第17話 多重契約とハッキネン
「……? どういう事だ?」
頭の中でリィムの声が響く。どういう事だ? 俺も理解が追い付かない。
「ぇ? もう死後の世界? 夢の中とか?」
「そんな訳は無い。これは現実。何故私がポンコツと同化している?」
そんな事言われても俺も解らん、しかし体調は回復してきているのが解る。
「解らんが、体調は治ってきている。リィムはどうだ?」
「ほんの僅かだが回復している様子。しかし、一体何を? 私は契約主を取り込んで居るから人間の肉体も持ち合わせている。だから同化は絶対に出来ない筈。」
「そう言われても俺も解らんし、とりあえず状況を把握するか。」
平衡感覚が少しづつ戻って来る。そして感覚が戻って来ると同時に体の下に何か温かいモノが有る事に気が付いた。
「く、苦しい……、避けてください…。」
誰かの聞きなれない声が聞こえる。慌てて避けると同時にリィムの驚く声が響いた。
「リィム!? 意識が戻った!?」
ぇ? リィムと呼んだ? お前じゃないの?
「その声はハッキネン? どこに居るの?」
ハッキネン? リィム=ハッキネン……? 一人で混乱していると二人の会話が聞こえて来る。
「リィム! 良かった……もうずっと……声が聞こえなくなって消えてしまったと思った。」
泣きそうな顔のリィムの顔が浮かんでくる、いや、会話からするとハッキネン? よく解らん。そして違和感に気が付く。浮かんでくるハッキネンの髪が雪の様な白金色に変わっているのだ。
「ハッキネン? どこ? 私の中に居ないし姿も見えないけど……」
「目の前に居るその男と何故か同化している。原因が全く解らなくて困っている。」
「え? 契約主以外と同化って出来るのですか?」
リィム? がとても驚いた声で言うが……俺も驚いてますよ?
「すまんが、俺もよく解らない。ちなみに名前で混乱しているんだが、君の名前は?。」
「あ、失礼しました、初めまして。私はリィムです。苗字はありません。そして契約精霊がハッキネンと言います。名前で混乱と言うのは……?」
質問の意味が理解できなかったのか小首をかしげる。リィムを見ると亜麻色の髪はそのままだが、目の色が変わっている。さっきまでは水色だったのだが今は茶色の眼になっていた。
「俺は、工藤 辰巳。タツミと呼んでくれ。と言う事は……今俺と同化しているのがハッキネンと言う事か? 何で名前を合わせていたんだ?」
俺は自己紹介をした後にハッキネンの方に質問する。
「それは……ハッキネンだけ名乗ったらリィムが居たと言う事実が無くなりそうで嫌だった。リィムと言う人間が居たと言う事実を残したかった。」
「なるほど、そういう事か。それでリィム=ハッキネンと名乗っていた訳か。」
「ハッキネン……ありがとう。もう大丈夫だよ。」
ハッキネンの話を聞いてリィムが照れ臭そうにして声を掛ける。
「で、感動の対面の所申し訳ないが、現状は切迫している。リィムはこの現状で不自由なく動けるのか?」
二人とも涙顔な所に話を切り替えるのは申し訳ないが現状は良い状況では無い。急いで行動しないと、いつまたミノタウロスに襲われるか解ったものではない。急にリィムが目を醒ました事も気になるが、それは後で聞こう。
「私は平気です。これでもこの世界では長生きしてますから。」
「ではしばらくの間ハッキネンは借りてても良いか? 俺は同化してないとすぐに行動不能になってしまうので。」
「それは大丈夫ですよ、私単独でも龍位精霊とだって戦えますから安心して下さい。」
とても屈託のない笑顔で承諾してくれた。そして何と言うか……可愛い! 何だろう、ハッキネンと違ってこの感じは……そう、出来の良い妹みたいな雰囲気だ! 癒される!
「おい、タツミ……。今の感情を説明してもらおうか?」
ハッキネンの目が怖いのでこれ以上妄想するのは危険だな、止めておこう。
「さて、とりあえず現状を説明しながら脱出を図らないとな。取り合えず歩けるようになったから移動しながら話そうか。」
「そうですね、現状を把握もしたいですから……あれ? 足が。」
立ち上がったリィムだが膝が笑っているのが分かった。ふらついたまま俺の腕を掴んで何とか体勢を整えた。
「す、すみません。上手く体がまだ動かせない様です……。」
「仕方ない。十数年ぶりに表に出たのだから当然かもしれない。」
ハッキネンがさらっと凄い事を言った気がするが気にしない事にしよう。久しぶりに体を動かすからか感覚が追いついて無いのかも知れない。
「体が慣れるまではおんぶしてもらえ。一刻も早く脱出する必要が有る。」
「「え? おんぶ?」」
俺とリィムの声が重なるが……サラッと凄い事を言って来た気がする。見た目子供でも流石に女性をおんぶするのは抵抗があるぞ?
「ポンコツ、今私達を子供と認識していた様だが……リィムは16歳の時に精霊界に来た。」
「え? 同い年なのか?」
どう見ても12~3歳位にしか見えない。当時の栄養事情とかのせいなのだろうか? 寄りかかられた時も物凄く軽かったし……事情が有るのだろうが最初の思ったのはコレがロ……いや、考えるのも危険だな。
「ポンコツ……今、ロリキャラって言おうとしたな? 私には解る。」
「ちょ! ハッキネン!? お前!」
ハッキネンの物凄い悪巧みの顔が見える。こいつ今までの無駄口を叩かないスタイルは何処に行きやがった!
「ふ~ん。ロリキャラ? って何かわかりませんが。ハッキネンの言い方だとあまり良い意味では無いようですね。」
「いや、違うって。可愛いとか、庇護欲をいだかせやすいとかそう言う意味だから!。」
リィムの引きつった笑顔が怖い。何でこうなる!
「そこの説明に実年齢より幼く見えるとか、幼児体型とかが抜けてる。」
ハッキネン!? お前何処でそんな知識仕入れたの!? あ、同化した時点で俺からか。
「違うって! 誰もそこまで思って無いし! ってリィムさん!? 掴まれてる腕が痛いんですが!? 待って! ハッキネン! お前絶対わざとだろう!?」
リィムの顔が引きつっていく、それに比例して腕への握力が上昇してきている。痛いって! 何でこうなるんだよ!
「リィム、このポンコツはまだ弱いから、それ以上やると大変な事になる。後、私が同化してるからそこら辺で止めて。少し痛い。」
「あ、そうだったね。ごめんなさい。タツミさん、女の子に失礼な発言はダメですからね?」
リィムは手を離すと笑顔で言って来る。何だろう、妹に叱られている兄の気分だ。まぁ俺に妹は居ないけど。
「リィムは妹キャラだけど、タツミは兄と言うタイプじゃない。変な妄想しない。」
ハッキネンのツッコミのダメージが先程からえげつないんですが?
「妄想してねーよ! お前までティルみたいな事してんじゃねー!」
つい大声を出してしまった。リィムはそれを見てクスクスと可愛らしく笑っている。それを見て俺も毒気を抜かれて冷静になる。そして話題を本来の話に戻す。
「では初対面の男に背負われるのは嫌だろうが我慢してくれ。」
「いえ、こちらこそスミマセン。お願いします。」
背負うと余計に軽さを感じて逆に怖くなった。同い年の人間がこんなに軽いのか? 一体何が有ったらこうなるのだろうか?
余りの軽さに言葉を失って歩いているとすぐに寝息が聞こえて来た。起きたばかりとは言え体力を消耗していたのだろう。俺はハッキネンに誘導されるまま大きい通路を目指して歩き出した。




