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第117話 工藤 龍一

「あらあら~、思ったより~ダメだったわね~。」

「ケッ! うるせぇ! 最低限の仕事はやっただろうが!」


 氷の龍穴の中でリッパーとレピスが向かい合っていた。リッパーはふてくされた様に地面に座り込んでいる。


「致命傷のダメージを2回は回復させたんだ。人間の方は相当弱るだろうが。」


 自分は依頼の最低限はこなしたと言い張っていた。


「リバティが~表に出て来れなかった時点で~達成できてないでしょう~?」


 レピスが笑顔で立ったままリッパーへ圧力を掛けている。その視線の圧力に耐えきれないのか目を見て話せない様だった。しかし黙って文句を言われ続けるつもりも無いのか、思い出した様にレピスに喰って掛かった。


「つーか、テメェ色々と隠し過ぎなんだよ! 『大いなる再生者(グランド・リバイバー)』だけかと思ったら何で『魔槍の騎士(ミストルティン)』まで居るんだよ! 多分だがあの野郎は『輝く者(イルダーナフ)』の力を持ってやがるな!? 分が悪すぎんだろうが!」


 次々と特異能力(セカンドスキル)の名前が出て来る。それが事実なら単純に数の差でリッパーが不利なのは否めない。


「覚醒しきってない~3人相手に~勝てなくてどうするのかしら~? それこそ年長者が~威厳を見せてくれないと~。」

「全力の半分も出せない状況で文句を言ってくれるなぁ!? 『神無(かんな)』を使って良いなら一瞬で全滅させれるんだがなぁ?」


 『神無』の名前を聞いた瞬間、レピスの表情が真顔になったのが見えると、リッパーは慌ててバツの悪そうな顔で謝る。


「じょ、冗談だ! 本気にするな! 俺だって流石に使う時と場所位はわきまえてらぁ……」


 レピスは謝罪を聞いて首を頷かせるといつもの愛想の無い笑顔に戻った。


「まぁ~、収穫も有ったから~許してあげるわ~。ティルちゃんも~随分と強くなってくれた様だし~リィムも予想外に~強くなってくれたものね~。」


 レピスが満足気に語ると、リッパーは怪訝そうな顔をする。


「しかし、何でテメェも出て来なかったんだ? 二人でやれば確実にリバティを復活させれたんじゃねぇのか?」


 当然の質問だった。二人でならば今のタツミ達なら相手にならないだろう。目標を達成する為ならそれが最速で間違いはなかった。


「事は~そう単純じゃないのよ~? それに~私はこれから~リバティ達の味方をしないといけないからね~。今敵対しちゃうと~それも出来ないでしょ~?」

「リバティ達の味方? しなきゃいけねぇ何かが有ると言う事か?」


 リッパーが釈然としない顔で聞き返すが、レピスは相変わらず平然とした笑顔で言葉を淡々と続けた。


「私達が~表立って戦えない~問題児と戦う為よ~。」

「ああ、あの精霊殺しか。確かにアレは面倒くせぇな。本来なら器にしてぇくれぇなんだがな。」

「ダメよ~、私達の存在は~まだまだ隠しておかないと~。その為にアナタの『神無』を隠しているんだから~。」


 レピスは人差し指を自分の口元に当てて内緒のポーズを取っている。


「わーってるよ。だからこういう会話を全て『完全遮断結界』の中でしかしない様にしてるんだろ?」


 リッパーもヤレヤレと言った顔と仕草をしていた。


「さて~そろそろ~、タブレス達が~精霊殺しと戦うようだから~助けに行ってくるわね~。リッパーもしばらくは大人しく~してて頂戴ね~?」


 そう言うと、レピスは完全遮断結界を自分だけを対象にした空間にする。リッパーは急に視認できなくなったレピスを見てそれを理解した様だった。


「さてと、しばらくは大人しくしてるか……」


 詰まらないと言った顔をしてリッパーは出口の方へとゆっくりと歩いて行く。タツミ達と合流しない様にワザとゆっくりと。


――――――――――――――――――――――――




「しかし……何でルリさんはここに来てまで鍛冶をしてるんですか?」


 テーブルに座りながら窓の外をぼーっと眺めていても暇になったレンは、鍛冶をしているルリの方を見て聞いてみた。


「何でだって? そりゃ次の雷の精霊界で使うからに決まっているだろ? クリューエルとタブレスには元々渡しているけど、アンタ達は落雷避けの護身具は持って無いだろ?」


 ルリは呆れた声でレンの方を振り向かずに答えた。視線は今作っている短剣に注がれたままだった。


「落雷除けの護身具?」


 レンは何の事か理解できずに目の前に座っていたクリューエルに質問をしたのだった。ルリは既に答える気は無い様子で、目の前の鍛冶に没頭している。


「雷の精霊界は落雷だらけなんですよ。だから雷から身を守る為の護身具と言うものが欲しいんです。」


 クリューエルは丁寧な口調で説明を始めた。


「特に必要が無いのは雷の精霊と、光の精霊、後は土の精霊位ですね。人間は例外なく必要だと思いますよ。」


 必要としない精霊の話を聞いて何となくだがレンは理解した様だった。


「つまり、同属性の雷の精霊は問題無いのは解るが、光の精霊は雷が光っているのに関係しているのか? 後は土は地面に電気を逃がす性質からと考えれば良いか?」

「そうですね、何となくですがその考えで良いと思いますよ。理解が早いですね。」


 レンは単純な事だが推論を述べるとクリューエルは即座に肯定した。


「じゃあ、水の精霊も純水を具現化出来れば大丈夫なのか?」


 レンは純水は電気を通さない事を思い出すと、中に居るガラントに聞いてみたのだった。


「純水を作るなんて無理だろうな。具現化行程を無菌室でやる様な物だ。それこそ複合属性で協力しなけりゃ作れないだろうな。しっかし……鍛冶をしてストイックなルリ姉さんも素敵だな。」


 最後の一言を聞いてレンがげんなりした顔をした。視界に女性が居ると必ず最後に一言が女性を褒める言葉を言うのだ。


「頼むからそれをナギの前で言うのは止めろよ? とばっちり喰らうのは俺なんだからな?」

「大丈夫だ。ナギも一緒に褒めれば問題ない!」


 分かって無いと言った顔をしてレンはテーブルに肘をついて顔を両手で覆っている。それを見ているクリューエルは困った様な愛想笑いをするのがやっとだった。



「さて! これで人数分と念の為の予備も作り終わった! 何とか間に合ったね。」


 ルリは仕上がった短剣を持って確認するとテーブルの上に置いた。レンとクリューエルが置かれた短剣を見ると、刃渡りは20㎝位の小ぶりだが、柄の部分に黄色く光る宝石の様な物がはめ込まれていた。それ以外の装飾は無く、シンプルな作りだった。


「相変わらず実用性も兼ねた道具を作りますね……。」


 クリューエルは呆れた様な表情で視線をルリに移した。


「そりゃ、作るんなら丹精込めて作らないとね。宝石の『雷耐性』の加護だけ欲しいなら要らないけど、刃物としても使えるんだから便利だろ?」


 笑顔で説明を始めると短剣を鞘に入れてレンに手渡した。


「先に持っておきな。後はタツミのあんちゃん達の分は帰って来たら渡そうかね。」


 どこからともなく更に2本の短剣を取り出した。恐らく「記録還元錬成アースストレージ」から取り出したのであろう。


「有りがたく受けてっておきます。ってこれはどうやって使うんです?」


 レンは受け取ると刀身を出して見ながら使い方を質問したのだった。ルリはそれを聞いて知らないのかと言った顔で説明を始めた。


「加護が付いた石に精霊力を込めれば使えるさ。精霊石と一緒だよ。」


 レンは試しに黄色い宝石に精霊力を込めるイメージをしてみると、何かの膜に体が覆われた感覚を覚えたのだった。


「これが加護の力なのか……何かに包まれている感じだな。」


 精霊力を込めるのを止めるとその感覚も消えたのを確認した様だった。


「火の精霊石よりはずっと使いやすいな。ありがとうルリさん。」


 レンが礼を言うと同時に家のドアがコンコンとノックされる音がした。タツミ達が帰って来たのかと思ってクリューエルがドアの方へ行こうとすると、ルーリアが声をあげた。


「今、外に居るのはタツミっち達じゃないんだよ! 気を付けて。」


 声を聞いたクリューエルが足を止めた。確かにタツミ達ならノックはするだろうが、その後すぐに入って来る筈だ。なのに今のノックはしても入ってくる気配が無い。はぐれ精霊の可能性も考えて全員に僅かばかりの緊張が走った。


「すみませんー、誰か居ますよねー? 寒いんで入れてもらえますかー?」


 外から男性の声が聞こえて来たのだった。そしてその声にいち早く反応したのはレンだった。


「その声……龍一さん!?」


 レンは入り口へと走って行き扉を勢いよく開けた。そこにはレンが良く見知った憧れだった人が立っていたのだ。


 年齢は20代半ばの筈だが、短めの短髪を後ろに流す清潔感の有る髪型と切れ目の甘いマスクでもっと若く見られてもおかしくはないイケメンだ。


「ん? 君は確か……レン君だったよね? 久しぶりじゃないか。ずいぶん大きくなったな。たまには昔みたいに遊びに来いよ。」

「あ、ありがとうございます。龍一さんも相変わらずの様ですね!」


 龍一はレンに気が付くと、懐かしそうな表情をして話しかけて来た。レンもかつての憧れの人に久しぶりに会って少し興奮している様だった。


「あ、立ち話もあれですから中にどうぞ。」


 レンは龍一が寒さで小刻みに震えているのを見て家の中へと案内した。その様子を見ていたクリューエルは警戒心を解いてテーブルの方の椅子を一つ引いてジェスチャーでこちらへと案内した。


 ただし、ルリだけは少し怪訝そうな顔をしていた。


「ああ、ありがとう。」


 龍一は椅子に腰を掛けると、今リビングに居るレン、ルリ、クリューエルを順番に観察する様に見回す。そして自己紹介を始めた。


「始めまして、俺の名前は『工藤 龍一』、年齢は24歳の牡羊座。そこのレン君とは弟のタツミが一緒に剣道をやっていた親友です。そして今は弟が一緒に精霊界に来てないか確認している最中です。」


 二人へと丁寧な物腰で一部余計な説明を挟みつつ自己紹介をしたのだった。

 

「あー、タツミさんのお兄さんなのですか。先程まで彼もここに居ましたよ。」


 クリューエルはタツミの兄と聞いて、何の警戒心も無くしゃべり出した。それを見たルリが視線でクリューエルに余計な事を言い過ぎるなと釘を刺すが気付いて無い。


「ヤッパリ! タツミも精霊界に来ていたのか。それでタツミは今どこに?」


 龍一は食い入る様にクリューエルの方を身を乗り出して話を聞こうとした。その表情は本当に弟を心配する兄の表情そのものだった。


「タツミは氷の龍穴で結合結晶って言うのを探しに行ってます。他にも仲間が一緒なので大丈夫ですよ。」


 クリューエルが困った感じになっているのを見て、レンが龍一へ説明する。そして月光丸や何故、結合結晶を集めているのかを簡単に説明した。




「ナルホド、つまりそこのルリさんがタツミの為に『月虹丸』と言う刀を作ってくれたのですか、ありがとうございます。」

「別に、私が作りたいモノを作っただけさ。」


 龍一は話を一通り聞いた後、ルリに向かって深く礼をして感謝を述べたが、ルリは素っ気ない態度を崩さないまま今度は龍一へと質問を始めた。


「では、今度はこっちが話を聞きたい。アンタはタツミのあんちゃんを()()()()()()で精霊界を旅していたのかい?」


 一部を強調した言い方に、龍一は意味を察して返答する。


「もちろん探すのもですが、一緒に人間界に帰る為に旅をしてましたよ。」

「そうかい、後はアンタの精霊は? まさか特異能力セカンド・スキル持ちじゃ無いだろうね?」


 その質問にレンとクリューエルが一瞬身構えるが、龍一は即座に後者を否定した。


特異能力セカンド・スキル? 何ですかそれは? ちなみに俺の精霊は既に神器になっています。」


 龍一は自分が既に神器持ちとハッキリと公言した。その事実にレンとクリューエルは驚きを隠せない様子だった。何故ならタツミと同時期に精霊界に来たとしたら、この短期間で神器化までを済ませるのは余程の才能と実力が無ければ出来ないからだ。


「この短期間で神器化……アンタは精霊を取り込む時に何か心の呵責かしゃくは無かったのかい?」


 ルリは不機嫌さを隠そうともしないで言葉を続ける。一方で龍一は相変わらずの丁寧な対応を続けていた。


「だって、大事な家族を人間界に連れ帰る為に必要な事じゃないですか。別に心が痛むとかは無いですよ。それに精霊に名前は付けましたが、名前はもう忘れました。」


 その発言を聞いてレンも少し引いた表情をした。自分の感情から生まれた精霊をそう言える龍一に少なからず恐怖を覚えた様子だった。


 ルリに至っては不機嫌な顔を表に出してにらみつけてさえいる。


「そんな怖い顔しないで下さいよ、だって遅かれ早かれ誰かがやらなきゃいけない事でしょ? それこそ合理主義ってやつですよ。それに強い武器が手に入れば旅も楽だし。」


 龍一の発言は少なくともレンとルリを不快にさせて行くものだった。クリューエルは自分の精霊が居ないので何とも言い難い表情ではあったが良い顔はしていない。


「それに……。」


 急に殺気のこもった龍一の声が奥の部屋に向けて放たれた。


「精霊の都合で、何で俺達人間が被害に合わなくちゃいけない? だったら慈悲を掛けるだけ無駄だろう。反論を聞いてみたいんだがな? そこの奥に居る精霊さん。」


 視線の奥の部屋にはタブレスが休んでいる事を3人は知っていたが、何故龍一が気が付いたのだ? と言った顔を全員がしていた。


「俺は人殺しをする趣味は無いし犯罪者になるつもりも無い。ただし、貴様ら精霊の都合で振り回されるのは御免だ。それで家族や大事な人を失った人達にどう弁明するのか聞かせてもらおうか?」


 龍一は立ち上がってタブレスの居る部屋へと周りの3人が押し潰されそうなほどの殺気を放ったのだった。それに反応するかのように、奥の部屋の扉が開いてゆっくりとタブレスが姿を現すのが見えた。


「ここではこいつ等に迷惑が掛かる。表に出ろ、相手をしてやる。」


 タブレスが外に出る様に促すと、龍一は3人を順番に見つめてから頷いた。


 3人とも龍一の殺気の圧に負けて動けないでいた。レンはともかく、クリューエルやルリはそれなりにはぐれ精霊等とも戦って死線を超えた事も有る筈なのだが、龍一から受ける圧でその場から指一つ動けなくなっていた。


「人間を撒き込んだら俺のポリシーに反するし、流石に弟の親友を撒き込んだらタツミに合わせる顔が無いからな。」


 そう言って後ろを振り返ってドアを開けて外に出て行く。これから殺し合いをする相手に平然と背中を向ける姿を見て、タブレス以外の3人は格の違いの様な物を感じさせられた。


 今なら不意を突けるかもしれない。そんな甘い考えすら浮かばない。


「お前たちは出て来るなよ。ルリに手助けを頼もうと思ったがアレは格が違い過ぎる。」


 タブレスも後を追う様に雪原の中へと歩き出したのだった。その横顔には冷汗の様な物が見えたのだった。


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