第115話 6属性目の契約
俺達は急いで三上さんの元へと移動している。三上さんが時間稼ぎに適任だったかの説明をリィムから聞いて納得はしたが、属性攻撃を持っていた場合は危険だとも説明された。
実際に特異能力は神器2個分の能力を合わせ持っているのだから、何かしら異常な能力を持っていてもおかしくは無い。
あ、特異能力の説明はリバティから既に聞いていた。しかし色々と皮肉めいたネーミングだとも思った。
所有者からしたら自分以外の二つ目の能力、そして神器2個分の能力と……いずれ肉体を奪う二つ目の人格を持つ能力。色んな意味で2番目の能力だなと。
「しかし……リィムって強くなったのか? 以前に比べて動きも槍の威力も段違いだったが。」
戦闘中で聞けなかった事を横で走っているリィムに聞いてみた。明らかに前よりも動きが早いし、投擲による威力もヴァイやミノタウロス戦等で見た威力と段違い過ぎた。
「あー、アレはちょっと……色々と覚悟と決意を固めた結果ですね。その時の強い感情でハッキネンが進化した様で、それで私もパワーアップした様です。」
リィムが上手く説明できないと言った様な困った顔で説明してきた。
「それよりもタツミさんの動きも全然違ってましたが、ティルの進化の影響ですか? そうだとすると私の変化にも納得がいくのですが。」
俺は一瞬返答に困ったが「大いなる再生者」の件は言えないので話を合わせる事にした。一応念の為にティルの方へ視線を送ってアイコンタクトをしてみるが……一応頷いては居るので大丈夫だと信じたい。
「恐らく一緒だと思う。ティルが進化してから体が軽くなったのは間違いない。」
一応、嘘は言って無い。だって進化してからの話だし、そこに「大いなる再生者」の話が抜けているだけだから。
「そう聞いて安心しました。私も急に強くなったので違和感が有ったのですよね……特に槍なんかイメージした物と違うのが具現化されたので。」
ん? 精霊術ってイメージした物以外を具現化できたっけ? 最初にティルに教わった時にはイメージ出来ないものは具現化出来ないと言われたような……。
そう思ってティルに視線を送ると、ちょっと黙って的な表情をされたので素直に頷いておいた。今の感情を「心理投影」されていない事を祈っておこう。
「もうすぐ着くわよ! 3人とも注意して!」
ナギが全員に警戒するように促して来た。そして前方に開けた空洞が見えて来る。そしてそこから眩しい光が溢れているのが見えた。
「光の結界が有ると言う事は、まだ大丈夫と言う事でしょうか?」
リィムがナギに確認を取るが、表情を見るからに余裕そうでは無いのが伺えた。
「どうかしらね、アラスティアからは良い感じのニオイは来てないわよ。入った瞬間に場に飲まれて硬直しない様にだけはしておいて。」
常に最悪を想定して動けと言う事か。ナギの言いたい事は理解できたので、俺達は油断せずに大きな空洞部分へと足を踏み入れた。
「よぉ、少しばかり遅かったじゃねぇか。」
入った瞬間に見えたのは、不敵に笑うリッパーがアラスティアの腹部を神薙の根元まで刺し貫いていた姿だった。
「本当に考えたもんだぜ、俺の技が物理属性と理解した上で、光特性の『物理無効』で戦おうとしたのまでは考えたなと褒めてやる。
たがな、俺の技は『貫通』の特性を持っているんだよ。残念だったなぁぁぁぁ。そうしねぇと光の精霊を殺せねぇからなぁぁぁ!」
そこまで言うと、リッパーはアラスティアごと払う様に大きく神薙を振ると、アラスティアの体が神薙から抜けて、こちらの方へと飛ばされて来た。
慌ててティルが受け止めると刺された腹部から相当な出血が確認できたのだった。今の一振りで傷口がえぐられてしまったのだろう。
と言うか「貫通」ってなんだよ! どんな特性だよ! お前の二つの神器能力の説明が欲しんだが!?
「ホラ、死んでねぇから早く治療してやるんだな。リバイバーさんよ。まぁその傷も臓器をえぐってやったから致命傷に近い。お前の力が持てばいいなぁ?」
リッパーはティルの方を見てヒジリに治療をする様に促している。奴の目的は何となく理解出来た。ヒジリに「再生の炎」の力を使わせて、消耗した所でリバイバーが表に出る様に仕向けると言う事か。
「大いなる再生者」の説明からするとヒジリが消耗し過ぎると、人格が取り込まれる様な事を言っていたからな。
「タツミさん、私が時間を稼ぎます。その間にアラスティアの治療と契約をしてみてください。可能性を広げる為にも出来る事は全てやっておきましょう。」
リッパーの挑発にリィムが一歩前に出る。それを見たリッパーが一瞬目を丸くしてから嘲笑う様な態度をとった。
「あん時、何も出来なかった小娘じゃねぇか。てめぇの精霊術は俺には効かねぇってこの前学習しなかったのか? どんだけ頭がよえぇぇんだよ?」
その態度を見て、リィムは少しイラっとした笑顔をリッパー向けた。
「本当に口が汚いですね。どういう教育を親から受けたんですか? そんなのだと悪い事をした時に止めてくれる友人も居ないのですよね。ぼっちのアナタに礼儀作法を言うのは間違ってましたね。」
何かめっちゃ怒ってる!?
「ああ、ぼっちと言ったらぼっちの人に失礼ですね、ゴミ性格です。スキルもゴミなら人格もゴミなのですね。ゴミに礼儀を問うのが間違ってました。すみませんでした。」
何かすっごい罵り言葉を使って無いか? そして笑顔でゴメンナサイまでして煽ってるし! そんなに煽って大丈夫なのか!?
「上等だなぁぁぁぁ! その口を斬り裂いてやる!」
挑発に乗ったリッパーはリィム目掛けて踏み込もうとした瞬間、先に氷の針がリッパーの足元に刺さった。氷の針は一瞬光ると氷柱が発生してリッパー目掛けて物理的な攻撃を仕掛けたのだった。
「チッ! 確かに冷気は効かねぇが、物理的に氷で殴られるのはダメージを受けるわな! 少しは利口になったか? しかしなぁ!」
リッパーは目の前に迫る氷柱を神薙で一刀両断にする。そして次々と飛んで来る氷の針から発生した氷柱も順番に斬り裂いていった。
そんな光景を見ていると、いつの間にかヒジリが表に出てアラスティアは治療し始めているが……アレは豊穣の方だが……何か精霊力の流れが違う様な?
「ヒジリ、それは豊穣か? 何かちょっと前とは違う様な……。」
そう、前の豊穣の時は本人しか解らない様な温かい何かが流れる様な感じだが、今のは赤い光が漏れ出している。
「私もアルセインの進化で能力が強くなった様なの。何かこう生命力が溢れて来るって言うのかな? とにかく調子が良いの! そして負傷者自身の生命力を前借り? みたいにして治療が出来る様になったの。」
負傷者自身の生命力の前借り? つまりヒジリの負担を減らして、ケガ人自身の生命力を消費させるという事か。この場合の消費された生命力は疲労として表れたり、寿命短くなるとかなのだろうか?
(私の力に取り込まれない様にしていた生命力が使える様になったから、精霊術も進化した様ね。)
リバティが納得した様な声を出した。あの時、ヒジリの負担を減らす為に力を分割したと言った。と言う事は自分を守る為に使っていた分の生命力を自由に使える様になったと言う事か。
「うぅぅ……嫌な予感はして回避に専念しつつ、幻覚効果を使いながら戦っていたのだが……地力が違い過ぎた。すまない。」
意識を戻したアラスティアがヒジリに礼を言う。
「大丈夫、治療と言っても強引にアラスティアと三上さんの自己回復力と生命力を傷口に集めて治しただけだから。私よりも二人の体力が消耗しているから気を付けて。」
なるほど、使用した生命力はその場で疲労として表れるのか……と、考察はここら辺にして、意識が戻ったのなら本題に入らないといけない。リィムもどこまで耐えられるか解らない。
「三上さん。俺にアラスティアと契約させてくれないか? さっきは説明が途中だったが、俺は特異体質で皆の精霊と『同調契約』が出来るんだ。そして能力は皆と比べて劣る分、組み合わせて本領を発揮する。アラスティアが嫌じゃ無ければ力を貸して欲しい。」
俺の言葉を聞くと三上さんが表に出て来た。驚いた表情をしているが説明している時間が足りない。それを察したナギがフォローを入れて来た。
「ちなみに私のパティスも、レンのガラントも、リィムのハッキネンもタツミ君と『同調契約』しているわよ。私達が交わした『命名契約』とは違うから別にアラスティアとの関係性は変わらないから安心していいわよ。後、三上さん自身にも何の変化も無いのは保証するわよ。」
ナギの説明を聞いて三上さんは俺達を見回してから溜め息まじりに言った。
「何その能力……別に大丈夫よ。アラスティアも工藤君が相手なら文句も言わないと思う。ただし条件が一つ有ります!」
俺とヒジリは何を言われるのだろうと少し身構えて言葉の続きを待つと。
「二人とも、人間界に帰るまでは仲間として一緒に付いて行くつもりだから。呼び方はユキに変えて! 私も名前で呼ぶから!」
「「あ……ハイ。解りました……」」
想定外のお願いに俺とヒジリは呆れたを通り越して脱力した表情で同時に返事をしたのだった。
「そんな事と思ってるでしょ!? 一人だけ苗字呼びされてると意外と精神ダメージ酷いんだから!?」
三上さん……改め、ユキは顔を赤くしながら真面目に表情で俺達に訴えかけて来た。うん、今から名前呼びにするから少し落ち着こうか。
後ろで笑いを堪えてるナギも落ち着こうな。お前の笑いのツボはどこに有るんだ?
「分かったわ、ユキちゃん。宜しくね。」
そう言ってヒジリが手を出すと、ユキは照れた様な表情で手を握り返した。
「よ、宜しく……ヒ、ヒジリちゃん。」
照れながら握手を交わすのを見て、俺も改めて手を出す。
「俺も宜しく、無事に人間界に帰ろうな。ユキ。」
「工藤……いえ、タツミ君も宜しくね。」
俺の方とも握手すると、しばらくしてアラスティアが表に出て来た。
「さて、この握手のまま契約と行こうか。『同調契約』の為の心のベクトルは……あいつの顔面を一発殴るでどうだろうか?」
アラスティアはリッパーの方を見ながら提案して来た。
「いいな、それはベクトルが合いそうだな。俺は工藤 辰巳、よろしくな。」
「私はアラスティア=サルファだ。今後ともよろしく。」
するとアラスティアが光に包まれて俺の方へと同化した。そして手を握ったまま残されたユキが驚いたように茫然と、本当に出来たんだと言う顔をしてたたずんでいた。




