第25話 セカンド・スキル
俺達はその後順調に上層へと戻り、現在は1層まで戻って来れた。多少は下位精霊と遭遇したが、ミノタウロスを倒す前に比べると少ない気がする。
「しかし不自然な程に湧いて来ないな。」
「むしろその方が良い。今戦闘できるのはティル位だ。」
俺のつぶやきにハッキネンが返事をしてくるが、確かにリィムも先程の戦闘で疲れ切っているのが目に見える。道中で湧いた下位精霊は全てティルが一人で片付けてくれた。
「そうですね、私も生命力を使い過ぎてますからこれ以上の戦闘は厳しいです。ティルさんが合流して無かったら正直困ってました。」
「私は具現化主の方と同化してるから精霊力も有り余ってるから気にしないで。」
戦闘できない事を申し訳なさそうにしながらリィムが礼を述べると、ティルは照れながら気にするなと言った感じで元気さをアピールしていた。
「もうすぐ出口だ、空気の流れが変わった。」
ハッキネンがそう言うと同時に全員の緊張の糸がゆっくりと緩んで行くのが分かった。そして間も無く出口が見えて来て俺達は無事に地上へと生還できた。
ちなみに精霊石の採掘も忘れずに道中で拾ったので数も充分揃った。取りあえずの目的は達成できたが内容は酷いモノだった。
俺とリィムは出来ればその場で大の字で寝たい程に消耗していたが、ティルとハッキネンに集落まで行ってからにしろと言われたのでもう少し頑張る事にした。
「そう言えば、あの後すぐに下位精霊が出て来てティルと変わったが……ヒジリの方は体調どうなんだ?」
「ん? ヒジリはまた眠っているわ。確か『大いなる再生者』って言う精霊術? を使用すると相手の回復に応じて自身が消耗する様なのよね。」
ティルが説明してくれたが……『大いなる再生者』って何だ? リィムの紅雪月花みたいに精霊術に名前を付けているのだろうか?
「え? ちょっと待ってください。今『大いなる再生者』って言いましたか? それは本当ですか?」
「え、ええ。ヒジリが言うにはそういう能力と言ってたわ。」
リィムが驚いた表情で確認してきたが……何か有るのだろうか?
「精霊界で『大いなる再生者』と言うのは現存する9つの特異能力の一つです。この9つの能力は絶対的な力を持ちます……それをヒジリさんが?」
「え? 偶然同じ名前って事は無いのか?」
リィムの余りの驚き様に偶然では無いかと問いかけるが即座に否定の言葉が飛んで来た。
「いえ、精霊界では完全な同名の物は存在しません。能力や名前は一つの物しか指さないので、同じ名前は無意識の元に名付けれない様になっています。出来るとしたら付け足す事位でしょうか?」
「と言う事は、ヒジリって凄い人なのか? ティルも相当凄い精霊って事か?」
「無いな。ティルの能力はどう見ても龍位精霊には到達してない。」
ハッキネンも即座に否定してきた。ティルが不服そうにしているな。
「不思議に思うんなら本人に聞きなさいよ! ホラ、変わるから!」
「変わるって……寝てるんじゃ? っておい!?」
そう言うと強引にヒジリが表に出て来たが……寝てるよ! 倒れそうになる所を慌てて抱き寄せて頭を打たない様にする。
「ティル!? お前危ないだろうが!」
「すぐ近くに居るんだから抱きしめると思うじゃない!」
いくら大丈夫だと思っても危ない事をやるんじゃないと言いたいが……何だろう? ティルの奴から楽しんでる感情を感じる気がする……わざとやってるのか?
「あああ、ああ、あの……目が覚めたので……だだ、大丈夫です。」
咄嗟に抱き寄せた衝撃でヒジリは目が覚めたらしい。俺も今の状況に気付いてヒジリが起こして手を離した。お互いに顔が茹でタコになっているのは言うまでも無い。
「す、スマン。またティルのイタズラで……」
「またアルセインが……こちらこそスミマセン。」
ん? ヒジリはティルの事をアルセインと呼んでいる? もしかして……
「な、なあ、ヒジリ。もしかしてヒジリが付けた名前ってアルセインの部分か?」
「あ、はい。そうです。私がアルセインと名付けて、残りはた、タツミ君に付けてもらう様に言いました。」
その話を聞いて納得した。俺が思い浮かんだのはティルレートの部分だけだったのに、何故かアルセインと言う部分まで無意識に出て来たからだ。
「それで『ティルレート=アルセイン』になったのか。リィムが言っていた付け足したって事か。そう言えば『命名契約』とか言ってたもんな。と言う事は……ハッキネンにも何か付け足したって事か?」
「いや、別に私の名前が変化した感じは無い。どちらかと言うと恐らくだが『同調契約』だと思う。共通の目的や感情で仮契約が行われる。よく神降ろしとか言われるモノがこれに当たるが……複数の精霊とは聞いた事は無い。一応『命名契約』の方が強い契約なので繋がり自体はティルの方が強い筈。」
即時にハッキネンが否定してきた。まぁ下手な付け足しにならなかったのは安心した。そしてティルの方が契約としては強いのか……何か複雑だな。
「あの……話が脱線してますが、『大いなる再生者』の件について聞いても良いですか?」
再びリィムが俺達を離す様にして間に入って来た。怒っている様だが俺は悪くない! 全部ティルのイタズラが悪いんだ!
「あ、は、はい。私がアルセインと契約する前に不思議な存在から貰いました。な、なので、わわ、私も詳しくは知らないのです……ただ使い方は頭に流れ込んで来ました。」
しどろもどろながらもヒジリは説明をしてくれた。
回復の力は等価交換でヒジリにも負担が有る事。
消耗して回復する際は精霊の中で冬眠みたいになる事。
それがヒジリがティルの中に居ながら俺が同化出来た理由。
そして俺と分離時に、誰か瀕死な人を認識できなかったが治していたと言う事。
合流時の治療で疲労が蓄積しているが休めば大丈夫と言う事。
一気に大量の情報が入って来た。そして無意識に治した人が居ると言う所でハッキネンが何かを察した様だった。
「ヒジリ、恐らくだが治したのはリィムの摩耗した精神だったと思う。私の頭を撫でまわしていた時に治してくれた様だ……ありがとう。」
俺の中からヒジリに礼を言ってきた。確かにその推論が正しいだろう。そうだとすれば急にリィムが目覚めた理由も筋が通る。
「そうだったんですね、ありがとうございます。必ず恩は返しますから!」
リィムも話を聞いて自分の状況を察した様で、ヒジリの両手を掴んで感謝を述べると、先程までのふくれっ面はどこぞへと消えていた。
対照的にヒジリはどう反応して良いか分からず、顔を赤くしながらアワアワとしていた。
「後、この能力は他言しない方が良いですね、回復系の精霊術はほとんど存在しませんから。逆に契約主を失った精霊達から私の様に治療してくれと言われる可能性も有ります。身を削る能力なら尚更です。」
リィムは手を掴んだまま冷静にヒジリに伝える。
「伝承で言われている『大いなる再生者』は『炎翼を背に付け、羽ばたきは地を焦土とし、灰の中から死者と大地を蘇生させる。』と言われてます。話だと死者の蘇生は自分の命を犠牲ですよね?」
「知らない人からしたら勿体ぶってると思われる……か。身の危険の方が大きいな。」
リィムが言いたい事が理解出来て俺が補足すると頷く。
「わ、分かりました。でで、ではこの話はここだけの秘密でお願いします。」
ヒジリも頷く。助けてもらった礼と言う訳では無いが、余計な災難からは身を守ってやらなければならないと思う。しかし他のもこんな感じでハイリスク・ハイリターンなのだろうか?
「ちなみに他の特異能力って何なんだ?」
「そうですね、他のはレピスが所持している『聖龍の瞳』と言って名前と顔を覚えた精霊限定ですが他人の視界を見る事が出来る能力です。」
え? 何その情報収集に特化した能力? あの人強い上にそんな能力まで有るのか……本当に規格外なのだろうな。
「他には……
『切り裂き魔』は全てを斬り裂くと言われてます。
『創造する者』は知識を具現化できるそうです。
『魔槍の騎士』の槍は神をも貫く力が有るとか。
『輝く者』は事象を斬る武器を持つそうです。
『白い死神』その暗殺を防げるものはいないとか。
『旅する黒兎』空間跳躍能力で人間界にも飛べるとか。
『神の代行者』その力は海や大地を割り、常識を覆すそうです。
以上が残っている特異能力の伝承です。どれも普通の精霊術では不可能な現象を起こすのは間違いありません。」
何だそのチート全開の能力集団は! 無茶苦茶過ぎるだろ! でもヒジリが手に入れたと言うなら俺も手に入れられるのかな?
「普通の精霊術も満足に使えない奴が夢見るな。」
冷静なハッキネンのツッコミが飛んで来たが……全くもってその通りだな。代価が必要なら俺が使った時には干からびてしまうだろうな……
そんな話を聞いて自分の力の無さを痛感していると、やっと集落が見えて来たのだった。
俺とリィムは着いた途端に即休憩所に向かいベッドにダイブした。暇を持て余したティルがうるさかったが睡魔の方が強かったのは言うまでも無い。




