「おー、この壁ってどのくらいの高さだ?」


 俺は境界線の前に来て上を見上げる。どこまでも続いている壁で、全くてっぺんが見えないのだ。


「境界線なんだから精霊界の天蓋てんがいまで届いてるに決まっている。」


天蓋てんがい? 何だそれ?」


「解りやすく言うなら天井と言う事ですよ。精霊界の一番上まで続いているのです。まぁ、一番上を見た事がある人は居ないのですけど。」


 流石リィムの説明は丁寧で解りやすくて助かる。ハッキネンの説明は端的過ぎて解りずらいのだ。


「さて、では精霊石を使って土の精霊界に移動しますよ。」


 そう言うとリィムは集落で貰った袋から精霊石を取り出そうとした。


「あれ? 何でしょうか? これ?」


「「「ん?」」」


 全員で疑問の声が上がるが、取り出した手のひら位の大きさの光る石を見た瞬間に、すぐにヒジリ以外はそれが何かを理解した。


「おぃ、これってあの時の石じゃないのか?」

「そうだ、確かにあの時ポンコツが砕いた集合体精霊の核だ。」

「いつの間に? そもそも砕け散ったはずなのに。」


 ヒジリ以外のみんな混乱している。そりゃそうだ。あんな物騒なミノタウロスの核の部分だ。何のホラーだよ!


「ねぇ、他にも袋の中身に何か入っていたの?」


 一人理解できてないヒジリが冷静に言うと、リィムは我に返って袋の中に他に物騒なモノが無いか確認する。


「後は、結界を通る用の精霊石と、タツミさんの武器を作る用に持ってきた燃料用と刀身用の精霊石が数個ですね。他には入って無いです。」


「考えられるのは砕けた核が付近の精霊石に吸収されて、それが再び具現化した?」


 ハッキネンがそこまで推論を言うとリィムがアッと言う声を上げた。


「そう言えば目覚めた時に、タツミさんにおんぶをしてもらう際に足元にかなり高純度の精霊石を見つけたので何かに使えるかと思って袖口に入れてたのですが。もしかしてそれが原因でしょうか?」


「え? おんぶ? イイナァ……」


 ヒジリが小声で別の意味で触れて欲しく無い所にツッコんでいるのが聞こえた。最後の方は小声過ぎて聞き取れなかったが、恥ずかしいからそう言う余計な事は言わないで欲しい!


「もしかしたらそれが原因? とりあえず地上の精霊力の濃さでは集合体精霊は具現化できない筈。どうせなら鍛冶の材料に。使えるかどうか知らないが。」


 微妙に無責任な発言の様な気がするが、まぁそれも有りだなと思う。鍛冶師に聞いて見るとしよう。


 しかし後ろで顔を真っ赤にして妄想の世界に行っているヒジリさんをどうしたものか……。この子も普通に見えて実は……いや、考えるのは辞めておこう。そのうち素が出てくれば解る筈だから大丈夫。残念女子じゃない事を祈ります。


「ヒジリ、妄想族になるのは止めておけ。」


 ちょ! 誰がうまい事言えと言った! 妄想の暴走をかけて暴走族ならぬ妄想族かよ! 思わず吹き出しそうになるじゃないか!


「ちょっと!ハッキネン! それはかなり失礼ですよ!」


 リィム! そこはツッコんじゃダメ! 敢えてスルーしてあげないとヒジリが逆に困る内容だ!


「え、ええぇぇぇ? そ、そそそんな事、ななななな、無いですよ!」


 思いっきり動揺している。これは収束させるのが大変な内容だ。


「オンブ(ボソ)」


 ハッキネン! もうやめろー! これ以上俺とヒジリのメンタルを削るんじゃない!


「あ、あの時は、目覚めたばかりの私を気遣ってくれただけで、特に他意は無いですよ?」


 リィムも辞めて! 困った顔で弁解するように言わないでくれ! むしろ俺まで恥ずかしくなるからもう勘弁してください。


「ああああ、あの、たた、た大変だったのですね。」


 ヒジリがどもりながらも何とか声を絞り出してこの場を逃げようとする。顔が真っ赤だし漫画なら確実に頭から湯気が出ているだろう。そして俺もこの場は便乗しないと危険な気がして話題を元に戻す。


「ほら、早く移動しようぜ。その意味不明な核は鍛冶師にも相談すれば良いだけなんだし。」


「チッ」


 ハッキネンの舌打ちが聞こえた。お前、後で覚えていろよ?


「そうですね、そろそろ行きましょう。では精霊石を使いますよ。穴が開くのは少しの間だけですので近づいてください。」


 そう言うとリィムは精霊石を壁に押し当てるとそこから半径2メートル程の円の穴が開いた。


「さぁ、行きますよ!」


 リィムの掛け声で全員が通るとほんの数秒で穴は塞がったのだった。想像以上に短い時間だった。穴が塞がった向こうの精霊界を見て少し感慨にふけってしまう。


 短い間だったがたくさんの事が有った。自分は少しでも変われたのだろうか? 皆はどうなのだろう? 人との出会いで少しでも変化が有っただろうか? いや気が付かないだけで有る筈だ、きっと。

 

 良くも悪くも人は出会って変化する。これからの出会いも含めて自分がより良くなれる事を祈ろう。


 目の前には新しい世界が待っている。

 次の目的地である鍛冶師の所へ。

 皆で新しい一歩を踏み出したのだった。


 これから更なるトラブルに巻き込まれて行くなどと、この時は思いもしなかったのだが。


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