第116話 精霊術式閃光弾
無事にアラスティアとの契約は出来たのだが、光の精霊の予備知識が全く無い事に気が付いた。
「取り合えず……光属性って何が出来るんだ?」
聞いた時点でアラスティアが呆れた表情をしているのが分かったが……だって知らないものは仕方なく無いか?
「まぁ……簡単に説明するならば基本は『発光』と『光の屈折』だけだ。しかし光を集めたり光らせ方で視覚を通して脳に幻覚等を見せる事も出来る。」
簡単に言うが相当難しいんじゃないのか? 脳への刺激なんて全くもってイメージ出来ないんだが?
「基礎は単純だけど応用編が難しそうだな。」
「まぁ、『幻覚効果』等はちゃんと練習しないと難しいだろう。いきなり使える物では無いからな。」
アラスティアもすぐには使えないと肯定してきた。さて、この力はどう使った物だろうか……。
「ねぇ、光の強さは自由に出来るのかしら?」
会話を聞いていたナギが何やら悪巧みをした顔で話しかけて来た。
「ああ、込める精霊力でその分明るくなるが……眩し過ぎると自分の目もやられるぞ?」
「ふ~ん……タツミ君。ちょっと面白い案が有るんだけど。」
不敵な笑みを浮かべているナギが俺にとある作戦を伝えて来た。
「なぁ……それって相当難しく無いか?」
「有りじゃない? 爆発のイメージは上手だったでしょ? それの応用じゃない?」
「光の調整は私が内部からやればいけるだろう。任せてくれ。」
「風の調整は私がティルと合わせてやってみるわよ。火と混ぜるイメージで行けると思うから。パティ、行けるわよね?」
「分かんないけど大丈夫! やってみれば何とかなる! パティちゃんなら出来る筈だから安心して!」
「それはどっちなのよ……後、騒ぎ過ぎるなら口塞ぐわよ。」
ナギはしゃべり続けようとするパティスを止めると、こちらを向いて最終確認する様な表情をした。
「タツミ君の作業も大丈夫?」
「外殻を作るのは……俺が土壌操作で鉄を集めてか。やってみるさ。」
静かに頷くと、皆も同じく頷いた。
「そうね、大雑把な形を作ってもらって、そこにアラスティアが内部から、パティとティルが外部から調整を入れてみるわね。一度上手く行けばイメージ出来ると思うわよ。」
俺とナギ、アラスティアとティルが作戦会議を始めていた。いつの間にかティルは勝手に分離して話し合いに参加していたのは言うまでもない。
少し後方に残されたヒジリとユキが不思議そうな顔でその光景を見ている。
「何か……仲良くなるの早いね……。」
「私は取り残され感が有るんですけど。打ち解けるの早くないかしら?」
「まぁまぁ……ユキちゃんもすぐに打ち解けられるよ。」
「そうだと良いんだけど……私って言葉にトゲが有るから心配なのよね。」
「大丈夫だよ。ウチには毒舌担当が居るから、多少の事はもう誰も気にしないよ。」
「それって慰めになってないと思うんですけど!」
何か話している様だが……俺は聞いて無いからな。ツッコミ担当は今回はやらないぞ!
「さて、作戦は頭に入ったな。ヒジリ、ユキ。二人ともこっちに来てくれ。作戦を伝える。」
二人を呼んで作戦内容を伝えた。ハッキリ言って賭けの要素が強いが、初手に限り勝算は高いだろう。
「内容をリィムに伝えるのは不可能だから、最後はアラスティア頼りになる。一発勝負だ、頼んだぞ。」
「ま……任せろ! ちゃんとやってやる!」
緊張した顔で返事をして来るのが頭に浮かんで来た。アラスティアって緊張に弱いのかな?
「さて、行くぞ!」
俺達はリッパーとリィムが戦っている方へと視線を向けて準備をする。
「大技を使わせられない、接近戦で防ぐ手段も無いとなるとジリ貧の戦いだよなぁぁぁ!」
リッパーが叫びながら氷柱を遊ぶように斬り裂いて距離を詰めていく。リィムも絶妙な距離を取りつつ氷の針を投げては氷柱の罠を発動させて近づきすぎない様に戦っていた。
「上手くやっていると思っているんだろうが、この距離でも技は撃てるんだよ! さっきの嬢ちゃんの傷も治した様だから、今度はお前が治して貰いな!」
リッパーは横目でアラスティアの姿を確認すると、次なる負傷者を作ろうと神薙がより強い光を帯びだした。
「こちらも準備が出来ました! 『紅蓮獄』!」
氷柱に隠されながら氷の針で設置された八寒地獄が発動すると、冷気が二人を包み始めた。
「まぁたコレか。効かねぇって理解できねぇ程バカなのか? まぁ喰らっとけや『破響閃』!」
呆れた表情で破響閃を繰り出すが、リィムは目的の槍を具現化して冷気を集めていた。
「本命はこっちですよ。」
具現化した槍で破響閃を下段から振り上げて真っ二つに斬ったのだ。
「はああぁ!? その槍は!?」
「ゴミに説明しても無駄です。」
リッパーが驚いた表情を浮かべているとリィムがニッコリとした笑顔で挑発する。簡単にその挑発に乗ったリッパーの神薙の光が強くなる。
「だったら黙って死ねや! 『天龍一咬み』!」
神薙が一閃すると、天龍一咬みがリィムの眼前に迫って来る。しかし慌てる事無く槍を構えると、槍先に冷気が集まり青白い光を放ち始めた。
「段々と使い方が解って来ましたよ。そしてコイツは斬るんじゃなくて軌道を逸らせば良いのですね。」
冷静に天竜一咬みが目の前に着た瞬間、横薙ぎで天竜一咬みの龍の頭を払うと、軌道が逸れて誰も居ない方向へと飛んで行った。
そして壁に激突すると大きな音を立てて爆発し、その余波の風が二人の髪を激しく揺らした。
リィムは自慢気な表情をすると、挑発的な態度を続けた。
「力押しだけするのはバカのやる事なんですよ? 戦い方もバカの一つ覚えでは対処されて当然ですよね?」
見た事が無い様な挑発的な笑顔を浮かべている……何か怖いんですが。
「ゴミだのバカだの……さっきから調子に乗るな!」
リッパーが挑発されて怒りをあらわにしている。そして再び神薙を振りかぶって次なる技を出す。
「七彩暴れ龍!」
7匹の龍が四方から襲い掛かるが、リィムは慌てる事無く冷静に一匹づつ視線を移して最初のターゲットにする龍を探している様だった。
「これも時間差を自分から作って、1匹づつ対処すれば……。」
最初の目標へと駆け出し、先程ティルがやったように槍を振りかぶって叩きつける様に龍の頭へと打ち下ろした。
暴れ龍は凍った地面へと叩きつけられると爆発して姿を失った。そしてリィムは次々と目標を決めては走り出して槍で龍の頭を叩き潰していく。
「テメェもさっきの火の精霊の様な事しやがるのか!」
リッパーは暴れ龍の追加を撃ち出しつつも、目の前で起きている光景に苛立ちを隠せない様だった。しかし表面は怒っている様でもリッパーは冷静だった。
大技の「蛟龍の大顎」を打とうとしているのが解ったからだ。暴れ龍の連打で適切な間合いを確保して機会をうかがっていた。
「よし、大技の準備に入る様だ。まずはナギとティル、頼むぞ。」
「はいな、お任せあれ!」
「任せておきなさい、ティル行くわよ。」
ティルが5㎝位の火球を作ると、そこにナギが流し込む様に火球へ風を送った。その風を吸う様に火球に回転を与えながら内部に風を圧縮する様に取り込んでいったのだ。
「上手く行ったわね。次はユキの番よ!」
呼ばれたユキは同じ位の大きさの光が圧縮された玉を作り出した。
「アラスティア、ここからの調整はアンタの番よ。」
今度はアラスティアが俺と変わって表に出る。そして光の玉をユキから受け取るとそれを両手で握る様に更に小さく圧縮していった。
「よし、私はこれの維持に集中する。後はタツミの番だ。」
圧縮された光の玉を左手の上に浮かせて、今度は俺が再び前に出る。地面に右手をついて、「発熱」で氷を溶かして土を露出させる。
「月虹丸、力を貸せよ『土壌操作』!」
俺は土壌操作で地面の中の鉄の成分を手元に集めると持ち上げて、厚さ1mm程度の純度の高い鉄の球体を作る様にゆっくりと形を変化させていく。
「よし、半分出来上がった。まずは光の玉を入れて……ティル、爆発しない様にこっちに入れろ。」
声を掛けるとティルは慎重に風を混ぜ込んだ火球をゆっくりと鉄の半球体に収まっている光の玉に並べて入れる。
「よし、そのまま維持しろよ……蓋をする。」
そうして俺は鉄の膜を完全な球体にして光と火球を包み込んだ鉄の玉が完成した。
「さて、後はコレを『身体強化』したタツミ君がアイツにぶん投げてやりなさい!」
ナギが悪魔の様な笑顔で言っている。中身は理解できたが……よくこんな物を作る発想が有ったと言うものだ。
「さぁ、喰らわせてやるわよ。ミリオタ系ゲーム大好き、ナギちゃん特性『スタン・グレネード』を!」
うん、作ったのは皆だけどな?
「この間合いなら回避出来ねぇだろ! 喰らえ!『蛟龍の……』。」
リッパーがタイミングを見計らって神薙を大きく振りかぶったのが見えた瞬間、全身の身体強化を最大に上げる。
色々な意味で不足していた生命力を「大いなる再生者」が補填してくれたおかげで術の力が大幅に上がったのを実感している。この恩恵が無ければ土の精霊術で鉄球を作るのも無理だったと思える位に精霊術の精度も上がっているのだ。
大いなる再生者に感謝しつつ、俺は出来上がった「スタン・グレネード」を思いっきり奴の手前目掛けて投げつけた。
「アラスティア! 頼んだぞ!」
俺は投げた瞬間、目をつぶってアラスティアに全てを任せたのだった。
「あ……? 何だ?」
技を打とうとしたリッパーの手前に鉄の玉が飛んで来た。明らかに自分に当たらない鉄球を視界に捉えたリッパーは一瞬だけ何事かと見ていた。
そして鉄球が手前数メートルの地面に落ちた瞬間、大きな連続した爆音と風、そして閃光の連打が弾け飛んだのだった。
「な! これは何だ!?」
気付いた時にはもう遅かった。リッパーは目を閃光の連打でやられ、耳は爆音で耳鳴りを起こして平衡感覚を失う。同じく戦闘に集中していたリィムも同じだった。二人は急な出来事に対処できずに、平衡感覚を失って地面に倒れ込んだ。
「光の鉄球!」
アラスティアの声が響くと同時に、光で出来たモーニングスターがリィムの体に鎖を巻き付けて引き寄せる。
「全員撤収するわよ! 先導は私がするからついて来て!」
ナギを先頭として全員が移動を開始する。リィムは一人スタングレネードの影響を受けていたのでアラスティアがそのままお姫様抱っこの状態で走って行く。
「タ、タツミ! 私は力が有る方ではない! リィムを抱えているのならお前の方が適任だ。交代してくれ!」
アラスティアはすぐにナギについて行けないと判断して裏に引っ込んだ。俺はすぐに身体強化を使って先頭に追い付く様に走り出した。
「お前な! ってこれ以外の方法は無いか!」
文句を言いたくなったが、逃げるならこれが正解なのだろうが……彼女いるのに別の女性をお姫様抱っこする気分はかなり複雑な気分だった。
「あー、タツミ。早速浮気かしら?」
ニヤニヤしながらティルが隣を走っている。
「お前、後でゲンコツ喰らわせるぞ? お前にだけは容赦しないからな!?」
睨みつけると、ティルはヒジリの方へ走りながら寄って行くと、ヒジリと同化して逃げやがった。
「タ、タツミ君。大丈夫だよ、それで浮気なんて言わないから。」
「いやいや、これで浮気と言われたら俺の立場無いからね!?」
ヒジリが困った顔でフォローして来るが……契約主を困らせて楽しんでるんじゃねぇよ! この万年陽気精霊が!
「良かったわね~優しい彼女で。まぁ浮気したら私の方が許さないわよ。」
ナギが笑ってない目でこちらを見て来た。だから何でそうなる!
「な、何か凄いノリツッコミね。いつもこんな感じなの?」
ユキが呆れた表情で俺に聞いて来るが……いつもはこれにハッキネンも絡むからもっと酷いとは言えません!
「もうね、見たまんまだと思ってくれ……。」
ため息まじりにそう答えるしか無かった。それを見たユキは同情の表情で笑うしかない様子だった。
そして走り続けた俺達は階層を上がって行くと、ついに出口が見えて来た。移動中にリィムも平衡感覚と視界が戻ったらしく、今は自力で走っている。
氷の龍穴の入り口は大きな鍾乳石の様なつららが立ち並び、そのつららを足場にして出入りするような構造になっていた。
地面も壁も厚い氷に覆われているので滑らない様に細心の注意が必要なのだが、俺が土の精霊術で靴の足裏に付けるスパイクの様な滑り止めを具現化してヒジリに渡す。
「入る時はリィム以外は転ぶように落ちたけど……帰りは楽そうだね。」
ヒジリが受け取ったスパイクを見て感心した表情をしている。大いなる再生者の影響がここでも良い方向に出ていた。
「よし、身体強化して一気に駆け上がるぞ。リィムは普通に上がれるから……ユキは一度アラスティアを戻すな。」
俺はアラスティアと分離してユキに返した。
「アラスティア。さっきの光の鎖を作ってくれ。それを持って上に上がるから、後は鎖で引き上げる。」
ユキとナギは上手く上がれるか謎だったので、光の鎖で引き上げる事にした。
「別にさっきみたいにお姫様抱っこで抱えて走ったら~?」
ティルがツッコんで来た。振り向き様に睨みたかったが表に出てるのはヒジリだから睨めない! クソが!
「もう勘弁してくれ。今やったらハッキネンからもイジられるのが目に見えている。」
溜息まじりに言うと、いつの間にティルが表に出て来るとユキとナギを両脇に抱える様に持ち上げた。
「じゃ、私が代わりに。こっちの方が早いでしょ。それにリッパーが来る前にさっさと行かないとね。」
ティルは身体強化して『つらら』の足場を利用して出口へと駆けあがって行った。リィムも追いかける様に、氷の壁面を忍者の様に駆け上がって行く。若干二人の悲鳴が聞こえたが……聞こえなかった事にしよう。
そして俺達は無事に氷の龍穴から脱出することが出来たのだった。




