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第105話 進化した精霊

 俺とヒジリはしばらくしてからリィム達を追いかける為に移動する事にした。流石に龍穴内でずっと別行動も問題だし、集合精霊は俺がトドメ刺す必要が有るから先を急ごうと言う事になった。


 少しお互い照れ臭かったが移動中は手を繋ぎながら移動した……何だろうね? これって物凄く照れ臭いな!? よく世の中のカップルはこれを人前で堂々と出来るモノだなと感心してしまったよ!


 ぇ? 恋愛耐性が無さ過ぎだって?


 うるせぇ、そんな事は俺が一番良く解っている。と言うかヒジリも照れ過ぎて耳まで真っ赤なまま、お互いに黙った状態が続いてしまってるんだが?


 そんなこんなで3層まで降りて来た所で、この甘酸っぱい空気を終わらせるお邪魔虫が登場したのだ。





「ようやく見つけたぜ! グランド・リバイバー!」


 俺達の前に急に一人の男が現れた。長い黒髪を後ろに束ねている頬骨が浮かぶくらい痩せこけた感じのする迷彩服を着た男だ。


「あ、ああ、アナタは誰ですか? それに名前が違いますけど?」


 ヒジリはどもりながらも男に返事を返していたが……これはどう見てもナギから聞いていた切り裂き魔(ザ・リッパー)だろうが!


「あぁん? もしかしてオメェ、まだリバイバーと話した事すら無ぇのか? おい! リバイバー! テメェ聞こえてんだろ? 俺だ! リッパーだ! 返事位しやがれ!」


 男はそう言ってヒジリに向かって怒鳴ると、ヒジリは驚いて俺の後ろに隠れて怯え始めた。


 いや、戦闘力はヒジリの方が強いんだけどなぁ……と思ったが、これを言ったら俺の立場が無くなるので止めておこう。


「チッ! あの野郎、宿り主に危害を与えない為に灰になってやがるな。そうかいそうかい! だったら叩き起こしてやるよ!」


 リッパーはこちらに踏み込んで来たと思ったら薄っすらと光る刀を具現化していた。


「神薙!」


 俺は咄嗟に月虹丸を取り出してそれを受け止める。リッパーは驚いた様な表情を浮かべて再び間合い取った。


「オメェの刀、神器……じゃねぇな。何で俺の刀を受けて折れねぇ?」


 不思議そうな顔をしているが、俺もルリの話からすると切り裂き魔(ザ・リッパー)の攻撃は防げないと思っていたのだが、何故か受けることが出来た。


「さぁな? 材料と鍛冶師の腕が良いんじゃないか?」


「材料……? そう言う事か。あの女、そう言う情報も寄越せってんだ。」


 何やら勝手に納得したみたいだが、こっちはどう戦った物か悩む所だ。剣技だけで勝負するしかないと聞いていたが、一応どこまで精霊術が効くか試してみるか。


「ティル、行くぞ。『身体強化』。」


 月虹丸を逆手で持って地面に突き刺す。そして足の力だけを強化して一気にリッパー目掛けて踏み込んだ。


「ほう、火属性の身体強化か。中々早ぇな。」

「喰らえ! 地摺り残月!」


 俺はリッパーの懐に踏み込むと同時に一気に月虹丸を引き抜いて『地摺り残月』を打ち込む。


「五天閃!」


 リッパーの刀の周りに4本の光の刃が現れると、本体の刀で俺の刀を受け止め、残りの4本は溶岩を気にすることなく俺に斬りかかって来た。


「くそ!」


 俺は身をよじりながら何とか全ての攻撃を回避して間合いを取り直した。


「ふ~ん、中々良い精霊術じゃねぇか。火と土の合成精霊術か、体に纏わりつく溶岩がウザったいが、これじゃ俺にはダメージを与えられねぇ。ちょっと熱い位の感覚だぜ?」


 リッパーは体に着いた溶岩をゴミを払う様に手で払い落していた。


「マジで精霊術じゃダメージが通らないのかよ。」


 俺が呆れた表情で見ていると、リッパーはヒジリの方を見て何か忠告している。


「おい、早く治さねぇと出血多量で死ぬぞ?」


 どう言う事だ? そう思ってヒジリの方を見ると、とても焦った顔をして駆け寄って来ている。


「タツミ君! 動いちゃダメ!」


 聖の声に反応して立ち上がろうとした体を慌てて止める。その力が入った瞬間だった。自分の腹部が深く斬られている事を自覚したのは。


「な……。」


 気が付くと足元に血だまりが出来ている。よく見ると腹部がズダズダに斬り裂かれ内臓にまで達している。それも一撃じゃなく複数回切り刻まれているのが分かる傷跡だった。


「よく臓物を落とさなかったな? ホラ、早く治しな。俺は別にテメェらを殺そうとは思っちゃいねぇが、リバイバーが出てくるまではその小僧を切り刻み続けるだけだ。」


 リッパーは余裕の表情でこちらを見ながら刀をクルクルと回しながら遊んでいた。


「じっとしていて! 大いなる再生者(グランド・リバイバー)の能力じゃないとこんな大ケガ治せない!」


 ヒジリは俺に駆け寄ると傷口に手を当てて焦っていた。そして豊穣ハーベストとは違う何か熱い波がヒジリの手から流れて来るような感覚を感じた。


「流石リバイバーだな。完璧な致命傷だったのに一瞬で治すとか、相変わらずおっそろしい能力だぜ。」


 リッパーは感心しているが、俺の傷が治るのを見ると再び刀を構えた。


「クソ、今の俺じゃ避ける事すら出来ないのか……奴の剣閃が見えない。」


 焦りつつも立ち上がろうとするが、立った瞬間に目眩を起こしてその場に倒れてしまう。


「無理よ! 傷は治せても失血した血までは治せないわ。」


 自分の足元を見渡すと血だらけだ。今、手をついた地面にすらべっとりと手に血糊が付く程だ。そしてヒジリの声が弱々しいと思って顔を見ると、既に顔が真っ青だった。


「そりゃ致命傷のケガを治したら、疲弊するに決まっているでしょ! バカなの?」


 ティルの声が響くと同時に表に出て来た。


「ヒジリ、立てる? 私が時間を稼ぐからナギ達と合流するのよ。目的はヒジリを疲弊させる事ならここで私達を殺す事はしない筈だわ。」


「あ、アルセイン……。解ったわ……タツミ君をお願い……ね……って……何か雰囲気が違わない?」


 俺も目眩が治らない意識でティルの姿を確認してみると、確かに何か変わった気がする。


「言ったでしょ? 精霊は感情で成長するって? 二人の恋愛感情と喜びの感情、ご馳走様でした! 二人の幸せいっぱいの感情で私も進化したのよ。龍位精霊にね!」


 ティルは立ち上がってリッパーの方を見て月虹丸を片手に構える。しかしティルから感じる精霊力は今までの比では無かった。


「おいおい、龍位精霊ごときが特異能力者セカンドスキラーと戦えると思ってんのかよ? お笑い草だな!」


 リッパーは今更どうしたと言った顔をしている。ティルの方も先程の実力を見ている筈なのに余裕そうな表情だ。


「アンタのバカそうな顔は見たく無いわね。一応これでも私は普通の精霊の枠を超えていると自覚しているんだからね? 油断しているとアンタを殺すわよ?」

「ハッ! だったらやって見な! ホラ来いよ! 最初の一撃はテメェにくれてやるよ! まぁ返り討ちにされるのが関の山だろうが……」


 リッパーが余裕をかましていると次の瞬間、ティルの右拳がリッパーの顔面にめり込むと、リッパーはそのまま吹き飛ばされて壁に激突した。


「あら、ごめんなさい。軽く『身体強化』しただけだったんだけど。アナタにしたら速すぎた?」


 ティルが挑発すると崩れた壁の石等を吹き飛ばす勢いでリッパーが立ち上がった。


「ハァ? 軽くだ? テメェ、龍位精霊程度が何でそんな動きが出来る!?」

「だから言ったでしょ? 私は特殊な精霊だって!」


 二人が一気に駆け出してお互いの刀で斬り合いを開始する。俺の経験をトレースしたのかティルの剣捌きは見事と言うしか無かった。


「剣技はそこそこだがこれはどうだ! 五天閃!」


 ティルの方へと5つの剣閃が襲い掛かった。ティルのお陰なのか、先程は初見で全く見えなかった剣筋が今なら見える。


「別に気にしなくても大丈夫! タツミは地道に強くなるんだから良いでしょ!」


 俺の感情を読んでかティルがそう言うと月虹丸の剣速がさらに増して全ての剣閃を叩き落したのだった。


「クソが! 破響閃!」


 撃ち落とした直後の隙を狙って強力な突きの一撃が飛んで来るが、それをティルは涼しい顔で月虹丸の剣先を当てて円を描く様に受け流しながら華麗に避けて見せた。


「お前、それレンがやってた動きじゃねぇか……。」

「ホラ、私って学習能力高いから! 褒めてくれても良いのよ?」

「褒めるよりもプライドがへし折れるわ!」 


 近距離なのに余裕の態度をとりだした。油断し過ぎはダメだろうが……と注意をしようとすると、リッパーは逆に距離を取って怒り出した。


「ふざけんな! 龍位精霊ごときが俺の剣速について来れる訳がねぇ! どう言う事だ!」

「ん~? 残念だけど私は砲撃型の精霊よ。むしろ近距離戦は苦手な方だけど~?」


 思いっきり挑発する様にリッパーに向かって言っているが……俺から見てもお前強くなり過ぎてない?


「んっふっふ~。アンタ甘いわね! この幸せいっぱいの感情ってのは精霊にしたら最上級のご馳走で進化素材なんだから! 幸せいっぱいだと何でも出来る気にならない? そう言う感情ってのは無敵なんだからね!」


 う……うん……ゴメン、理解できないけど、さっきの告白タイムがまさかこんな副産物を生んでいるとは思わなかった。ヒジリも唖然としてこっちを見ているし。


「意味不明な事言ってんじゃねぇ! この俺をコケにしたんだ! 覚悟しやがれ!」


 リッパーの刀が発光し始めたのが見てとれたのだった。

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