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第120話 帰宅、そして……

 ハッキネンとティルの一悶着が落ち着く頃には俺達はルリの家の扉の前に着いた。


「さて、無事に今回は終わった筈だから、さっさと次の精霊界に行くとするか……。」


 俺がそう言ってドアのノックして中の様子を伺う。


「それはフラグ、自分で言ってなかったか?」


 ハッキネンが後ろから言ってきたが、俺らの場合はフラグを回収した方が少ない気がする。


「そんなに回収した記憶が無いんだが? 意外とお約束通りになるのは現実では無いもんだぜ?」


 静かな室内に違和感を覚えながらもドアを開けると……俺達は珍しくフラグを回収したと思って思わず天を仰いでしまった。


 レン、クリューエル、ルリの3人が苦しそうに青い顔をして塞ぎ込んでいるのだ。そして呼吸すら苦しそうになっている。


「えっと、み、みんな一体どうしたの?」


 何と言ったら良いか解らない状況で、何とか最初に口を開いたのはヒジリだった。ヒジリは青い顔をして倒れている3人を順番に様子を見ながら豊穣ハーべストを使用して体調を治していった。


 状況が飲み込めない俺達は動けずにいたが、ヒジリがみんなを治すと同時に、各自を介抱する為に動き出した。


「ちょっと、レン! 大丈夫? 何が有ったの?」


 ナギは仰向けに床に倒れているレンに駆け寄ると、隣に座り込んでレンの手を握りながら意識を確認しているが、レンは呼吸を整えるが精一杯の様だ。


「エル、しっかりしろ。説明出来るか?」


 ハッキネンはクリューエルを介抱しているがこちらもレンと状況は同じ様子だ。ユキは状況が掴めずに入り口で唖然としている。


「ルリさん大丈夫ですか?」


 ヒジリが最後に一番症状が軽かったルリを治療すると、ルリだけは何とか話す事が出来た。


「助かったよ……まさか殺気に当てられただけで動けなくなるなんてね。」


 殺気に当てられただけ? それだけで人が動けなくなる程の異常をきたすのだろうか? にわかには信じられなかった。


「アイツはタツミのあんちゃんの兄と言ってた。レンも確認しているから間違いないだろう。今はタブレスが相手をしてくれているが……。」


 ルリの言葉に俺は驚きを隠せなかった。やはり兄さんも精霊界に来ていたのかと、そして何故みんながこの様な状況になってしまったのかを想像して目眩がした。


「た、タツミ君! 大丈夫!?」


 ヒジリが衝撃にふらついている俺に気が付いて肩を支えてくれた。


「あ、ああ、大丈夫だ。頭を整理する。ルリ、状況を詳しく教えてくれ。」


 推測だけでは解らないのでルリに詳細を聞く事にした。レンとクリューエルは体調が悪そうなので各自の部屋に寝かせて来た。




「正直起きているのも、まだしんどい位だけど説明しようじゃないか。」


 ルリは兄さんが来た時の事をまだ所々苦しそうな呼吸をしながら教えてくれた。

 

 神器を具現化した事、精霊、特に抹殺派に対しては尋常でない殺意を抱いている事。そして兄さんが精霊に対してどう考えているかを話していた事を。


「それでは兄上が一人で応戦しているのですね。急いで向かいましょう。」


 表に戻っていたリィムが話を聞いて勢いよく椅子から立ち上がる。しかしその腕をルリが掴んで止める。


「辞めておきな、私ですら戦う前にこの有様だ。むしろ足手まといになるだろうよ。少なくてもタブレスに近い力が無いと立ってすら居られない筈だよ。」


 ルリが真剣な表情で引き留めると、レンを寝かせた部屋からナギが戻って来た。


「だったら撤退戦を継続するわよ。二人の回復を待ってられないけど移動しないといけないわね。」


 ナギはテーブルの前に来て俺達の顔を見る。そして作戦を話し始めた。


「良い? 話を聞く限り、今回の場合は被害0でタツミ君のお兄さんを説得して人間界に帰ると言うのが最上ね。」


 ナギはそこまで言うと再び全員の顔を確認してきた。そして理解に問題が無いと判断したのだろう、続きを話し始めた。


「でも、最悪のケースも想定して行動するわよ。最悪の結末はタブレスと、私達の精霊も全て殺される。話だけ聞くと人間界には帰れるかもしれないけど、感情的には最悪の結末だわよ。」


 人間界には帰るつもりが有る事を言っていたらしいから。恐らく最悪のケースはそれだろう。今更ティルやハッキネン達と死に別れなんて考えたくも無い。


「最悪を回避する為、戦わないメンツはすぐにここから移動。次の雷の精霊界の境界線付近で落ち合いましょう。」


 ナギはそこまで言うとルリとユキの方を見て同意を促していた。この家に来た時点で動けなくなっていた3人、そして戦闘慣れしてないユキと精霊界の相性的にナギも退避組と無言で言っている様だった。


「タツミ君はお兄さんの説得へ、ヒジリちゃんは……タツミ君の彼女と言えば危害は加えられないと思うから補助の為一緒に行って。」


「え、あ……わ、解ったわ。」


 ヒジリが彼女と言うワードに反応して顔を赤くして下を向いてしまったが、今は照れている場合じゃないからな?


「ん? いつの間にそうなったんだい? こんな状況じゃ無ければ詳しく聞いてみたいね。そこのお嬢ちゃんも誰か解って無いしね。」


 ルリが興味深いと言った表情で見て来たが……最低限の空気は読んで後回しと言ってくれている。流石大人の女性だと感心してしまった。


「あ、私は『三上みかみ 悠輝ゆき』って言います。ユキって呼んで。えっとルリさん……でいいんだよね? 私、敬語苦手だから不快にさせたらゴメン!」


 ユキはルリに向かって手を出して握手を求める。ルリもそれに応じて手を握った。


「宜しくユキちゃん。私も敬語が苦手だから気にしなくて良いよ。詳しい自己紹介は落ち着いたらやろうか。」


 ルリは片目をつぶってユキに笑顔で語りかけてた。うん、姉御って感じがするわ。


「さて、話を戻すわよ。リィムとハッキネンはタツミ君達の少し後方から付いて行って、戦えそうなら補助をお願い。ダメそうならすぐにこちらの方へ逃げて来て。」

「つまり、遠くから見てルリ達の様になりそうなら一人で撤退、動けるなら皆を補助しつつ逃げると言う事ですね。」


 二人は行動を確認すると頷き合って大まかな作戦は決まった。


「私はレンを、ユキはクリューエルさんをお願い。ルリさんは何とか一人で動けそう?」

「ああ、何とかするさ。最悪ルーリアに動いて貰うよ。」

「私も殺気に当てられて大して回復して無いんだよ!?」


 ルーリアの苦情が聞こえたが……中に居てもヤッパリ殺気に当てられてダメだったのか。ガラントが一言もしゃべって無い時点で予想はしていた。だって新顔のユキが居るのに黙っている訳無いもんな……あの軟派精霊は。


「分かった。私も微力ながら力になろう。」


 アラスティアがそう言うとユキも頷いて椅子から立ち上がるのを合図に、全員が動き出した。


 しかしナギって作戦を考えるのが早いし、状況判断が得意なのか? これからは参謀殿とでも呼ぼうかな?


「ヒジリちゃん。このニオイを覚えておいて。コレを目印代わりに風で送るから。」


 ナギは片手をヒジリの前で広げて、何かのニオイを確認させた。そしてヒジリはすぐにそれが何か解ったらしくて頷いていた。


「ナギちゃん……風の精霊術ってこんな事も出来るの?」


 ヒジリは呆れた様な顔をしていたが……一体何のニオイなのだろう? 物凄く気になった。


「ふふふ、このニオイはヒジリちゃんしか解らないでしょうからね。精霊術も風も使いようってね。」


 いたずら顔のナギが得意気になっているが……まぁ、今は後にしておこう。


「よし、ヒジリ行くぞ。リィムは距離に気を付けて来てくれ。」


 各自が各々の行動を開始するのだった。


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