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第24話 きっかけ

「龍一、ポスト確認して来い。」


 珍しく朝一から親父が兄さんの部屋へ行って命令している。


「えー、何で?」


「毎年この日はお前の荷物で一杯だからだ。近所迷惑だから早く回収して来い。」


「俺が出ると余計に近所迷惑じゃん。辰巳に行かせてくれよ。」


 アーアー、毎年面倒なこの日が来ましたよ! 2月14日のバレンタイン! 今日は折角の日曜日で学校も無く平和に過ごせると思ったら家のポストもかよ! 頭おかしいんじゃねぇの?


「辰巳、手間だが回収して来てくれ。カラスが寄って来ても困る。」

「カラスが湧くレベルなのかよ! だったらもうカラスにくれてやれよ!?」


 俺はリビングでゲームをしながら抗議する。待ち伏せ組も居るだろうから絶対にそんな危険なエリアに行きたくない! むしろカラス頑張れ!


「だから近所迷惑になるから早く回収して来い。」

「親父が行けよ……。」

「待ち伏せしている人達から、見た瞬間に舌打ちされるから無理だ。」


 ああ、親父も被害者なのね……気の毒になって仕方なく玄関を出て門口のポストに視線をやると、そこには溢れ返ったチョコの山が見えた。玄関の音を聞いて数人がこちらを覗き込んでいるのが確認できた。


「今年も多いな……、そして待ち伏せ組の殺気が尋常じゃねぇ……。」


 俺は持って来たダンボールにチョコを回収してポストの中を空にすると、待ち伏せ組が声を掛けて来て兄が居るのかを確認して来る。


 俺は愛想笑いをしながら旅行中だと答えて、その人たちの分も全てダンボールに回収して家の中に入れる。他に待ち構えている人が居ないか様子を見るが居ない様だ。


 ……でも何か視線を感じる。気のせいか?


 家の中に入ってリビングのテーブルにチョコを広げる。そして兄さんを呼び出し今日の外出禁止の命令をした後、このチョコの山の処理をどうするか家族で相談が始まった。





 ピンポーン 


 相変わらずの突貫して来る人がチャイムを鳴らすが、全部代理で俺が断るのもいい加減疲れて来たんだが!? と言うか知り合いもせずに告白して来る奴らって頭おかしいんじゃないのか!?


「タツミ宜しく。」


「またかよ! 一体何時まで続くんだよこれ!」


 兄さんに言われて再び俺は玄関へと向かう。もはや何度目の呼び出し音が解らない! 


 ウンザリしながら玄関を開けると誰も居なかった。念のためポストを開けると、ご丁寧にメッセージカード付のチョコが入っているであろう箱が置いてあった。


「はぁ~、またかよ。」


 そう言って箱を手に取るとカードには大きく解りやすいように文字が書いていた。


「タツミ君へ」


 その文字を見て、俺は何かイタズラなのかと思って周りを見回が誰も居る気配がない。


「あれ? これって俺宛なのか? どうせ俺を通じて知り合おうって言うイタズラだろ?」


 俺は一人で疑心暗鬼に陥ったが落ち着いて家に戻る。こんな俺にチョコを送る人なんて本当にいるのだろうか? 


「ん? どうした。また龍一のじゃなかったのか?」


 親父が声を掛けて来た、俺の顔が不審そうな表情していたからか心配そうに見て来た。


「いや、珍しく俺宛だったけど……本当かは疑わしい所だな。今まで何度も似た事が有ったし。」


 そして机に箱を置いて箱を開ける。ビックリ箱で無い事だけを本気で祈ったのは言うまでも無い。


「これは、手作りか。」


 中身はトリュフの様なチョコが数個入っていた。手作り感が満載だったのが意外過ぎた。そして中にもメッセージカードが入っていた。


「あなたの剣道を応援しています。頑張ってください。」


 それを覗き込んでいた親父と兄さんに弄られたのは言うまでも無いが……一体誰だ?


 それを見てふと、中総体後の先生の言葉を思い出した。俺の剣道見て感動していた観客が居たと先生が言ってたな……もしかしてその人か?


 多分それ以外考えられない様な気がする。だって名前も書いて無い上に剣道のワードを使って来る人はごく少数だろう。それにうちの剣道部は女子部が無いからその線も無い。


 俺は苦笑いしながらも、ちょっとだけ嬉しかった。あんなに嫌になっている剣道のおかげで人生初のチョコを貰えたのだから、何と言う皮肉だろうと思ってしまった。




 翌日、顧問の先生に中総体の時の件を聞いて見たが、帰ってきた返事は


「個人情報なので教えれません。自分で探しなさい。」


 教えてくれたってイイジャン!


「一応、年齢だけは教えてあげるとお前と同い年だよ。」


 うん、半端なヒントありがとう。つまり、うちの中学か、よその中学かも謎のままなのかよ。範囲が広すぎるわ! そして俺は少しだけ剣道を頑張ろうと思えたチョコの送り主を探そうと決心したのだった。


――――――――――――――――――――――――――――





「お~い……いい加減起きろー!」


 デジャブな感覚に襲われながら目が覚めると、俺はティルに全力でゆすられていた。チョット良い感じの夢を見たのに起こされ方で台無しだよ!


「うっさい! 普通に起こせ!」

「起きない方が悪いんでしょ! ケガの具合はどうよ?」

 

 おっと、そう言えば最後の一撃の際に色々と良くない音が体の内側から聞こえて来たな……ってアレ? 思ったほど痛くない。


 倒れ込む前の痛みから察するに立つのも厳しかった記憶が有るのだが、全快と言う程では無いが今は痛みながらも立てるし歩ける様だ。


「痛みが良くなってる気がするんだが……ティルが何かしたのか?」

「残念ながら私じゃ無いわ。治したのは私のもう一人の契約者よ。」


 ん? もう一人の契約者? どう言う事だ?


「つまり、ティルをポンコツに貸してくれていた優しい契約者様が居たと言う事。」


 ハッキネンの声が内側から聞こえたと言う事は同化状態は続いているのか。改めて近くを見るとリィムは壁にもたれながらこちらを見ていた。


「ええ、力を使い過ぎて少し休むと言ってました。私の骨折や、タツミさんケガを治してくれましたが……精霊術でここまでの回復術を使えるのはかなり珍しいですね。」


「そうだな、それにかなりの実力者なのは間違いないと思う。」


 ハッキネンまでもが素直に褒めているって事は相当な人なのだろう。しかし……俺にティルを貸してくれた? ハッキネンの様に同化出来ると分っていたのだろうか?


「そうね、私から見ても大した人間だと思うわ。それと……リィムから話は聞いたけど、何でタツミがハッキネンと同化出来てるの?」


 ティルが覗き込む様に俺を見て来るが……相変わらず距離が近い! 興味津々なのは伝わって来るが相変わらずの距離感だな!


「だから近い!」

「ぎゃ!」


 懲りずにデコピンを喰らって悲鳴を上げているが……いい加減学習しろよ。


「ふふふ……そう言う事をするなら、こっちにも考えが有るわ。ちなみに知ってるかしら? 同化中に表に出る方を選べる権限って基本的には精霊に有るのよね。」


 いたずらを思いついた顔で再び顔を至近距離に近づけながら言って来るが……どう言う事だ? 次に同化した時に仕返しでも考えているのか? そう思った瞬間だった。


 ティルの見た目が髪と瞳だけが黒く変わっていく……吐息がかかる様な距離まで詰め寄って来てから契約主と入れ替わりやがった!?


「え、えええ……え? あ、あああ……」


 表に出た契約主の人は一瞬状況が読み込めなかったのだろうが、現状を把握して顔を真っ赤にして硬直してしまった。言葉にならない言葉を発している。


「あ、え? あの……は、初めまして……」


 俺にもその緊張は伝わって来て変な第一声を発してしまった。ティルに喰らわせようとしたデコピンをしようとしていた手が行き場を失って困ったことになっている。


「あああ、あ、あの……は、初めまして……ヒジリって言います。」

「お、俺はタツミだ。よ、よろしく。」


 お互い下手に動けなくて固まってしまった。何とかヒジリと名乗った少女は自分の名前だけは言えたと言った感じだった。俺も似た様なモノだが……


「いつまで固まっているんですか、近すぎますよ。少し離れて自己紹介しましょうか。と言うか動けるなら歩きながらにしましょう。長居する場所でもなさそうですから。」


 むくれ顔のリィムが俺達の肩を掴んで距離を離すと間に入って来た。急な事態で行動が出来なかったから助かった。


 ヒジリの方は少し名残惜しそうな声を出していたが……初対面だよな? どこかで会った事有るっけ? と言うか色々と確認する必要が有る事が多すぎる。


「そうだな、歩きながら色々聞かせてくれ……ヒジリさん。」

「あ、あの……よよ、呼び捨てで良いです。む、むしろ呼び捨てでお願いします。」


 顔を相変わらず赤くしているが……いきなりあんな状況で変わられたらそうなるよな……何と言うか申し訳ない気持ちで一杯だったので希望通りにする事にした。


「分かった、ヒジリ。宜しく頼む。俺も呼び捨てで構わないから。」


「あ、ああ、あの……わ、私は呼び捨てに慣れて無いので……よ、宜しくお願いします……タ、タツミ君。」


「わ、分かった、ヒジリが好きなように呼んでくれ。」


 何だろうこの甘酸っぱい雰囲気! こんなの経験した事ねぇよ! この後どうするのが正解なんですか? 誰か教えてください。


「さぁ、呼び方も決まった様ですし行きますよ。いい加減に上に上がらないと私の体力が回復しませんから。」


 怒った表情でリィムが俺の首根っこを掴んで坂道を歩いて行く。ヒジリも慌てて追いかけて来るが……何でリィムは怒ってるのだろうか?


 すぐに体勢を直して後ろをついて行く。取りあえずやっとこの地獄の様な場所から帰れると言う安堵の気持ちで一杯だったのは言うまでも無い。

 

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