第125話 思惑と交錯
「あ、ルリ達が居ましたね。」
リィムが前方に居るルリ達を見つけると手を振りながら駆けて行った。そしてすぐ近くに来ると辺りを見回していた。おそらくタブレスが無事に合流できたのか気になるのだろうな。
ルリもすぐに意図を察してすぐ後ろの方で雪原の上に出されたソファーに横たわっているタブレスを無言で指差した。
しかし……臨時とは言え、雪原の上にソファーが有るのも違和感が酷いな……家を出したら目立ち過ぎるのは解るけど。
「兄上! 大丈夫でしたか?」
リィムがタブレスの方へと駆け寄って行く。先程は逃げるのを優先したので状態を確認できなかったのだろう。
「まさかタブレスでもダメな相手だったとはね。で、どうやって逃げて来たんだい? 一緒じゃ無いという事は説得には成功したわけでは無いんだろう?」
ルリは困惑した表情で確認して来た。
「兄さんは説得はしたんだが、人間には危害を加える気が無いそうだ。」
「人間という事は、純粋な精霊のタブレスさんは除外されるという事?」
横で聞いていたユキが質問してきた。声の方を見ると、ルリが出したであろうソファーにタブレスとは少し離れたところにクリューエルとレンが横たわっている。
その横にはナギとユキがそれぞれの様子を見ていたのだ。
「正確には人間に危害を加えていない精霊には手出ししないと言ってました。」
ヒジリが返事をすると全員が顔を見合わせる。そして視線はタブレス一人に注がれた。うん、タブレス居なければ特に問題は起きなかったと言う事なんだがな!
でも色々世話になった以上、そのセリフは口に出さないでおこう。こいつの場合は真面目に受け取るからジョークでも言えないんだけどな!
「まぁ〜だらしないわね〜また稽古をしないと〜いけないかしら〜。」
少し遅れてきたレピスの声が聞こえると全員がそちらの方に注目した。言葉もだが、歩くのもゆっくりだったので置いて来たのだ。
まぁこの人の場合は何が有っても平気だろうと言うのが前提にあるのだが。
「レピス来てたの? 私に会ったのって、ついこの前よね? 随分と早い移動だこと。」
「うふふ~私のこの眼が有れば~面識の有る子がどこに居るか~すぐに解るわよ~。ユキちゃん〜無事に合流が〜出来たのね〜。」
ユキが真っ先に声を掛けたが……面識有ったのか?
レピスは辺りを見回して面子を確認している様だった。一体誰々と面識があるんだろう? しかしレピスが特異能力持ちなのは周知の事だから隠そうともしていない。
「えっと、クリューエルさんから話しは聞いてたけど、この人がレピスさん? 初めまして私は『六波羅 凪』と言います。この寝込んでる役立たずは一応恋人未満の『鳴海 蓮』です。」
ナギが珍しく丁寧な口調で自己紹介を始めた。レンの下りは必要だったのか?
しかし顔見知りで無ければ普通に接するのだなぁと思っていると、それを察したであろうナギから鋭い視線が飛んで来た。
「ちょっと、何で呆れてる顔をしてるのよ? 露骨すぎるわよ!」
「いや、スマン。どちらかと言うと今の俺に向けてる様な態度のイメージしか無いから。」
「人の第一印象を悪くするんじゃないわよ!」
素直に言ったら物凄く怒られた。だって猫被ってもすぐにバレるって。未だにソファーで気怠そうにしているレンに視線を送ると、レンは何とか手を挙げて振っている。
「あらあら~大変そうね~。私は『レピス=ホーリット』よ~。宜しくね~。後は~精霊ちゃん達も~自己紹介してくれると嬉しいかしら~?」
レピスも名乗ると今度は精霊の自己紹介を頼んで来た。しかしその瞬間、ユキを除く全員が微妙な顔をしたのだった。
「あら~? どうしたの~? 何か問題でも有ったのかしら~?」
レピスが不思議そうな顔をしていると、ナギが重い口を開いた。
「私達の精霊って……その……やかまし過ぎるのよ。同時に出すと多分手に負えない状況になるのが目に見えているわ……。」
うん、俺もそう思う。特にガラントとパティスのコンビは酷いのが予想できる。
「パティが元気なのは分かってるけど、ガラントは私はまだ見て無いのよね。」
ユキも少し興味有り気に言うが、止めておけとしか言えない自分が居た。
「と言うか、今はそれよりも早く鳳雷を探しに行きましょう? 下手にまたリッパーにかち合っても困るでしょ? ちなみにレンの精霊の名前はガラントで、ナギの精霊の名前はパティよ。詳しい自己紹介は状況が落ち着いてからにしましょ。レピスは『聖龍の瞳』で鳳雷の今の居場所を教えてもらっても良いかしら?」
ティルが表に出て来てのんびりし過ぎと言わんばかりに強めの口調で言って来た。俺的には何となくだが先程のヒジリの行動と言い、ティルも何かを感じている様に見えた。
「せっかちね~鳳雷ちゃんは~雪原が見えるから今は氷の精霊界に居るわね~。でも~これは……精霊の数からして一番大きい集落で情報を集めている様ね~。」
仕方ないと言った表情で場所を教えてくれたが……人混みの中に居るなら本当にナギ頼りになりそうだ。
「よし、兄さんやリッパーに遭遇しないと言う保証も無いからな……。では捜索組と雷の精霊界に行く先発組を分けようか。」
俺もティルの言葉に同意して話を進める事にした。こういう時は相棒の行動に乗るのが正解だろう。何か考えての行動なのだろうし。
「ちょっと待て、鳳雷とは誰だ? それに探索組と分れるとはどう言う事なのだ?」
「悠長に話しているとまたリッパーが来るかもって言ってるでしょ? 詳しい話は移動しながらよ!」
話のペースの早さにアラスティアから苦情が飛んで来たが、無視する様にティルが話を強引に進める。流石にリッパーを引き合いに出されるとアラスティアも黙るしか無かった。
「探索組は問答無用でタツミとナギは確定ね。ヒジリと私も探索組に回るわ。後は……レン、そろそろ起きれるでしょ? たまには彼女位エスコートしなさい。ユキは光の精霊石をレンに貸してあげて。代わりに火の精霊石をレンはユキに渡して。それで行動出来る筈よ。」
ティルに言われてレンは気怠そうにしながらも体を起こす。そして言われるがままにユキと精霊石を交換した。
「確かに、これだと使いやすいな。てか、何でそろそろ動けると思ったんだ?」
「だって、タツミのお兄さんとは面識が有るんでしょ? だったらあの剣圧にもある程度は慣れが有ると踏んだけど、どうなの?」
ティルは推測を並べているが、多分もっと別の理由でレンを指名している気がするが今は口に出さないでおこう。
「そして先に雷の精霊界に行くのは、タブレスとルリさんとクリューエル。それにユキは介護役で行っもらえるかしら? レピスさんはお兄さんに遭遇した時の為にタブレスの護衛と言う事でお願いします。」
ティルは話を纏めようとする。皆が勢いで頷きかけるがレピスが疑問を投げかけて来た。
「でも~リッパーって『切り裂き魔』の事よね~かなり強いと思うのだけど~遭遇した場合は~タツミちゃん達は大丈夫なのかしら~?」
「接近戦にならなければ私が対処出来るのは確認済みよ。なので前衛のレンとタツミが居れば何とかなる筈だわ。月虹丸でもリッパーの刀は受けられたしね。」
「タツミちゃんは~大丈夫なのね~。でもレンちゃんは~どうなのかしら~?」
レピスも何故か引かない。メンバー分けに不満が有るのだろうな。
「ん~レンの部分は本当はね……。」
ティルが間を貯める。そしてレピスの近くに寄ると小声で言った。
「ナギのやる気スイッチです。ずっとレンと別行動だったから禁断症状が出始めてるのよ。」
「ああ~そう言えば~さっき~恋人未満とか言ってたわね~。」
二人はナギの方を見ると、声が聞こえていたナギは顔を赤くしながら猛抗議してきた。
「何がやる気スイッチよ! 居なくてもやる気は有るわよ!」
ナギの大声の後に後ろからつぶやく様な声が遅れて聞こえて来た。
「そうなのか……残念だ……。居なくても平気なんだ……。」
「何でそこでヘコむのよ! 誰も居なくて平気なんて言って無いわよ!?」
レンが虚ろな目で斜め下を向いてつぶやいている。コイツはお約束を分かっている様だな。ナギが見事なまでにイジられているなぁ。面白いから良いけど。
「それは~仕方が無いわね~。」
「そうそう、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られて死ぬのよ。」
レピスが生温かい笑顔で納得していると、ティルが横でどこぞの格言を言い出したが……意味的に合っているのだろうか?
「では行きましょうか。レピスはそちらをお願いしますね。後、おおよその集落の方向と距離を教えてもらって良いですか? ナギは以前に助けてくれた精霊の鳳雷のニオイを探して下さい。」
分担に納得したリィムはタブレスに肩を貸して立ち上がらせた。
「無茶ぶりが凄いわね……取りあえずタツミ君に似たニオイを探してみるわ。取りあえず有効範囲に入るまでは移動しながら探索になるわよ。」
ナギはヤレヤレと言った表情で意識を鼻に集中させつつ移動を開始した。ルリもユキやリィムに指示を出して移動を開始し始めたのだった。




