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第23話 乾坤一擲の一撃

 本体は判明した、問題はアレを破壊するだけの火力を俺が出せるかどうかだ。減らず口を叩いてはいるが先程の攻撃でハッキネンは既に精霊力が限界だ。これ以上は消滅するかもしれない。


「ハッキネン、時間が無い。力をギリギリまで貸してくれ。」

「構わないが何をする気だ?」


 ハッキネンが小首をかしげる。自分に一撃を頼むなら解るが力を貸してくれとはどういう事だ? と言う顔をしている。


「攻撃はもう無理だろう? 下手すれば消滅する位に消耗しているのは解っている。だから、試してみないと解らんが『身体強化』を限界まで使って加速して踏み込んで『氷刀』も強化してみる。同時に使えるか解らないけど。」


「待て! 火に対して氷は消滅属性だ、『氷刀』を火の精霊術で強化? どんな反動が来るか解らない。」


「だから、氷の属性の方を強くすれば何とか耐えられるかもしれないだろう?だからお前の力を貸してくれ。お前が表に出るよりは全員が生き残る可能性が有るだろう?」


 ハッキネンは予想が付かない術の併用に悩んでいる様だ、もしかしたらハッキネンの方が力を消耗して消えてしまうかもしれないし、俺の生命力が耐えられなくて死んでしまうかもしれない。色々なケースを想定している様だ。


「ぐぅ……ぐぐ……」


 顔を真っ赤にして耐えているリィムの声が聞こえて来た。そちらを見ると何とか耐えているがいつ限界が来てもおかしくない状況だ。


「やるぞ! このままではリィムが殺されてしまう!」


 俺は覚悟を決め、氷刀を左上段で構えてハッキネンに声を掛ける。そしてハッキネンも覚悟を決めたのか真剣な表情で返事をしてくる。


「そうだな、やるぞ! 死ぬなよポンコツ、リィムが悲しむから。」

「お前もな!」



 二人で覚悟を決める。地面に落ちた核までの距離は30メートル程。身体強化で走りながら踏み込みの距離をかせぎ、勢いをつけて核を叩き斬るしかない。

 

「行くぞ、『身体強化』!」


 全身の強化すると二つの力を感じた。火の精霊力と氷の精霊力が体の中で反発している。二つの力が体内でぶつかる度にハンマーで殴られたような鈍痛が走る。


「ぐ……、」


 うめき声が漏れるが時間が無い、力が反発しあって上手く出来ない。焦る感情を感じてハッキネンが声を掛けて来る。


「ポンコツの斬撃は私には解らないが、氷の精霊力は氷刀だけに集中!添えている右手に!そこだけなら私が反発を制御する!」

「ハッキネン、すまん頼む!」


 おれはハッキネンの言葉通りに添えているだけの右手に氷の精霊力を集中させる。打ち込む際に使う左手に力を込める。


「力み過ぎ!身体強化も全体じゃない、流れる様に今必要な箇所をピンポイントでイメージして強化する!」


 ハッキネンのアドバイスが続いた。そうだ、力み過ぎてはいけない。脱力からの一撃が大事なのだ。何度も練習した一撃だ、いつ、どのタイミングで、どの筋肉を使うのかは理解している。それをピンポイントで身体強化を100%の力で発動させるだけだ!




「ブモォォォォォォ!」


 意識を集中させていると再び咆哮が聞こえた、ほとんど動けない筈なのに何か嫌な予感がした。


「ポンコツ! 後ろだ! 横に飛んで伏せろ!」


 ハッキネンの言葉に反射的に横っ飛びすると、トマホークが脇腹をかすめて飛んで行った。


「まさか、アレって遠隔操作で動くのかよ!」

「さっきの攻撃も投げたんじゃない、核が命令で動かしている!」


 もしかしてさっき睨み合っている時に考えていたのは、自分が突進するかトマホークを遠隔操作して不意を突くか悩んでいたのか!?


 いや、そんな事はどうでも良い。問題は時間が無いのにトマホークの攻撃で精霊力を練る為に集中する時間が無い! 俺があの核を砕くには普通の攻撃じゃダメなんだ!


 リィムのうめき声とトマホークの風切り音が空間に響く、焦りの感情だけが俺を支配していた。


「いっそ撃ち落としてそのまま核を斬るか?」

「いや、トマホークを撃ち落とすほどの力は出せない。露出している核ならまだしも……」

「分かったわ、アレを撃ち落とせば良いのね!」


 俺とハッキネンは回避しつつ、トマホークの風切り音に負けない様に大声を上げながら相談していると、会話を聞いたのか上から声が聞こえて来た。


 そうだ、この声はアイツだ! 相棒が来たんだ!


「落ちろ! エクスプロージョン!」


 聞き慣れた声と同時に上層の方から火球が飛んで来た! そしてトマホークに当たると爆発し共に粉々に砕いた。それを確認して俺は再び氷刀を構える。

 

「ナイスだティル! 行くぞハッキネン!」

「おう!」


 あの核を砕くには精霊力と生命力が足りないのが直感で理解出来た。しかし今は命を懸けてでも限界を超えてやらないといけない! もっとだ! 限界を超えろ! 限界を超えるイメージをするんだ!


「コレは……まさか火属性の特性『限界突破』!? ポンコツ! 一撃しか打てないと思え!」

「解った!行くぞ!」


 覚悟を決めて気合いを入れる。


 まずは踏み込みの右足の親指を中心にピンポイントで身体強化! 地面を蹴る! 


 同時に何かが切れるような音がしたが気にしない。アドレナリンが出ているのだろう痛みはまだ無い。


 驚くような跳躍でミノタウロスの目の前まで一瞬で間合いを詰める。そして勢いをつけたまま左足で地面を踏み込むと同時に氷刀を核目掛けて氷刀を振り下ろす。


「これが乾坤一擲けんこんいってきの一撃だぁぁぁ!」


 さらに一歩踏み出して左腕の鞭の様にしならせた筋肉を力の流れの順に強化する。


 核の部分に体重と力を一気に流し込む様に打ちつけると同時に踏み込んだ右足が地面にめり込んで鈍い音が響き渡る。完璧な気・剣・体の一致を自分でも確信する渾身の一撃だ!


 次の瞬間、核が真っ二つに割れて砕け散った。


「ブモォォォォォォ!」


 咆哮が聞こえてそちらを振り向くとミノタウロスがリィムを手放す。リィムはその場にうつ伏せに倒れ込んだが、苦しそうな声が聞こえたので生きている様だ。

 

 そしてミノタウロスは苦しむ様にもがきながらゆっくりと霧散して行った、再び目線を戻すとあれだけ苦しめられたトマホークも溶ける様に霧散していく。


「勝ったか……。」


 勝ちを確信した瞬間に全身の力が抜けるのを感じ、そのままうつ伏せに倒れ込んでしまった。気が付いたら両足の膝から下と背筋や左腕等のあちこちの筋断裂した激痛と骨に違和感に襲われた。


「イダダダ……、これって強化しすぎたか?」

「いや、アレ位強化しないと壊せなかった。でも過剰強化でしばらくは肉体のダメージが残る筈。針で全身を刺されているレベルの痛みを覚悟しておく事。」


 ハッキネンも疲労困憊の顔だ。嫌味っぽく言っているが、多分精霊力の反発ダメージをかなり肩代わりしてくれていたのだ。最後の方は反発による痛みを感じる事無く戦えたのはそれが原因だろう。ハッキネンもしばらくは針を全身に刺される様な痛みと戦う事になるだろう。


「リィム、大丈夫か? グッ……、」


 リィムの安否を確認する為に大声を出すが、声を出しただけで肺付近の筋肉が針で刺されたような痛みに襲われた、ハッキネンが言っていたのはこの事か。


「肋骨数本をやられました。幸い内臓に刺さっては無いようです。」


 リィムの返事を聞くと取り合えず致命傷は無い様で安心した。取り合えず満身創痍ながらも全員生き残った。


「ちょっと私を無視して勝利の余韻に浸らないでよ!」


 ティルの苦情が聞こえて来たが……合流できれば多分大丈夫だろう。そう安心した俺は痛みよりも酷い倦怠感で気を失ったのだった。


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