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第119話 友達

 俺達はやっとの思いで氷の龍穴を抜け出し、ルリ達がいる家が見える所まで辿り着いた。


「やっと着いた……最悪これで追って来られてもタブレスが居る筈だから大丈夫だろう。」


 家が見えると安心感からか微妙に足取りが軽くなった気がした。


「しかし、ここまで他力本願なのもちょっと悩む所よね。」


 ティルが俺の様子を見てヒジリの中から言って来た。


「お前も良い勝負はしたけど最後押されまくってたからな。流石にリッパー相手だと時間稼ぎが良い所だろう。」


 言い返すとムスッとした感情が伝わって来たが……お前「火焔翼」を使おうとして無いよな? リバイバーに命の危機に瀕さない限り使うなと言われてたよな?


 まぁ、発言は問題あるが常識は有る方だから信頼する事にしておこう……そう思わないとストレスで胃がやられる自信がある。


「流石に私もアレとは戦いたくないわね。そもそもアイツに狙撃も通用しなかったけどね。」


 ナギは時間稼ぎすら出来ないと言った顔をしているが、先程よりも軽快な足取りになっているのに気が付いた。


「随分とナギは楽しそうだな? ああ、レンに会えるからか。」

「ええ、そうだけど何か文句あるかしら?」


 俺が言うとナギは顔を赤くしてこちらをキッとにらんで来た。随分と素直に返されてしまい、こちらの方が照れ臭くなってしまった。


「照れる位なら最初から聞くんじゃ無いわよ! 逆に沈黙された方が気まずいわよ!」


 俺が黙ってしまうと余計にナギが照れ臭くなったのだろう。俺の横腹にナギの右ストレートがめり込んだ。


 うん、これは結構痛いぞ。この前、ユキが食らっていた記憶が有るが平気だったのだろうか?


「お前……この威力で常に打ち込んでいるのか? もう少し手加減しろよ。」


 俺が軽くうずくまってナギに文句をつけると、ユキもそれに便乗してきた。


「そうよ。あの時の右ストレート真面目に痛かったんだからね、もう少し手加減しなさい。しかもアレ私は悪く無いのに!」


 確かにあの告白の時に邪魔したのはアラスティアの方だったから、ユキは無実なのは間違いない。


「監督不行き届きで同罪よ。あのタイミングで言う方が悪いわよ。後、私は男女平等主義だから女にも遠慮しないわよ。」

「いや、それって使い方間違ってないか? 普通は逆の立場が使うんじゃ無いのか?」


 自慢げに語るナギを見て突っ込んでしまったが、その後のユキの追撃の方が凄かった。


「ナギ、アンタの現代文の偏差値いくらなのよ? とても成績の良い人間が言うセリフじゃ無い気がするんだけど?」


 それを見ていたヒジリが少し焦った表情を浮かべてユキの口を塞ごうとするが……この場合はナギの腕を止めた方が良いと思うぞ?


「人が気にしてる事言うんじゃないわよ!」


 ヒジリの制止も間に合わず、ナギのセリフと共に右ストレートが再び繰り出される。遅かったと思った次の瞬間、目に入った光景は予想外なものだった。


「甘い甘い、来ると解っていればしっかりと防げるのよ。」


 ユキがしっかりとナギの右ストレートを両手で受け止めていたのだが……何のバトルシーンをやっているんだお前らは?


「ハイハイ、お遊びはそこまでにして行きますよ。いい加減に体を休めないといざという時に動けなくなりますよ。」


 この流れをリィムがぶった斬ってくれた。不毛なバトルシーンの説明をしなくて済んで俺はほっとしたが……アレからハッキネンが静かで少し不気味だ。まだ氷の龍穴内での件から立ち直り切って無いのだろうか?


「なぁ、リィム。ハッキネンが随分と静かだが大丈夫か?」


 少し気になって小声で話しかけてみると、リィムも少し困った様な表情で返してきた。


「大丈夫とは言ってますが、いつもの調子には全然戻ってませんね。」

「明らかに静かだもんなぁ……いつもならあのタイミングで何かしらツッコミを入れて来るのにな。」


 今のままで大丈夫か不安になる。精霊術はイメージの産物だ。メンタル面が不調ならそれは術の出力に直結するからだ。


「大丈夫と言ってる。少し放っておけ。」


 やかましいと言わんばかりにハッキネンが不機嫌そうな声で言ってきたが、いつも元気が無いのが明らかだ。


「なぁ、黙ってないで少しは話さないと気持ちが晴れないぞ、いつまでもそうしている訳にはいかないだろ? 精霊は恒常性が強いなら時間薬は効かないんじゃ無いのか?」


 火の精霊界の時を思い出すが、コイツはリィムが復活するまでの性格とその後は明らかに変化している。言葉のトゲは変わらないが態度は明らかに柔らかくなっているのが解る。


 つまり外的要因を解決しないと変化しないのが精霊の性分の様な気がするのだ。このまま一人で悩んでも多分何も変化しないだろう、だったら無理矢理にでも吐き出させないといけないと思った。


「そうですよ、ハッキネン。別に隠し事をする仲じゃ無いでしょ?」


 リィムも諭す様に言うが相変わらず黙ったままだ。その様子を遠目に見ていたティルが何かを思ったのか、ヒジリと入れ替わっていつの間にかリィムの後に来ていた。


「どうせ、自分の不甲斐無さを反省していたんじゃないの? あの時は私が喝を入れてあげたけど、後から自分が情けなくなったって所じゃないかしら?」


 からかう様な表情でリィムの肩に手を乗せる。まるで出てこいと言っている様子だった。


「ホラ、一回出てきて話しましょう?」


 そうリィムが言うと観念した様にハッキネンが表に出てくる。その表情は物凄く照れくさそうに下を向きながら顔を真っ赤にしている。


「ティルの言う通りだ。昔も今も肝心な時に役に立たない。いくら力をつけてもリィムの精神が摩耗した時にも何も出来なかったし、さっきもそうだ。」


 顔を赤くしているのは恥ずかしさと悔しさなのか、コイツは人に感情を伝えると言うか感情の出し方が下手くそなんだと思う。


「結局、私は一人で動揺してリィムを危険にさらしただけだ。そんな自分が情けなくなっているだけ、心配するな。」


 気持ちを吐露して沈黙しているハッキネンの前にティルが移動すると、しゃがみ込んで顔を覗き込む。


「このお馬鹿!」


 ティルはデコピンを喰らわせる。しかも前と違って全力のデコピンだ……身体強化までしてやがる。喰らったハッキネンが思いっきりのけ反って倒れそうになっている……流石にやり過ぎじゃね?


「そうやってウジウジ悩んで何の意味があるの!? 何でそう氷の精霊は頭が硬いの! あー、面倒臭い!」


 ハッキネンも体勢を戻すと、真っ赤になった額を両手で抑えながら涙目で言い返し始める。


「うるさい! 私はお前みたいに脳天気じゃ無い! 元がこう言う性格!」

「悩んだって過去も現実は変わらないでしょうが!? 反省を生かすなら良いけど悩んでいるだけは全くの無意味でしょうが!」


 真っ向からティルが正論を言っているが……


「理屈は解る、だが感情の問題。だから少しすれば落ち着くはず。」


 ですよねー、既に理屈じゃなくて感情の問題だよなぁ。俺も結構グダグダ考えてしまう方だから分かると言えば分かる。


「そうだとしても少しは愚痴でも言いなさい! 一人で溜め込んでいるとそのうちパンクするんだから。」


 そう言うとティルはハッキネンの両頬をつまんで引っ張りだした。


「いひゃい! いひゃい!」


 ハッキネンは手を離させようとするが身体強化を使ったティルの手はびくともしなかった。


「いーい? アンタはもう頼るのがタブレスだけじゃなのよ? 私もいればタツミも居るし、ヒジリやナギ、皆がいるの。」


 まくし立てる様に言うとティルは手を離した。そして両頬をさするハッキネンに続けて言った。


「人間臭い言い方をすれば、私達は家族じゃ無いけど他人よ。でも、と……友達位には思ってるのよ。」


 言ってるティルの方が照れだした。ハッキネンの方もポカンとした顔をしている。


「……友達?」

「それとも戦友とでも言った方がいい? 少なくとも私はそう思ってたつもりだけど?」


 照れ過ぎて今度は顔を横に向けて言っている。その様子をナギとユキはニヤニヤしながら眺めているが……お前ら結構似た者同士か?


「だから、悩んでいるなら言いなさい。困ったなら頼りなさい。解決はできなくても一緒に悩んだり、聞くだけでも出来るから。」


 そう言うと再びハッキネンの方に視線を移していた。ハッキネンは困惑した表情のままだ。


「こう言うのは誰かに話すだけでもだいぶ変わるのよ。だから、ハッキネンが私を……みんなをそう思っているなら話しなさい。肩代わりも代わりに背負うことも出来ないけど、一緒に悩んであげる事位は出来るから。」


 照れたままティルは手を差し出した。


「後は自分で決めなさい。こう言うのはキッカケよ、人は一人じゃ生きてけないけど精霊も同じだと思う。手を取るかは自分で決めなさい。」


 しばらくの沈黙が流れた。ハッキネンの手は出そうか悩んでる様に少しずつ動いていた。そして少し前に出した所で、ティルがその手を掴んだ。


「ハイ、掴んだわね。じゃあお悩み相談室を開始しましょうか。この氷の様な頑固頭を溶かす所からね。」

「ちょ! ティル!? 勝手に……」


 ハッキネンが急に手を取られて驚居た表情を浮かべるが、すぐに安心した様な表情に変わった。


「何? 何か問題有ったの?」

「いや、何も無い。そうか、友達か……友達とはこう言う感情か。」


 ハッキネンは目を閉じて感慨深げになったかと思うと、少ししてからティルの前に行き両手で両頬を引っ張り出した。


「だが! 身体強化してまで頬を引っ張るんじゃない! 痛かった!」

「ひひゃい! それはごひぇんなひゃい!」


 何か吹っ切れた表情でハッキネンは手を離して家の方へと歩き出した。


「ティル、ありがとう。何か心が軽くなった気がする。」


 前を向いたまま後ろに居るティルにボソリと言う。それを聞いたティルは頬をさすりながら嬉しそうな表情になっていた。


「気にしなさんなって、私達は友達でしょ。」

「そうか……友達、何か温かいな。」


 ハッキネンの顔は見た事が無い程に緩み切っていたと、回り込んでまで覗き込んだナギから聞いたのはまた後日の話だ。



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