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第12話 地下空間

「着いた。これが龍穴の入り口。」


 リィムが地面に大きく空いた穴を指さすと、そこには直径20メートルはゆうに有ろう巨大な穴から明らかに異質な濃さの精霊力が溢れていた。


「うわ、何かこう……精霊力がダダ洩れと言うのがよく解る入り口ね。」


 ティルもその光景を見てやや引き気味だ。これを分離状態で浴びて俺は大丈夫なのか不安になって来た。


「さっさと行く。多分ここ数日で外気に慣れたタツミなら多少は動ける筈。どうしてもダメなら回復するまで同化しても良い。」


 リィムが淡々と言って来るがそれって結構なスパルタじゃありませんか? 倒れたらティルに治して貰ってを繰り返すって事だよな? 逆に俺位才能が無いとそれ位しなきゃダメって事か?


「さぁ、行くぞ。1層の石で構わない、奥に行ったら採掘して帰る。ちなみに精霊力が濃いから余計な残留思念を引き寄せる、だから中には下位精霊が居る時が有るので注意。」

「ん? どういう事だ? 下位精霊は倒したら再び精霊界に取り込まれるんじゃないのか?」

「そう、だけど思念も取り込まれる。それが漂って龍穴の濃い精霊力と混ざると再び具現化してしまう。」


「その説明だと倒しても思念は残るから、再び龍穴内で再生すると聞こえるんだが?」

「そう説明をしたつもり。時間が経つと再び具現化するからじっとして居るのは危険。そして深層に行くほど精霊力は濃くなるから、下位精霊と言っても強さは上位、龍位レベルになるモノも居るらしい。」

「らしいって事は、リィムは見た事無いのか?」

「私は3層まで、それ以上潜る必要も無いし興味も無い。詳しい話はレピスから聞いた。」

「なるほど、レピスなら負けないだろうしな……。」


 情報の出所で納得する。あの規格外の精霊なら確かに奥まで行った事が有るんだろう。龍位レベルって奥には一体何が有るのやら。


「さぁ、難しい話はそこら辺にして行きましょう。こっちに降りられそうな所があるわよ。」


 ティルが下りられそうな場所を見つけて手招きしている。



「さて、では行きますか。」


 そう言って龍穴の中に降りていく。中は洞窟の様な雰囲気の割にはかなり広く見通しも良かった。所々で赤色に発光している石が灯りの代わりになっているのでハッキリと見通せるのも有るだろう。


「この光っているのは精霊石とは違うのか?」

「それは少し違って蓄霊石。精霊力を吸って光るけど龍穴内位の濃度が無いと光らないし、精霊が光らせようとすると物凄い勢いで精霊力を消費させられる。」

「つまり、実用性は無いわけか。残念。」


 夜営に便利だなと思ったが世の中そうは上手く行かないらしい。








「気持ち悪……」


 龍穴に入って5分程で具合が悪くなった。押し潰されそうな感覚もあるが、山に登った時の様な耳鳴りや内臓を圧迫されている様な気持ち悪い感覚に襲われている。


「流石に濃い。私も消耗が激しいので出来るだけ早く行く。」


 リィムも気持ち悪そうだ。ただでさえ相性が悪い精霊界なのに、この精霊力は体に悪かろう。


「二人とも大丈夫? 私はむしろ調子が良いわよ! こう、何と言うか力が漲る感じ!」

「そりゃ、火の精霊のティルはそうだろうよ!」


 俺がツッコむとリィムが少し怪訝そうな顔をする。


「いや、普通は同属性の精霊でも過剰に精霊力が供給されるので感覚がおかしく感じる筈。」

「つまり、ティルは変態と言う事だな。」

「ちょっと!その表現は酷くない!? どこが変態よ?」


 ティルが物凄く不満そうに言い返してくる。


「先程のリィムを撫でてる姿とか、変態以外の何物でも無かったぞ。」


 そう言って俺達はティルをジト目で見つめる。今回ばかりはリィムも同意見だったらしく行動を合わせて来た。


「あれは……確かに……って、タツミがけしかけたんでしょうが!」

「言っただけで、行動したのはティルだろう?」


 ティルはぐうの音も出ない様で、諦めて先頭を進んでいく。


「話が逸れた。後、考えられるのは。ティルが本調子では無いか、そもそものキャパシティが異常かの二択。前者は考えれる?」


 リィムが小声で話しかけて来る。後者の部分を聞かれて調子に乗られるのは困るからだろうか?


「調子が悪いと言う事は聞いたことが無いな。むしろ修行中に本気を出したら凄い事になるとは言われたが。」


「では、後者の方? 確かに弱っているとはいえ、私の攻撃を正面から防いでたし……キャパシティは有ると見て良いか?」


 二人で妙にハイテンションのティルを見てそういう結論にした。そして、俺の気持ち悪さが限界に達する。


「同化して良い? 気持ち悪さの限界……。」






 その後の探索は数分間の分離と1時間程の同化を繰り返しての探索をしていると、最初のトラ型の下位精霊と遭遇した。大きさは前と大差無いが明らかに精霊としての存在感の濃さが別物だ。


「私の出番だね~、ちゃちゃっとやりますか!」


 ティルが表に出ると指先をピストルの様に構える。そして人差し指の先に小さな火球を前みたいに2個作り出す。


「ちょ、ここでエクスプロ―ジョンはヤバいだろ!?」

「大丈夫!威力調整はお手の物だから! これはフレアボムとでも呼びましょうか。」


 そう言うと本当に拳銃の様な音で手前の火球が爆ぜてもう一方の火球を打ち出す。そしてトラ型精霊にぶつかると同時に小規模な爆発を起こした。そして敵が消し飛んだのを確認して俺が表に戻る。


「流石に威力調整位するわよ。今位の威力ならある程度の連射も出来そうかな。いつの間にかタツミのレベルも上がっている様だね!」

「ふむ、ちなみに最大火力は私に使ったのとどれくらい違う?」


 リィムが珍しくティルに質問してくる。先程の会話でティルのポテンシャルが気になるのだろうか?


「あの時の色は黄色でしょ? 火力的には赤より黄色、黄色より白、白より青に変わると威力が上がるわよ。でもタツミが持たないからまだ使えないかな。」

「すみませんね貧弱な契約主で、ちなみに最大でどれ位威力が違うんだ?」

「単純威力で最低倍以上かな? 後は熱量をどこまで増やすかだしね。後、先に言っておくけどタツミと違って私は遠距離系の攻撃が得意だから、近接戦闘は苦手だからね?」


 確かにあの射撃の精霊術構築は俺には真似できないのは明白だった。その代わり近接戦闘が苦手と言う事は身体強化等は得意ではないと言う事か。


「そうか、全力だったら私もダメージを受けていると思う。具現化したばかりとは思えない。」

「さぁ、早く行きましょう! タツミも回復したからまた分離するね!」


 リィムは不思議そうに考え込んでいたがティルは安定のマイペースで分離する。そして俺は本日数度目の強烈な不快感に襲われる。


「しっかし、これは慣れないな……慣れるモノなのか?」

「契約属性だから慣れないと変。段々と時間は伸びているなら一応は成長している証拠。前回は8分程度までは我慢してた。……伸びたのたった3分だけど。」

「最後の一言が余計だぞ、リィムさん? 元気なティルをけしかけますよ?」


 そう言うと、リィムが嫌そうな顔をする。対照的にティルは楽しそうな顔をしてにじり寄って行っている。コイツこういう時の行動早いな……。


「……面倒なので無視しながら進みます。どうせ数分です。」


 リィムは諦めて先に進み始めた。ティルは許可と受け取って頭を撫でながらついて行く。そして何かやっぱりこの光景が光っている様に見えるのは俺の気のせいだろうか?


 更に何度かの同化と分離を繰り返し、湧いて出た下位精霊性を倒しつつ奥へ進む。


 しばらく進むとかなり広い空間に出た。そこには明らかに蓄霊石と違う濃い色を発光している水晶石の様な塊がタケノコの様に地面から生えていた。


「この少しドス黒くなっている様な石が精霊石。」

「ドス黒いって……もう少し表現変えない? 何と言うか悪いイメージしか受けないんだけど……。」


 ティルが苦言を呈している。確かに濃くなりすぎてドス黒いと言う表現も解らなくはないが、もっと別の表現を考えてくれ。


「理解出来れば問題ない。10個位有れば大丈夫。根元辺りから適当に精霊術で砕く。」

「相変わらずね……、解ったわ。タツミ分離して回収するわよ?」


 そう言ってティルと分離して採集を開始する。そして何個か回収した頃に妙な違和感に気が付いた。


「なぁ、あれってまた下位精霊が具現化するんじゃないか? ただ何か今までよりかなり大きくないか?」


 数メートル先に具現化しかけている下位精霊を見つけるが、明らかに今までと異なった雰囲気だ。複数個の白い人魂みたいなのが混ざり合うように融合していっている。


「あれは集合型? 1層で見た事は無いのに。」


 リィムが唖然とした表情になっている。これは想定外の出来事の様だ。


「あれってヤバいのか?」

「私も3層で一度見た事が有るだけ、私が引き返した原因はあれとの遭遇。急いで逃げないと。」


 俺の質問にハッとした顔になり、茫然としていたことを自覚したようだ。そして慌てて逃げるように指示を出すが既に色々遅かった。


「タツミ!避けて!」


 集合型精霊はよくアニメ等で見た事のある姿になっていた。そう、俺の身長の倍はあろう大きさのミノタウロスだった。


 ミノタウロスは拳を俺むけて振り下ろしてくる。


 頭では理解出来ているのだが体が動かなかった。恐怖なのか突然の事で動かなかったのかは解らない。正直死を覚悟した。


「ポンコツ! 死にたいのか!?」


 リィムが横っ飛びで俺にタックルをして攻撃を回避する。ミノタウロスの拳は地面にめり込み広範囲にひび割れが起きる程だった。


「すまん、助かった。」


 リィムに礼を言うと状況を見直す。ティルはミノタウロスを挟んで反対側に居る。急いで同化しないといけないのに位置が悪すぎる。


「ティル! 攻撃で気を引け! その間に身体強化を全力で近付いて、ティルと同化したら全力で逃げる。」


 リィムの声を聞いてティルがフレアボムを数発撃ちこむ。しかしミノタウロスは気にする事なく、すぐに拳を引き抜き、今度は両手を合わせて俺らに向かって振り下ろす。


「ダメージ無しか、避ける。」


 俺とリィムは後ろに避けたが、再び地面のひび割れが加速する。これは底が抜けるんじゃないか? 


 不安になっているとミノタウロスはこちらを攻撃するでもなく大きく足を持ち上げて何度も地面に叩きつけ始めた。


「ちょ、まさか……。」


 すぐにミノタウロスを中心にひび割れが加速して地面が崩壊した。俺とリィムは落下しながら見上げるとティルが上で叫んでいるのが見える。

 

 俺は死を覚悟した。


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