第11話 精霊石を求めて
集落の中に入るとそこは独特な雰囲気だった。
ポツポツと不規則に家が建っている。家の壁は大きな岩を切り取って壁にしている。屋根は鉄のトタン板の屋根だった。道は岩を切り取ったレンガの様な物で舗装されており意外と歩きやすい。道の脇には金属製の街灯が有るのも驚いた。
「何でトタン板や街灯が有るんだよ?」
「契約した精霊は人間の知識も得る。素材が有れば技術を習得して加工物を作るのだって問題は無い。先程タツミも武器を作って貰うとか言ったのを忘れたか?」
「まぁここは火の精霊界だから水が存在しずらいから、比較的質素な作りに見えるかもね。」
二人が答えて来るが、水が少ないから質素な作りってどういう事だ?
「水が無いと、土壁やセメントも使えないし。その他の建築資材の材料となる大きい木が育たない。つまりはそういう事よ。」
ティルがドヤ顔で言って来る。感情を察して答えて来たのは分かるが、なんで俺が知らないようなセメントとかの知識まで知っているんだ?
「ん? 疑問に思った? 多分テレビとかで流れている映像で無意識に見たモノを意識してないだけで、知識としてはどこかに有ったモノよ。言われてみれば納得するみたいな知識よ。」
「なるほど、確かに言われれば理解できるか。認識してない知識と言う事か。」
同じ情報を見ても、見る人によって捉え方が変わる様なものか。知識って奥が深いものだなと感心してしまう。俺にはそう言うところが足りないのだろうな。
「まずは休憩所に行く。あそこなら誰か居る筈だから。」
リィムが集落の中を進み始める。しばらくして他の家より二回りほど大きく、どちらかと言うと公民館と言った感じの家が見えて来た。リィムを先頭その家に入ると数人の精霊達が居た。
「おう、ハッキネン。また来たのか。後ろの二人は新入りか?」
体格の良い大柄の男の精霊が声を掛けて来る。この人も周りの人も陽気そうな精霊達だ。
「レピスに言われてお守しているところ。」
「そうか、まぁお前が見てるなら安心だろうさ!」
そう言うと男は豪快にリィムの背中をバンバンと叩く。
「相変わらず皆うるさい。ところで、精霊石の在庫はある?」
リィムが面倒臭そうにしながらすぐに本題を切り出した。
「ああ、精霊石は残り1個しかないが持って行っていいぞ。あんまり長居は出来ないだろ?」
男の方は快諾するが、残りの在庫数を聞いてリィムが少し難しそうな顔をする。
「本来、最後の1個だと持っていく人は新しい在庫を持って来てからじゃ?」
「構わねぇさ、お前は特別さ。見た所だいぶ消耗してるじゃないか。早く一度ここを離れた方が良いだろ? 調子の悪い奴に持って来いなんて言ったら精霊の恥さ!」
豪快に笑いながら男が言う。うん、火の精霊って皆こんな感じなのだろうな……ティルの性格は普通だなと思ってしまう。
「いや、ルールはルール。精霊としてルールは守る。コイツの修行も兼ねて取りに行ってくる。」
「相変わらず頭が固ぇなぁ……、まぁ氷の精霊は融通の利かなさはピカイチだからなぁ。解った、無理すんなよ?」
男はやれやれと言った顔で頭をかきながら、相変わらず淡々と話すリィムの説得は早々に諦めて気遣いの言葉を掛けた。そしてこちらの方を向き話しかけて来た。
「新入り二人、精霊石が有るのは龍穴だからリィムに無理させんなよ?」
「「龍穴?」」
声がハモった。ティルも知らないと言う事は精霊界にとって当然に有るモノではないと言う事か?
「何だ、そんな事も知らないのか。本当に具現化したばかりのヒヨッコか。リィムも説明しておけよ。」
男があきれ顔でリィムに視線をやるが。相変わらずリィムは動じない。
「現場で説明が一番早い。百聞は一見にと言う。」
「まぁ、そうだが……。おい、アンタら。先に言っておくが龍穴は精霊界のさらに奥の様な所だから危険な場所だし、精霊力の濃さも段違いだ。間違ってもリィムに無理させるなよ?」
「あ、ああ。頑張るよ。」
不安な内容しか聞こえて来なかったが返事をして休憩所から移動する。
「なぁ、龍穴なんて聞いてないんだが?」
「行くかどうか解らないのに説明する必要が有るか?」
俺の不満を込めた質問をリィムはさらりと受け流す。本気でこいつは説明不足と言うか、可能性が有ることに対しての説明が無さすぎる。確定事項しか話さないつもりか!
「でも、最後の1個を使う人が取りに行くルールってどうして出来たの?」
「最後の1個と言うか、精霊石は近くの精霊力を取り込む性質が有る鉱石が変化する。だからダンジョンの様な精霊力が濃い所で出来る。しかし、そのまま精霊が使用すると安定しないから集落に持ち帰り精霊の力を吸わせて馴染ませる必要がある。」
「なるほど、だから最後の1個だと補充しないと次の人が困ると言う事か。」
「そういう事。だからルールを守って取りに行く。後はタツミの修行に丁度良い。」
リィムが最後のセリフだけニヤッと邪悪な笑みを浮かべて言う。何だか嫌な予感しか無いのだが。
「そう言えば精霊界の奥だから精霊力も濃いとか言っていたわよね? そんな不自然な所が何で有るの?」
「龍穴は精霊界と言うよりも地下への入り口みたいなモノと思えば良いと兄上が言ってた。地下は精霊力が濃いから、そこで分離を維持すればそれだけで良い修行になる。精霊石はオマケ。」
そのセリフを聞いてこいつは確信犯だと理解する。
「お前!最初から行くつもりだったんじゃないのか!?」
「言っても言わなくても結果は変わらない。気にするな。」
平然と言ってくれる。これなら覚悟ができる分だけ騒ぐティルの方が全然ましだ!
「タツミ、比較対象が違うからね? そもそもの精霊の特性を考えて……。」
ティルが俺の感情を読んでなぐさめる様に声を掛けて来る。
「ダンジョンは集落からそんなに離れてない。すぐに出発だ。」
リィムは俺達を無視して移動を開始するが拒否権は無いのだろうか?
「諦めて行くわよ。修行しなきゃいけないのは変わらないんだし、腹を括りましょう!」
「何でお前はそうポジティブなんだ? そう言うのは求めて無いんだが? 理屈は解るよ?」
「大丈夫! 何かあったら私が守ってあげるから!」
そう言うと、先程の男の精霊の様に俺の背中をバンバン叩いてくる。そして男の言葉も思い出す。
「リィムに無理させるなと言われたが、実際どうなんだ? 弱ってるのか?」
リィムに聞こえない様に、小声でティルに話しかける。
「見たところ、大体7割位ってところじゃないかな? 火の精霊界じゃ回復出来ないからね。」
ティルも小声でこちらに話しかけてくる。良かった、こう言う空気は読めるんだと安心した。
「そこ、自分の心配をする。私は多少弱っても貴様達よりも充分強い。」
「「うひゃあ!」」
リィムがいつの間にか戻って来て、俺らを見上げる様に睨みつけていた。不意を突かれて二人で情けない声を上げてしまった。
そして数秒固まったかと思うとティルがおもむろに喋り出す。
「今気がついたけど、この構図でリィムを見ると……、何か可愛い!」
まぁ、確かに身長差がかなり有るから見上げられると小動物の感じがする。言いたい事は解る。ティルはおもむろにリィムの頭を撫でながらだらしない顔になっている。うっすら二人が光って見えるのは気のせいだろう。
「……反応に困るのでやめろ。」
リィムが少し照れる様にしながらティルにお願いしている。タブレス以外にデレるんだ、ツンしか無いと思ってた。
「おい、また何か失礼な事を考えてないか?」
そう言ってリィムはティルの手を払いのけて数歩下がり、俺に人差し指を向けてきた。
「いや、タブレス以外にもデレる事が有るんだなと思っただけだが?」
「ややや、やかましい! 兄上を引き合いに出すな !さっさと行く!」
リィムが顔を真っ赤にして歩き出した。口調がタブレスの時に似てる。もしかして照れると変わるのか?もう少し検証してみたいな。
「おい、変な事考えてるな? 言ってみろ。内容次第では修行内容を変えるぞ?」
「いいえ、どうやったらリィムがデレるか研究しようかと。」
おっと、ティルの悪い癖がうつった様だ。いつもならすぐに引き下がるが、今回は好奇心に負けてしまった。だって後ろのティルが同じ事を考えてるのが伝わって来るしな!
「な、な…、何をする気だ?」
リィムが身構えながらわなわな震えてる。
「ティル、行け!」
「あいよ! 捕獲開始!」
「な、やや、やめ、やめろー!」
リィムが青ざめた顔で逃げようとするが、ティルも身体強化を無駄使いと言わんばかりに使って強化して捕獲しようとする。
「こんな所で術の無駄使いしてどうする! 龍穴に行ったら修行と言っているのに! 氷らせるぞ!」
「ふっふ~ん♪ その調子じゃ私を氷らせるのは消費が激しいから無理でしょ~。無駄な精霊力を使わないで諦めなさい。」
結局すぐに上機嫌なティルに捕獲されたリィムは暫くの間、抵抗をしつつも諦める気配のないティルに観念して撫でられるのを不服そうな顔で受け入れた。
「回復したら覚えておけ……。」
リィムが照れている様な悔しそうな顔でこちらを睨みつけているが、けしかけただけで実行犯はティルだ。俺に責任は……多分無い! でもあそこまでベッタリされ続けるのは大変だろうと思い助け舟を出す事にした。
「これに懲りたらプランは事前にちゃんと説明する事。後、説明を面倒臭がらない事。これをしてくれるならティルを引き剝がすが?」
「……解った。ちゃんと説明する。」
リィムは不服そうに承諾する。返事を聞いてティルに辞めるように言うとティルは不服そうな顔をしながらも手を離した。




