第100話 強制イベント発生
さて、どこから話したものなのだろうか?
俺とヒジリ、リィム、ナギ、ティルとハッキネン、パティスのメンバーで氷の龍穴内を捜索していた。
ちなみにティルは何故か俺の方に同化している。先日からヒジリに戻るのを嫌がっているようにも見えて困っている。
メンバーの割り振りは簡単な理由で、ルリは龍穴付近でのセーフハウスである家の維持の為留守番。
相性が悪いクリューエルと、精霊石の相性の問題でレンは留守番になった。この二人を放置も出来ないので家が必要になったわけだ。
タブレスは最終防衛ラインとして残る事になった。拠点が特異能力者に襲撃された時の為だ。
で、何故に属性相性が悪い筈のナギが居るかと言うと、危険な敵との遭遇前に逃げる為と言う事で、索敵役として付いて来たのだが……。
「ゲ……なんでこの子がここに居るのよ。」
「あ、あなたは確か1年の時同じクラスだった……六波羅さん?」
ナギが嫌なそうな顔をしている。顔見知りなのだろうか? アラスティアにユキと呼ばれていた少女が顔を上げて俺達を改めて見直すと驚いた顔をしていた。
「ん?……それに確かあなたは火神さんだよね? あなた達も精霊界に?」
「え、えっと……み、三上さん……だよね?」
ヒジリが困惑した顔で確認を取っている。ヤッパリ知り合いなのか? 俺の事も知っている様だったが……どちら様ですか?
「ヤッパリ火神さんと六波羅さん!? 何であなた達まで一緒なの!?」
「おいおい、それはどういう意味か聞いて良いのかしら?」
ナギは不機嫌そうな表情のまま少女を睨みつけている。何か以前にトラブルでも有ったのか?
「えっと……三上さんだっけ? 話しはアラスティアから大体聞いたけど、移動できる? 大丈夫か?」
ナギの機嫌がドンドンと悪くなるので、俺は話を進める事にした。ナギはヒジリと違って感情を隠そうとしない所が大変だ……。
「え? ああ、ありがとう。大丈夫。」
三上さんは立ち上がると、改めて挨拶をして来た。
「取りあえず、改めて自己紹介するわ。『三上 悠輝』よ、ちなみに工藤君や、火神さん、六波羅さんと同じ高校に通っているからね? と言うか、工藤君と火神さんは中学も一緒だったのに覚えて無いって酷くない!?」
三上さんは俺の方に詰め寄って来るが、その間にいつの間にかリィムが立ちふさがって近づくのを止めてくれた。
「では、私の自己紹介だけで良いですかね? 私はリィムです。苗字は有りませんのでそのまま呼んで下さい。ちなみに年齢は16歳ですので、よろしくお願いしますね?」
うん、自己紹介の際に必ず年齢を言うようになって来たな……まぁ一連のやり取りが必ず発生するからだろうが……。
「ポンコツ……。」
「黙っておきなさいよハッキネン、流石に毎回はもう疲れたわ。」
ハッキネンとティルが何か言っているが、この場の全員がスルーしていつもの流れを起こさせない様にと努力した。ここでどう出るかで三上さんのキャラが少しは掴めるだろうか?
「あ、ゴメン。居たのね……視界に入らなかったから……。」
おおぉぉーい! 新手のパターンだぞ!? これは素なのか? それとも嫌味で言ったのかどっちだ!?
「ユキ!? ちょっと待て! 流石にそれはリィムさんに失礼では無いか? 謝るんだ!」
即座にアラスティアが慌てて謝罪を促して来るが……後ろ姿しか見えないけどリィムの背中には怒りのオーラが浮かんでいるのが解ります。ヒジリとナギは目を合わせない様にしてるし……。
「ああ……良いんですよ。そんなだから雪原から龍穴に落ちるなんて奇妙な行動が取れるんでしょうから。足元を見てないとそのうち大ケガしますよ?」
怒りに満ちた声で丁寧に喋っている……ヤッパリ身長も気にしていたのだろう。敢えて誰も触れて来なかったのに……。
「そうね、ごめんなさい。足元はよく見るようにするから。同じ失敗を何回繰り返してもダメね! ありがとうリィムちゃん!」
三上さんはアドバイスに感謝みたいな表情でリィムの手を取ってガッチリと握手を交わした。
「え……えぇ……、そうですね。宜しくお願いします。」
三上さんの天然的な行動に毒気を抜かれたリィムが間の抜けた返事をしている。最近このパターンも増えて来たな……前はレンの時だったな。
「え、えっと、宜しくね三上さん。名前は今更だから大丈夫かな?」
ヒジリも手を差し出して三上さんと握手した。ナギは心底嫌そうな顔をしたまま仕方なく握手をしたが……ナギよ、一体お前は三上さんと過去に何が有ったんだ?
「改めて宜しくね工藤君。流石に今回は名前を忘れないでしょ?」
俺も三上さんと握手するが……忘れたらゴメンナサイとは言えない。そして全員との握手が終わると、三上さんの髪と目が金髪金眼へと変化した。
「改めて、私がユキの精霊『アラスティア=サルファ』だ。属性は光で、能力は光から武器を作り出せる『輝く武器庫』だ。宜しく頼む。ちなみにユキの精霊術は幻惑・幻聴等を引き起こす光の空間を作る『悠久幻輝結界』だ。要するに合わせ技で真価を発揮する。」
再び全員と握手をすると、今度は俺達も精霊の紹介を始める。最初はパティスからだったが相性が悪いので表に出ないまま行う。
「私はパティスって言うの宜しく! 属性は風よ! 気やすくパティって呼んでね! 良いなぁ、金髪金眼ってカッコいいなぁ! 私の髪色は薄緑色だからちょっとねぇ……。あ、外見はアラスティアと一緒で契約主にそっくりだからね! それと……」
「パティ、やかましいわよ。少し黙りなさい。」
相変わらずの喧騒さだったが、区切りが良い所でナギが黙らせたようだ。そしてリィムの髪が白金色に瞳は水色に変化してハッキネンと切り替わる。
「名前はハッキネン。属性は氷。しゃべるのは得意じゃ無い。」
「キレイな髪だな。ちょっと羨ましい位だな。」
ボソボソとしゃべったかと思うと、アラスティアがハッキネンの白金色の髪を感心しながら撫でていた。
「何をしている?」
ハッキネンが困った様な照れた様な顔をして固まっている。そう言えば久しぶりに見たが、コイツ頭撫でられるの好きなんだろうな……。
「ポ、ポンコツ! お前、後で覚えてろよ!」
急にこっちも向いて文句を言って来たが、言う相手が違うだろ? と言うか都合のいい時だけ「心理投影」を使うのはやめてくれないか?
「私はティルレート=アルセイン、火の精霊よ。宜しくね! ちなみに契約主はタツミとヒジリ両方ともだからね!」
表に出たティルがアラスティアに二人と契約している事をかなり強調して伝えている。
「二人と契約だと? そんな事が出来るのか?」
「ちょっと!? 何で火神さんの姿の精霊と工藤君が契約してるの?」
流石にアラスティアも驚いている様だったが、すぐに三上さんが表に戻ったかと思うと、ヒジリの両肩を掴んで前後に揺らしながら驚いた様子で確認を取り始めた。
「ちょ、ちょっと三上さん、お、落ち着いて下さい……。そそ、そ、そんなに揺らさないで下さい。」
ヒジリが頭を前後に振られながらも三上さんを落ち着かせようとしている。しかし一向に落ち着く気配は見られなかった。
「そりゃねぇ……この二人の仲ならそれ位はねぇ。」
ナギがボソっと三上さんに耳打ちをすると、三上さんの動きがピタッと止まって、錆びた機械人形の様にゆっくりとナギの方へと視線を移していく。
「ちょっと、どう言う事? そう言う仲って何?」
「そんな事は、私の口からじゃ言えないわよ~。」
ナギが悪戯っぽい声で口元に手をやって笑いをこらえてやがる。流石に今は何も無いよ!? 今後は解らないけど今は無実だ!
「ヒジリ!? いつの間にタツミさんと!?」
リィムも横から喰いついて来ているが、お前は冗談を言っていると解れと言いたいのだが?
「ま、まだ何も無いですから! ナギちゃんも変な事言わないでよ!?」
「「まだ???」」
リィムと三上さんの声が揃ったかと思うと視線がヒジリの方へとゆっくりと移動していった。何ですかこの空気は?
「と言うかいい機会じゃない。タツミ君は誰がお好みなのかしら? いい加減鈍感じゃ無ければ解っている筈だと思うわよ?」
ナギの視線がこちらに飛んで来たと同時に、ティルが空気を察して裏に戻りやがった! 少しは守ってくれよ!?
「そうよね~、少なくともリィムとヒジリはそれなりに好意を見せていると思うんだけど? まさか気付いて無い程の鈍感じゃ無い事位は私には解っているんだけど?」
まさかのティルからも攻撃が飛んで来た!? あ、コイツ、ヒジリ側の味方だったことをすっかり忘れていた!?
「ああ、このままじゃ意地悪だから三上さんにも時間をあげましょうか? 散々に気付かれないままフラれたままじゃ可哀想よね。」
ナギが更に不穏な事を言い出して来た。何それ? 俺がいつ振ったの?
「まぁ、良いんじゃないか? いい加減煮え切らない態度をいつまでも続けるよりは良いと思う。」
ハッキネンも撃って来た! えーっと……これは覚悟を決めるしか無いんでしょうか?
「何かいきなり妙な空気だけど、分かったわ! 私もこの場で言うわ! 私のこと覚えて居ないんでしょ!? 何回も工藤君に告白したのに全部勝手に勘違いされたんだけど!」
三上さんは気合の入った声を上げながら俺の方を見てきた。何ですか!? この強制イベントは!?
「え……あ、そ、そんな事有ったのか?」
「あったわよ! その度に勘違いして振ってた自覚無いの!?」
余りの三上さんの剣幕にたじろいでしまうが……本当に覚えてません……
「だからこの場で間違いが無い様に言うわ! 私はずっと工藤君に惚れてたの、私と付き合ってください。それとも好きな子が居るならこの場で言ってハッキリと振って頂戴。」
これは……逃げ道は無いよな? だったら俺の本当の気持ちをこの場でハッキリと言わないといけない。
「ゴメン、三上さんとは付き合えない。俺はどうしても会って気持ちを伝えたい人が居るんだ。まだ一度も会った事が無い人なんだけど、その人に伝えないと誰とも前に進めるとは思えないんだ。」
「ちなみにそれは誰か聞いてもいいのかしら?」
三上さんがグッと堪えた表情で聞き返して来た。他のメンツも食い入るようにこちらを見て来ている。
「中学2年の時から毎年、メッセージカード付のバレンタインチョコを送ってくれている人だ。俺が前を向いて進めるキッカケをくれた人に……この気持ちをちゃんと伝えたいんだ。」
俺の発言を聞いた時点でリィムは自分で無いと察したのか複雑な表情を浮かべていた。そして……多分会いたい人はこの場に居る事も何となく理解出来た。
「それではクイズ! 中学2年のバレンタインの手紙の内容は!? せーので答えてください! 答えなかったらナギから罰ゲームが待っています! 良いですか? タイミングを合わせてちゃんと答えてくださいね? では行くよ~。」
沈黙を破る様にパティスのやかましい声が龍穴内に響いた。




