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第121話 挨拶

俺とヒジリは「身体強化」を使いながら、雪原に残ったタブレスと兄さんの足跡が続く方へと走っていく。流石にこの速度にリィムはついて来れないので、程よい距離で後から来るだろう。


「タツミ君、大丈夫? 緊張してない?」


 ヒジリが心配そうに見て来るが、そんなに緊張している顔をしていただろうか? 自覚は無いが俺をよく見ていたヒジリがそう言うのなら緊張しているのかも知れない。


「まぁ、説得してみるさ。確かに考えは解るが……絶対に正しい訳じゃない。」


 微かな希望を持って目的地へと急ぐが、兄さんに口論で勝てた記憶が無いからヤッパリ不安なのだろうと改めて自覚する。


「と言うか、緊張よりも不安だなコレは。」

「そうなの? 不安な時はそう言う表情をするんだ。覚えておくね。」


 自覚した事をヒジリに告げると、ヒジリは微かに笑顔になったが……俺は観察されているのか? 何と言うか表情を読まれまくったら隠し事も何も出来ない気がして来たぞ? まぁ隠す様な事も無いと思うが……


 まぁ、逆にいつものヒジリの様子を見せられて少し不安と緊張が解けた様な気がする。そして気持ちを切り替えると、前方に大量の黒い球体が浮かんでいるのが見えて来た。


「あれはタブレスの重力球か?」


 ハッキリと視認が出来るころには既にタブレスと誰かが戦っているのが見えた。間違いなくあの顔は兄さんだった。





「兄さん!」


 戦闘中の二人に俺が大声で呼びかけると、二人は間合いを取ってお互いを警戒しながらも、こちらの方へと視線を向けた。


「おー、タツミじゃないか! 元気そうだな!」


 兄さんはそう言うと構えを解いて、リラックスした様子でこちらに手を振って歩いて来た。


「貴様、舐めているのか!」


 タブレスがその行動に苛立ちを隠せずに、俺に近づけない様にと兄さんの後ろに黒球を移動させて引力で引っ張り出した。


「うるさいなぁ。ハンデで残しておいてやったのに。」


 兄さんは引っ張られるまま黒球に近づき、刀で黒球を一閃して斬ると霧散して消えた。


「な!? 重力の塊を斬っただと!?」


 タブレスが唖然とした瞬間、兄さんは雷光の様な速さで残っている黒球を次々と斬り捨てて行く。そして全ての黒球が霧散すると、タブレスの目の前に刀を構えて立っていた。


「いつでも斬れたんだよ。お前はタツミが来るまでの釣りのエサと一緒だ。お役目ご苦労さん。」


 タブレスに向かって刀を振り下ろそうとする。俺は咄嗟に間に駆け寄って月虹丸を具現化して兄さんの刀を受け止めた。


 刀同士の刃がぶつかり合う嫌な金属音が響くと、兄さんが驚いた表情で数歩後ろに引いた。


「タツミの今の移動速度、かなりものだな。精霊術か?」

「ああ、今のは火の精霊術の『身体強化』だ。」


 兄さんは少し不思議そうにしたが、すぐに満足気な顔をして構えを解いた。


「そうか、タツミも強くなったわけだ。兄としても喜ばしい事だ。ところでそちらのお嬢さんは……見た事有るな。ああ、学食のおばちゃんの姪っ子さんだっけか?」


 え? 何で兄さん知ってるんだ? あの合宿の時にヒジリと話した事が有ったのだろうか?


「ぇ? ええ? ええええええ!? な、何で覚えているんですか……? は、ははは、話した事無いですよね?」


 ヒジリがちょっと引いた顔をしている。話した事無いんかい! そりゃストーカーのヒジリでも覚えられてたら……アレ? 何かこれってデジャブ? いやこれ以上は止めておこう。


「ん~人の顔を覚えるのは得意なんでね。よく変人扱いされて困る時も有るな。」


 兄さんが無邪気な顔でそう言うと、気合いの様な圧を感じた。俺は稽古の時にはいつもこれを感じていたので特に違和感は無いが、後ろのタブレスとヒジリが少し苦しそうな顔をしていた。


「コレは……殺気? いや、違う。剣気の圧の様なモノ?」


 ヒジリが気圧されながらも立って兄さんを見据えている。


「コレは驚いた……先程の3人はこれで呼吸困難まで起こしたのに耐えれるのか。」


 若干興奮気味に兄さんがヒジリに語りかけているが、ヒジリの方はドン引きしている。兄よ……アナタが女性にドン引きの目で見られているのを俺は初めて見た気がするよ。


「兄さん? 何を言ってるんだ? これっていつも稽古の時に出してた気合と一緒じゃ無いのか?」


 俺の声に兄さんが我に返った様に俺の方を向く。


「いやいや、いつもはこの圧を抑えて人に向けてたんだが、誰も気付かなくてな。解るのはお前位だったし、後は多分認識したらダメと言う感じ何だろうな。全く気が付いてくれなかった。」


 チョイマテや。こんな人様を呼吸困難にさせる様な圧を普段から発していただと? 歩く殺人鬼か何かか?


「そんな物騒な……でも何で今回だけああいう風になったんだよ?」

「ん? ああ、先程はハッキリわかる様に殺気を圧の中に込めたからな。さっきのはお前も普段と違うと感じなかったか?」


 そう言われてみれば何となく違う様な気もしなくもない。と言うかどっちにしろアンタ人間か? と言いたくなって来た……。


「まぁ、それでもそれなりの精神力が無ければ体がすくんで動けなくなるのに……普通にしているとは中々の物だね。」


 そう言って兄さんはヒジリの方を再び向く。ヒジリはビクッと怯えた様な表情を見せたが、すぐに表情を引き締め直していた。


「それは光栄ですが、私は戦闘向きじゃありませんよ? 体も弱いですから、ご期待には添えられないかと。」


「そうか、残念。で、二人の関係は? 一緒に行動しているんだろ? そこの精霊も含めたお仲間なのかな?」


 再び兄さんがタブレスに向かって圧をかけ始めた。タブレスも既に俺の後ろからさらに距離を取り直して悪魔の様な手を構え直している。


「えっと……つ、つい先程から、こ、こここ、」

「こ?」


 ヒジリの急な言葉に兄さんが再びヒジリの方を向くが、どもっているのを見て首をかしげている。


「恋人です! ついさっき告白してタツミ君とお付き合いさせて頂く事になりました。『火神 聖』と言います! お兄さん宜しくお願いします!」


 正面から何ブッコんでんじゃい! 空気が明らかに違うでしょ!?


「恋人? タツミの?」


 兄さんは鳩が豆鉄砲喰らった様な表情になって俺とヒジリを交互に指をさして来た。


「ハイ! つい数時間前に告白したばかりですが……。」


 そう言ってヒジリは顔を赤くして下を向いてしまった……俺の表情は……呆然半分の恥ずかしさ半分だった。その様子を見て兄さんの時間が再び動き出した。


「お、おぉぉぉぉ!? タツミの彼女!? ついに? やったな! おめでとう!」


 そう言って兄さんは俺の首に腕を回して頭をわしゃわしゃと撫でまくり出した。


「いやー、いつ青春が出来るのかと心配していたが、良かった良かった。ヒジリちゃんだっけ? タツミの事宜しくな! コイツ鈍感だから、何か有ったらハッキリ言うんだぞ? 言いずらい時はいつでも相談に乗るからな!」

「兄さん! ガキじゃ無いんだから頭撫でるな! それにテンション上がりすぎだろ! 大人気無い!」


 撫でまわしから脱出して、テンション爆上がり中の兄さんに文句を付けると満面の笑顔で返事をして来た。


「バカたれ! 兄として彼女いない歴=年齢のお前をどれだけ心配したと思っている! 本当に……このまま独身で老後を迎えてしまうんじゃないかと心配で心配で……。」

「やかましい! 兄さんだって彼女いない歴=年齢だろうが!」

「俺は告白されまくってるから良いの、ノーカン。むしろ俺は運命の相手を探しているんだよ。お前と違ってモテない訳じゃない。」

「いやいや、人の心配する前に自分の心配しろよ! 調子かましていると頭が親父みたいにハゲて来て女にモテなくなるぞ!」

「いやいや、俺がハゲるんならお前もそうなるだろうが!? 兄弟なんだからそこら辺は一緒だろうが!」

「俺はもうヒジリが居るから平気ですー。もうモテる自慢は通用しません!」

「ぐぬぬ……弟よ……ついに兄を超えたか……。」


 何という不毛な兄弟喧嘩だろうか……しかし! これまでは兄にマウントを取られていたが今の俺なら勝てる!


 ぇ? 内容が違うって?


「あ、ああ、あの……タツミ君。そんな大きい声で言われると……は、恥ずかしいんだけど……。」


 ヒジリが顔を真っ赤にして下を向いたままになっている。兄さんはそれを見て笑いながら俺の方を向く。


「大事にしろよ。人の甲斐性なんてどれだけ相手を幸せに出来るかだからな! 」


 俺の背中をバシバシと叩いて来た。


「で、今の間にさっきの精霊を逃がした訳か。流石にお前の彼女のインパクトには勝てなかった。今回は俺の負けだ。」


 改めて兄さんは真顔になってこちらを見て言って来たのだった。


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