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第114話 神殺しの槍

 何か聞こえた気がしますが……気のせいですよね? 今は目の前の敵に集中しましょう!


「行きますよ!」


 いつもの様に投擲用の手槍を構えようとして具現化した槍が視界に映ると、違和感に気が付きました。いつもの槍とは形状が違ったのです。


「何か……さっきまでと違って、随分と綺麗な槍だわね。」


 ナギが私の具現化した氷槍を見て見惚れています……私はこんなイメージをして槍を具現化したつもりは無いのですが……。


 いつもの槍は穂先が一つの本当にシンプルな一般的な槍なのですが……今、持っている槍は美しい流線形を描いた様な三叉槍になっていて、まるで芸術品の様です。


「な……何ででしょうか? 私はこんな風にイメージしたつもりは無いのですが。」

「多分、私の進化の影響では? それよりも早く!」


 困惑している私をハッキネンが現実に引き戻してくれました。今やるべき事をしっかりと見据えます。


「タツミさん! 小柄な方は私が受け持ちます!」


 私は足元に氷柱の罠を利用して、自分を戦線へと飛ばします。


「了解! 何となくそっちは相手しずらいから助かる!」


 タツミさんは父親似の集合精霊の短刀を受け流したかと思うと、そのまま肩でタックルを当てて母親似の精霊との距離を取りました。


 直後、私の三叉槍を母親似の集合精霊へと突きを繰り出します。母親似の精霊は短刀で受けますが、すぐに短刀は砕けて顔の横をかすめて私はそのまま後方に着地します。


「分かる、この槍は……ただの投擲槍じゃない!」


 何となくの直感でそう感じました。そのまま槍を振り回す様に母親似の精霊へと払い技を回転するように連続で繰り出して体勢を崩そうとしました。


「軽い? 違う、身体能力が上がっている?」


 槍を振る速度が今までと段違いな事に気が付きます。今までも自分で作った槍なので重いと感じたことは無いのですが、これはまるで槍自体が加速する様な感覚を覚えたのでした。


 先程までとは圧倒的に違う速度で母親似の精霊の手に持っていた新しい短刀を打ち払い、返す槍で足を払って転倒させます。そのまま棒高跳びの要領で槍を使い母親似の精霊の真上にに飛ぶと、倒れたソレと目が合います。


「お母さん……ありがとう。そしてさようなら!」


 素直に思って事を口に出して槍を地面ごと貫通する勢いで投げつけます。すると槍は今まで見た事の無い冷気を纏い、短い距離でしたが異常な速度で確実に母親似の精霊の中心に打ち込まれたのでした。


 突き刺さった瞬間に爆発する様な音と大量の冷気が辺り一帯、吹雪の様に弾けたのでした。


「リィム……大丈夫か?」


 何も無くなった爆発の後地に私が降りると、様子を見ていたハッキネンが心配した様子で声を掛けて来ました。


「大丈夫です。私は覚悟を決めたと言ったでしょ。」


 吹雪が収まり付近を見回すと結合結晶が光を放ちながら浮いていました。


 しかしこの集合精霊はわざわざ私が来たことを察してあの姿を取ったのでしょうか? そうだとしたらその知識は何処から得たのでしょう?お父さんとお母さんの残留思念の記憶からなのですか? それともただの偶然でしょうか?


 今は悩んでも時間の無駄と思い、タツミさんにこの結晶を砕かせる為に声を掛けます。


「タツミさん! こちらの集合精霊体の結合結晶が出たので砕いて下さい。そちらの集合精霊も私の手でケリを付けさせてください。」


 声を聞いてタツミさんは振り向かないまま返事をしてきます。


「了解! 入れ替わる準備が出来たら声を掛けてくれ!」


 返事を聞いて、私は再び戦闘態勢に入る準備します。そして今まで試したけど失敗していた技を試す事にしました。


 「今なら出来る筈! 罠の力を込めた氷の針よ! 八陣を作りてその力を表せ!」


 先程と同じ槍を具現化させ、先端に八寒地獄の罠の精霊術を組み込んだ氷の針を八つ、槍先に付着する様に具現化させます。


 槍を一回転する様に横薙ぎに振り、正八角形になる様に氷の針を私を中心に飛ばしてそのまま起動させます。


「行きますよ! 八寒地獄が第七獄!『紅蓮獄』!」


 八寒地獄が発動すると青蓮とは比べ物にならない程の冷気が一気に噴き出します。


 この冷気は耐性が無い物が触れると一瞬で紅蓮の花が咲く様に皮膚が裂けて紅の花びらの様な血の氷華が咲く事から紅蓮獄と呼ばれる程の冷気です。


 今までなら発動すらしなかった紅蓮獄と、精霊術を込めた氷の針による罠の設置と起動でしたが、今回はしっかりと発動しました。


 そして冷気を全て槍に集める様にイメージすると、冷気が集まり全てを集め終わると槍は冷気によるうっすらとした白い光を纏いました。


「タツミさん! 準備出来ました! こちらの方へ直線で来てください。そのままスイッチします。」

「分かった! では行くぞ!」


 タツミさんは父親似の集合精霊から視線を外さずに構えを維持したままこちらの方へバックステップで移動して来ました。私は入れ替わる様に父親似の集合精霊の前に出て、そのまま槍を突き出します。


「今更、その姿に動揺はしません。覚悟してください!」


 集合精霊はいつの間にか短刀をそれぞれの手に持ち、片方の短刀で私の槍を受け、もう一方で反撃をしようとしたのでしょう。しかし私の槍は短刀に触れた瞬間、短刀は砕け散りました。


 そのまま相手の胸元に槍先が薄皮一枚をかすめると同時に、体を捻じって私の側面に移動しつつ体の回転を利用し、残っていた短刀でこちらに斬りかかります。


 私は冷静に槍の柄尻の部分でソレを受けると、一瞬で凍らせて砕きます。そしてそのまま円を描く様に槍を回して再び下段から槍先を胸元へと斬り上げます。


 集合精霊は槍先で軽く斬られつつも身をひるがえして後ろに下がり、今度は弓を構えます。しかし既に勝負は終わりました。


 集合精霊が弓を放とうとした瞬間、体が動かなくなったのに気が付いた様でした。そして自分の胸元に有る氷の華に気が付いて視線を落とします。


「もう終わりです。二撃必殺の紅雪月花です。」

 

 私が言うと同時に、一気に紅雪月花が成長して集合精霊の体よりも大きな紅の華を咲かせました。


「そしてトドメです!」


 私は距離を取る為に下がります。そして確実にトドメを刺す為に先程の投擲と同じく、槍を投げる構えを取って槍に全精霊力を集中させます。


「この一撃は、運命で遊んでる神様への反抗の一撃です! だからこう名付けましょう!神殺しの槍(カムイキイケ・オホ)と!」


 私は全ての冷気と精霊力を込めた、全力の投擲を凍り付いた集合精霊へと撃ち出します。神殺しの槍(カムイキイケ・オホ)は手を離れると白い冷気を纏い、その冷気で飛んだ軌跡の後ろにダイヤモンドダスト現象を起こしてます。


 その姿はまるで彗星の様に一直線に飛んで行き、集合精霊に触れると同時に、爆風と共に全ての氷が砕け散りました。


 しばらくは余波で辺り一帯が吹雪の様になりましたが、しばらくすると風が止んで龍穴内の氷の景色が広がりました。


 集合精霊が居た場所には、チリ一つも残さずに全てが消え去っていました。私はそれを見てタツミさんの方を向いて結晶を破壊したかを確認します。


 振り返ると、真っ二つになった結合結晶は霧散して月虹丸に吸い込まれる様に消えて行ってました。これで4つ目の結晶を集める事に成功です。タツミさんの氷の精霊術の精度と威力も上がる事でしょう。

 

 そんな事を思っていると、私の手の中に何かが有る事に気が付きました。違和感を覚えた手を広げて中を見るとそこには先程まで目の前に有った物と同じものが有ったのです。


「リィム、それは……結合結晶?」


 ハッキネンが驚いています。やはり両方とも持っていましたか……少し嫌な予感がしましたが、これで一つ嫌な仮説が成り立ちました。


「結合結晶ですね、あの一撃で一気に砕けた様ですね。それよりも集合精霊体が2体で組んでいたと言う方が良い予感がしません。」


 結合結晶の性質は吸収と結合の筈、つまりお互いでも吸収しようとするのではと思っていたのですが……そうでは無いと言う事になります。


 つまり下に行くと、本能のまま全てを取り込もうとするのでは無く、徒党を組んで獲物を狩る知性が備わっていると言う事になります。


 正直これは厄介です。深層に行けばもっと強くなるであろう集合精霊体がチームプレイをすると考えると……良い感じは受けませんね。


 でも今の所、これより下層に行く予定も必要も無いですから、考えすぎるのは辞めておきましょう。


「取りあえず、ルリにでも渡してみましょうか。ハッキネンもいい加減に武器が有っても良いんじゃないですか?」


「リィムこそ……って、あの槍見たら要らないか。」


 そう言ってハッキネンは黙りました。確かにあの槍は何なのでしょうか? 進化した影響にしても、イメージしてない物を具現化したのは違和感が有ります。


「ちょっと、感慨にふけってないで! ユキを助けに行くわよ! 急いでついて来て!」


 ナギがいつまでも考え込んでいる私に焦った顔で言うと、行くべき方向へと走り出しました。そうでした! ユキを助けに行かないといけません! 時間稼ぎにも限度が有る筈ですから。


「そうだった! すぐに向かうぞ。リィムも大丈夫か?」

「大丈夫です。すぐに行きます。」


 タツミさんは私の返事を確認するとティルと走り出しました。


 私は少しだけ後ろを振り向いて、先程までの場所に向かって手を合わせます。


(お父さん、お母さん。私は前を向いて生きて行きますから安心して眠ってください。では行ってきます!)


 少しだけの祈りをささげた後、私は前を向いて皆を追いかける様に走り出しました。

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