第15話 目覚め前の真実
あの日、私は自宅に帰り食事も終わって家でゆっくりしていました。
そして寝ようと自分の部屋へ向かう階段の途中で突如大きい地震に襲われて階段から落ちた所までは記憶にあります。その直後の事でした。
「ここは……? 死後の世界?」
真っ白な空間に私は立っています。
何もない広大な空間です。
死後の世界と勝手に認識して冷静になると、沸々と怒りが湧いて来ました。
「ちょっと待って? 私死んだの? タツミ君と知り合ってすらいないのよ! 青春も満喫しないで死んでいられない!? こんな不健康な体で一生懸命に頑張って来たんだから少しくらい幸せを寄越しないさいよ!」
空間に向かって今まで溜まっていた、自分に降りかかった理不尽な出来事の怒りの感情をぶつける。
「元気な体が欲しいの?」
空間から優しい少女の声が響きます。どこから聞こえるのか方向が解りません。まるで頭に直接響いてる様でした。
でも、そんな事はどうでも良かった、私はずっと抱いていた希望を声に向かってぶつけました。
「私が欲しいのは、元気な体だけじゃない! どんな病気やケガだって治せる力が欲しい! 私だけじゃなくて、同じ病気やケガで苦しんでいる人を助けたい。何も悪い事をしてないのに不自由な思いをする人が居なくなる様な力が欲しいの!」
そう叫ぶと空間の中心に何かが集まって来る。ぼんやりとした人の形に見える。
「では私の力『大いなる再生者』をあなたに貸すわ、傷や病気等は生命力を代価として治す力よ。しかし死者を蘇生させると等価交換の原則で命を失っちゃうから注意しなさい。後もう一つの能力は受け取れば分かるわ。」
そう言ってよく解らない人型の何かが私にそっと手を握ると何か温かい物が流れ込んでくるのが解りました。そして何かの力とその知識が頭に流れ込んでくるのでした。
「これが『大いなる再生者』?」
私が一人で混乱していると何かが話を続けます。
「この力は今の貴方に必要な物。私が出来なかった事を貴方は叶えられます様に。」
そう言うと人型の何かは霧散していきました。私が茫然としていると目の前に誰かが倒れているのを見つけたのです。
「あれは……、タツミ君!?」
私は慌てて駆け寄ると、彼に声を掛けて意識が有るか確認する。反応が無いので彼の体をゆすってみますが返事は有りません。しかし彼の体からリアルな体温を感じます。生きている、これは夢なんかじゃない。
「タツミ君!タツミ君! 起きて!」
完全に意識も無く呼吸も浅い、脈も弱く今にも死んでしまいそうな表情です。
ここは何処なのだろう?
救急車を呼ぶにも何もない。
誰に助けを求めれば良いのかも解らない。
「ここは一体どこなの? 彼が本物ならお願い、助けて!」
私はパニック状態になりかけて叫びました。そして今まで溜め込んでいた彼への思いをぶつけたのです。
「私はタツミ君と話がしたいの!ずっと見てたの!タツミ君の話が聞きたい、貴方がどんな人なのか知りたい。だからお願い!目を開けて!」
そう叫ぶと手のひらが異常に熱くなったのです。
妙な熱を帯びているのを感じますが不思議と心地良い、そしてその熱が彼に流れているのを感じると同時に自分が疲労していくのが解りました。
「これが、『大いなる再生者』の力? これなら助けられる!?」
しかし彼は瀕死の様だ、先程の説明だと等価交換と言う事は自分が瀕死になると言う事なのでしょう。何とか動ける位まで回復して、私も最低限の余力を残さないといけないと思いますが加減が解りません。
しばらくすると、彼の顔色が良くなり呼吸も落ち着いてきたのが解りました。脈も正常になって来たのを確認すると私は手を離します。
そして同時に物凄い倦怠感に襲われたて仰向けに倒れ込みました。
「ここで倒れたらどうなるのかしら? 誰も居ない空間。ここはどこなの?」
独り言をつぶやくけど、どこからも返事は無い。
体力を使い過ぎてもう立てない。意識が朦朧としてきた。今気を失ったら死ぬんだろうと何か確信めいたものを感じる。もしかしたらこれが最後の独り言なのかもしれないと思うと何かが吹っ切れました。
「私はタツミ君と楽しく話がしたい! 素敵な人だったら恋人にだってなりたい! だからまだ死にたくない! 生きて彼と人生を楽しませろー!」
今度は真っ白な空間の天井に向かってこの3年貯めていた恋心を人生でこれまでない位の絶叫で叫んだ。
そうすると今度は私のすぐ横に一人の少女が現れた。
「私に名前をくださいな。」
彼女は私の顔を覗き込んで声を掛けて来た。良く見ると綺麗な薄紅色の髪と瞳をしていたがそれは《《私》》だった。
「貴方は……私?」
「いいえ、私は貴方の強い感情から生まれた精霊よ。貴方の彼と生きたいと言う感情から具現化した精霊。」
そう言って彼女は私に精霊界の基本的な事を教えてくれた。
精霊は強い感情で具現化される事。
具現化された精霊は基本的に具現化主の姿と同じになる事。
精霊界では精霊と契約しないと強すぎる精霊力に押し潰されてしまう事。
それを防ぐ為に契約精霊と同化して精霊力を調整してくれる事。
自分で精霊力のコントロールが出来れば分離も可能な事。
契約には名前が必要な事。
「貴方と契約したとして、彼を助けてくれるの?」
私だけが生き残っても意味が無い。彼と一緒じゃないと願った意味が無いのだ。
「残念ながら、彼は精霊を具現化する程の素質が無いようね。感情が弱い人間は精霊を具現化できないし、精霊界で意識を戻すことも難しいかな。」
感情が弱い? 彼が? 腑に落ちません。しかし先程の治療で体力を使い切った私も時間があまり無いのを感じます。意識が怪しくなってきたのです。
「私も体力的に時間が無いっぽいから、単刀直入に聞くわ。彼も精霊と契約できれば生き延びられるのよね?」
「そうね、精霊力を調整さえ出来ればいいのだから。」
「では私は貴方に半分の名前を付けるわ。残り半分は彼から付けてもらって。」
私の予想外な提案に彼女は目を丸くさせる。
「そうすれば私も彼も生き延びれるでしょう?」
「解らないけど、貴方がそう望むならやってみるわ。しかし貴方も精霊界には慣れてないので同化しないとすぐに死んじゃうわよ? 同化は一人しか出来ないし。」
彼女はどうしたものかと言った顔で困っている。確かに話を聞いている限りそうだろう。
「大丈夫、まずは貴方の半分の名前ね。では苗字として『アルセイン』にするわ。名前の方は彼に付けてもらって。私の名前は『火神 聖』よ。よろしくね。」
「アルセインね、ありがとう。聖、よろしくね。」
アルセインはそう言うと私の手を握る。そして炎の様になっていき私の中に入って来た。
「少し体が楽になったけど、時間が無いわ。私はとある力を使って休眠状態になるから。アルセインの体の一部だけ間借りして眠っている状態にするね、彼との同化には支障が無いようにするから。」
そう言うと私は立ちあがって辰巳君の手を握る、そして私の限界ギリギリの生命力で回復させる。意識を戻すために。
そして生命力を限界まで使った私は、先程貰った『大いなる再生者』のもう一つの力を使う。するとアルセインが表に出てきました。
「これは一体? 聖? どういう事?」
アルセインが混乱しています。精霊からしてみてもこの能力は異質なのでしょう。
「自分を治すために一時的に休眠するような感じよ、心配しないで。回復したら戻るから。」
頭に流れ込んで来たこの能力の力は大きく二つ。他者を癒す力と消耗した自分を癒す力です。他者の傷を癒す力は「再生の炎」、自分を癒す力は「不死鳥の灰」との事でした。
「不死鳥の灰」は消耗した自らの生命力を再生させる為に一時的に灰となる様なモノで、解りやすく言うなら極度の深い冬眠みたいな感じでしょうか?
使用条件として精霊と同化している事。要するに灰になった自分を入れる瓶の様な入物が必要なのだそうです。その代わりデメリットとして同化中の精霊は人間側からの恩恵が無いと言う事でした。
つまりこの場合はアルセインは私からの生命力の供給が無くなる=精霊術が使えないと言う事の様です。だって灰になっているんだもん、生命力を貰えるわけがないですよね。
なので同化しているのに、してない事となるので今回はこのデメリットを逆に利用するのです。
「説明している時間は無いようだから、彼を起こして契約して。」
私の声が段々と小さくなるのは聞いてアルセインは仕方ないと言う感じで頷いて彼の方に向かう。
「後、彼には私の事は絶対に秘密にして。自分で全部話したいから……、約束よ。」
「解ったわ、聖の事は絶対に秘密にする。彼との再会の時の楽しみだものね。」
アルセインが笑顔で返してくれたのが解る。流石に私の3年も拗らせたストーカーレベルの恋心の感情から生まれただけによく解ってくれている。
そしてアルセインの次の言葉を聞いて私は意識を手放した。再び彼と生きて会うために。
「さぁ! 私に名前を下さいな!」




