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第104話 戦いの始まり

 ナギが判断を迷っているのが伝わります。前方の謎が多い集合精霊と、後ろに迫って来ている脅威にどう対処するべきなのか。


「ナギ、一つ聞きますが、後ろから来ているのは切り裂き魔(ザ・リッパー)ですか?」


 ナギは困った表情で頷いて来ました。


「わかりました。私とナギはアイツ相手では不利過ぎです。ユキ、申し訳ありませんがアナタが頼りです。タツミさんの所へ向かってもらえますか?」


「え? 私が頼り? どう言う事?」


 私の言葉にユキもナギも驚いた表情をしていますが、今は手短に説明をするしか有りません。


「ユキとアラスティアは光特性は使えますよね? 切り裂き魔(ザ・リッパー)は属性攻撃を持っていない物理攻撃の筈です。」

「ナルホド! それなら私の光特性の『物理無効』で何とかなる筈だな!」


「ですが相手は特異能力者(セカンドスキラー)です。それすら貫通する可能性も有るので気を付けてください。そしてタツミさんがこっちの集合精霊にトドメを刺す必要が有るので、こちらへ来るように指示してください。」


 矢継ぎ早に説明すると、ユキは状況が切迫しているのを理解しているのかすぐに解ったと返事をして来た道をナギの風に導かれて走って行きます。


「出来れば遭遇前にこちらに合流できれば良かったのですが……。」

「多分無理ね、もうすぐ接敵するわ。ところで光特性の『物理無効』ってどう言う事?」

「お前も空気が読めない。光特性は『物理無効』。精霊力を纏って無い物理攻撃は光の精霊には一切通用しない。」

「でも切り裂き魔(ザ・リッパー)の攻撃って精霊力で作った訳じゃ無いの? それでも無効化するの?」


 ハッキネンが代わりに説明してくれましたが、ナギはそれでも不思議そうでした。


「前の戦いで氷刃を斬られた時に気が付いたが、アレは無属性の純粋な斬撃。斬撃を具現化するのが切り裂き魔(ザ・リッパー)の能力だと思う。」

「つまり……?」


 ナギは勿体ぶらずに早く教えてくれと言った表情をしていますが……こちらの時間は大丈夫なのでしょうか?


「お前もバカか……。人間単独でも精霊術は使えるが、属性を付与するのは精霊だと騒音娘から言われなかったか? そしてアイツは精霊は居ないと言った。」

「な、バカとは失礼じゃない! って、精霊が居ないという事は無属性でユキには攻撃が通用しないって事?」


 ナギは一瞬怒った顔をしましたが、意味を理解して驚いた表情をしています。


「そうです、予想どうりなら切り裂き魔(ザ・リッパー)にとって光の精霊と精霊使いは天敵の筈です。上手く行けばですが……彼も自覚してるなら何か対策はしていそうですが。」

「って、こちらもそろそろお時間の様だわね。」


 ナギは奥の方へと視線を移しました。私もその先を見ると二つの白い人影の様なモヤを纏った精霊が見えて来たのでした。


「ナギは戦えないですよね? 安全な所に下がっていて下さい。」

「ゴメンね、ここじゃパティが表に出れないから本当に戦力外だわ。」


 ナギは申し訳なさそうにしながら物陰に隠れます。


「気にしないで下さい。おかげで奇襲させる事無く迎え撃てるのですから。」


 ハッキネンが表に出て氷刃の手刀を作り出すと、向かって来る二体の精霊に向かって駆け出します。氷刃を手前に居る背の高い方の集合精霊に向かって斬りつけると、背の高い方の精霊は氷の短刀を具現化してそれを受け止めます。


 そのまま短刀を手首で返して氷刃をいなすと、そのままハッキネンの背中に流れる様に回り込んで体勢を崩した首筋めがけて短刀を振り下ろして来ました。


 私は回避出来ないと察して、すぐに分離をして氷の槍で短刀を弾きました。


「ゴメン、咄嗟に分離しちゃった。」

「気にするな、助かった。」


 その短いやり取りをしているうちに今度は背の低い精霊が私の後ろに移動していたのでした。


「危ない!」


 そう言って今度はハッキネンが私の後ろに迫っていた短刀の一撃を氷刃で受け流し、そのまま小柄な精霊の方へと連撃を繰り出して距離を取ります。


「二人とも短刀使いですか。至近距離になると逆に不利ですね。」

「そうだな、氷の精霊だから精霊術も効きにくい。厄介な相手だ。」


 背中合わせにお互いが一方ずつを警戒します。向こうも二手に分かれたままこちらへの距離をジリジリと詰めて来ます。


「今度は油断しないでね!」

「そっちもな!」


 二人で同時に別々の相手へと向かって駆け出します。私は槍を投げると、すぐに新しい槍を具現化して相手に突きかかります。相手も投げられた槍に動じずに弾くとそのままこちらへ向かって来ました。


 槍の突きを身をよじって躱すと相手はそのまま槍の柄の部分に短刀を当てて、なぞる様に槍を外側に押し出しながら刃向けて来ました。咄嗟に槍をすぐに捨て、新しい槍で迫って来た短刀を防ぎます。


 しかし相手もそれで止まらず、受けた槍の柄から再び短刀を滑らせながらこちらの握っている手を狙って上方へと刃を走らせてきます。


 すぐに反応して手を離します。こちらも離した手に小ぶりな槍を具現化して相手を狙って突きを入れますが相手はそれを再び体をよじって躱すと、そのまま回転してこちらの側頭部を狙って重い一撃を繰り出して来ました。


 突いた勢いで体勢が悪く、身をよじりながら天井を見る様にエビ反りの体勢になって刃を躱し、両手の武器を手放してそのままバク転をして距離を取り直します。


 こちらが体勢を直す前に相手は既に間合いを詰めて横薙ぎに斬りかかって来てましたが、こちらもすぐに氷の槍を具現化して受け止めます。


 そして再び柄に刃が当たると滑る様に握っている手へと刃が流れて来ました。


「何度も同じ攻撃は通じません!」


 今度は私も槍の形状を変化させて持ち手の部分の突起を作って刃が滑れない様に受けを作りました。そして相手が意表を突かれた一瞬で一撃を叩き込みます。


「私の武器が槍だけだと思わない事ですよ!」


 私は足で自分のすぐ目の前に罠を設置すると、素早くつま先でそれを踏んで罠を発動させます。大きな氷柱が打ち出されて相手の腹部に直撃するとそのまま後方へと氷柱ごと壁に突き刺ささりました。


 流石に集合精霊がこれ位の攻撃で倒せるとは思いませんが、位置が反転した事でハッキネンの戦況が目の前に広がります。


「くッ! さっきから手首ばかり狙って!」


 ハッキネンの苦しそうな声が聞こえてきます。流れる様な短刀の連続攻撃と、相手の獲物に沿って持ち手の部分を執拗に狙う流れる様な短刀さばきに苦戦している様です。


「ハッキネン! 何とかなりそう?」

「自分の方に集中、むしろこの動きで連携を取られた方が危険。」


 ハッキネンは両手に氷刃を作って何とか連撃を凌いでいます。片手の時よりは安定していますが、下手に攻撃をすると流れる様にカウンターが入って来るので防戦一方になっています。


 私も背の高い方の集合精霊に視線を戻すと、氷柱の横から這い出て来たと思ったら、弓みたいな物を構えてます。


「ハッキネン! 後ろに3歩下がって!」


 危ないと思った瞬間、ナギの声が響くと同時にハッキネンがすぐに後方へと下がると、先程まで居た位置に矢が飛んできました。


 そして射線上の地面を覆っている氷ごと砕いて氷のつぶてが激しく飛び散ったのでした。


「な、何だ? この威力は?」


 両腕で顔と急所だけはガードした様ですが……しかし大ケガでは無いにしろ、かなりの氷塊を被弾した様で傷が見えます。


「距離を取ると弓ですか!」


 私は再び弓を構えようとする精霊に向かって槍を連続で投げて撃たせないようにします。


「ハッキネン! 右に2歩。一呼吸したら前にかがみながら1歩進んで! その後振り向き様に横薙ぎ!」


 ナギの声が響くと同時にハッキネンが2歩右に移動すると精霊の短刀が振り下ろされて空を斬りました。更にかがみながら前に1歩出ると先程まで頭が有った位置に体勢を崩していた筈の精霊の回し蹴りが流れる様に飛んで来たのですが、それは指示どうり動いたハッキネンの頭上を通り過ぎたのでした。


 そして振り向ながらハッキネンは氷刃を横薙ぎに払うと初めてキレイに相手の横腹を斬り裂いたのでした。


「クソ! 浅い!」


 ハッキネンは悔しがってますが、あの完璧なタイミングで避ける技術が異常だと思います。


「リィムは後3本投げたら前方に転がる様に飛んで! その後すぐに槍を作って頭を守って!」


 今度はこちらですか? 槍を3本投げた所で前方に転がる様に飛ぶと、先程まで頭が有った所に強弓が飛んで来て後ろの地面を破壊しました。


 そしてすぐに槍を具現化して頭上からの頭への攻撃に備えると同時に、短刀が勢い良く振り降ろされたのでした。


「受けたら、右に力を流してそのまま回転する様に槍の柄で相手のアゴを狙って!」


 言われて同時にすぐに槍を傾けて相手の刀の力を右側に受け流します。そしてその円の動きを利用して槍の柄を相手のアゴに叩きつけて後方へとよろめかせました。


 お互いに再び一挙手一投足の間合いで睨み合う状況になりました。と言うかナギのニオイ感知の先読み凄すぎませんか!?


「よく、あんな咄嗟の指示で言った通りに動けるわね……化け物の様な反射神経ね。」

「褒めてるのか貶しているのかどっちですか!? むしろナギの先読みの方が化け物レベルですよ!?」


 そう言うとナギはふくれた顔をしている様でしたが、相手の力量が高すぎて目を逸らす余裕は有りませんでした。ナギの能力を危険視して狙われない様に圧をかけ続ける必要が有るからです。


 お互いに間合いを少しづつ詰めて牽制し合っていると、上層から大きな爆発音が響くのが聞こえてきました。


「これは……ティルのエクスプロージョン? いえ、もしくはヤツの融合剣技ですか?」


 私は大丈夫と信じながらも一抹の不安がぬぐえないままなのでした。


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