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第10話 移動開始

「さて、どちらの精霊界に行く?」

「どちらって何と何が有るか説明してくれよ。」


 選択肢も解らない質問を寄越されても困る。苦情を訴える視線でリィムに質問を投げ返すと、こちらを見ながらため息をついてヤレヤレと言った顔をしていた。


「今の位置だと、土か風の精霊界のどちらかになる。早く選べ。」

「選択肢を最初から列挙しておけよ。ちなみにお勧めの方は?」

「知るか、自分で考えろ。」


 取り付くしまも無い会話で困る。タブレスと別れてからリィムの機嫌が悪い。ティルとの会話とは違いテンポの悪さを感じる。気さくに話してくれるティルって良い精霊だと改めて思う。


「ティルは何か解るか? リィムの機嫌が悪くて会話にならん。」


「ん~、タツミって剣道部とか言ってたわよね?」


 ティルは考え込む様子をした後、何かを思い付いた様な顔をした。


「急にどうした? 確かに小学生の頃からスポ少で始めてからずっと剣道部だが。」


「では土の精霊界にしよう! 運が良ければ武器が手に入るかもしれないし。土属性の精霊術は説明すると長いんだけど要するに『鍛冶』スキルが有るのよ。剣とか刀みたいな武器が有った方が素手で戦うよりは楽じゃない?」


 鍛冶スキルか、確かに武器が有るなら助かるかもしれない。この前のリィムの攻撃も素手で捌いていたら凍傷になりかけた。


「それは有ると助かるな。ちなみにリィムに鍛冶スキル持ちの土の精霊の知り合いは居たりするのか?」


「居ると言えば居る。しかし、そいつは精霊じゃなくて人間。かなりの変わり者、まだ生きているか?」


 リィムから人間の知り合いと言う言葉が出て来るとは思わなかった。そして変わり者と言うセリフの時点で人の事言えないよな? このブラコンが、と思うがツッコむのは止めておこう。


「おい、また失礼な事考えてなかったか?」


 リィムがまたこちらを睨んでくる。何でこの子は勘が良いのでしょうか?


「水や氷の精霊は人の心を映し出す特性スキル『心理投影』が有るから相手の心を敏感に感じるんだよ。だからすぐに察してしまうのよ。」


 元々の精霊としての能力の一端と言う事か。心の中でツッコミを入れても反応されるんなら次から口に出した方が良いかな?


「口に出したら次から喋れない様に口を氷で塞ぐ。」


 本気でやりそうな目でリィムが睨んでくる。うん、思ったとはしても口に出すのだけは絶対にやめておこう。


「で、話は脱線しちゃったけど、その人の名前は何て言うの?」


「名前は『土門どもん 瑠璃るり』、契約精霊は『ルーリア=ミアレス』と言う。」


「瑠璃にルーリアか、精霊の名前が自分の名前を若干もじってるとしか思えないな。まぁ呼びやすいのが大事だから良いか。」


「速攻で名前が長いと文句言った人に言われたくないセリフなんですが?」


「じゃあ、今から名前変えるか? 今なら時間あるから良い名前をじっくりと考えてやるぞ? もしくわアルセインの方で呼ぶか?」


「冗談でも怒るわよ?」


 ティルまで不機嫌になる。つい調子に乗ってしまった事を反省する。


「痴話喧嘩は終わったか? さっさと行く。まずは火の精霊の集落に向かう。」


「「痴話喧嘩じゃない(わよ)!」」


 二人の声が同時に響くと、リィムは呆れた顔で一人で歩き出す。


「早く集落に行って境界線を越える為の精霊石を取りに行く。」


「境界線を越える? 地続きで繋がってるんじゃないのか?」


「精霊界も何かしらの区切るモノが無いと全部混ざり合ってしまう。自然エネルギーは混ざり過ぎてもダメ。だからそれを防ぐ為に境界線と言う防壁が有る。」


「混ざり過ぎると水と火の様にどっちか無くなるような感じと思えばいいのか?」


「それ以外に何が有る? 世の中の氷が全て解けてしまったら人間界は海の底。バランスが必要な所もあれば、偏りが必要な所も有る。だから境界線で偏りを守っている。」


「なるほど、それで精霊石と言うのを使って境界線を壊さない様に通るって事か?」


「そこは正解、意外とバカじゃない。と言うか、ティルも精霊界の基本的な事位は具現化した時から知ってる筈。」


 そう言われてティルの様子を気にしてみると拗ねているティルが居た。


「ねぇ、私に聞いてからリィムに聞いてくれる? 前にも言ったけど会話も貴重な感情源なんだからね? 拗ねるわよ?」


「ん? 妬いてるのか? 最近は他の精霊と話してばっかりだったからな。」


 たまにはからかい返してやらないとな!と思って茶化してみる。


「タツミ、火属性って情熱や嫉妬の感情を司ってるって知ってるかしら? それに前にも言ったけど放置はやめてよね?」


 ティルの笑顔の圧が飛んで来る。普段よりも明らかに怖い。こいつにとって放置がダメな行動だと痛感する。最近ほかの精霊との会話が多かったからな。


「なるほど、気を付けます。」

「解ればよろしい。」


 すぐにティルは機嫌を直してくれた。怒りを引きずらない性格なのかこういう面に関してはとても接しやすいと思う。


「しかし、やかましい。静かにしてたら死ぬのか?」


「ん? いつもこんな感じだが? むしろティルが絡んでくると言った方が正しいんだが。むしろ、かまってちゃんだと思ってる。」


「タツミ、契約した精霊の世話は責任をもってやりましょうか? 会話だけなんだから文句を言われる筋合いは無いわよ?」


「自分を捨て犬か捨て猫みたいに言うなよ。」

「捨てられてないし! もっと大事に扱いなさいと言ってるの!」


 終わらないやり取りを聞いてリィムはため息をついていた、そして思い出したかのようにこちらを振り返り、ビシッとこちらに指をさしてきた。


「そんなに元気なら分離して行動。分離状態の方がタツミに負荷が掛かるから常に修行になる。」


「そうなのか?」


「あー、確かに分離状態の方が負荷が掛かるからそうなるのね。ではさっそく。」


 そう言うとティルが分離する。直後から体が重く感じて気だるさが付きまとう。そんな俺を見てティルは心配そうに見てくるが……本当にこうやって見てる分には美少女なんだけどなぁ……。


「タツミ、心配してあげてる相手に向かってその感情を出すのは止めてもらえる? 自分で言うのもなんだけど性格は人間からしたら良い方だと思うんだけど?」


 思っただけですぐに反応してくる。相変わらずツッコミが早い。


「そういう事にしておく、陽気でやかましいのがお前の良いところだと思う。たまに疲れるけど……。」


「最後の一文が明らかに余計なんですが?」


 拗ねた顔でこちらにグイと顔を近寄らせてくる。女性慣れしてない俺にはこの距離は心臓に悪い。距離を取る為にティルのおでこにデコピンを食らわせながら言う。


「だから、前も言ったが距離が近い!詰め寄り過ぎだ。」

「ぎゃ、ちょっと! 女の子に何するの!? デコピンなんて信じられない!」


 ティルが額を抑えながら涙目で訴えて来るが、前に一度警告済みだ。


「人との距離感を覚えろ、近すぎんだよ。色んな意味で心臓に悪い。」

「ふ~ん。一応距離が近すぎると心臓に悪いんだ~。」


 ティルがニヤニヤしながらこちらを見て来る。何か腹立つからもう一発デコピンを食らわせようか?


「……先に行きますよ?」


 リィムが呆れた顔で歩き出す。俺とティルも慌てて後を付いて行く事にする。そして先程の苦情を受けて今度はティルに先に質問する。


「そう言えば精霊石って集落に有るモノなのか?」


「精霊石は人間界で言う鉱石みたいなモノだから、発掘する感じになるかな? でもどこにでもある訳じゃなくて、付近の強い精霊力を少しづつ蓄えた特殊な石が変化して出来上がるモノなの。」


「それで集落なら強い精霊力を持った精霊が居るから出来やすいと言う事か。」


「そういう事だと思う。ただ、私もどうやって見つけるかは知らないけど。」


 そこでリィムに視線を向けるが、黙って歩き続けている。視線を察してかしばらくしてから口を開いた。


「現場で説明した方が早い。黙ってついて来い。真面目にうるさい。」


 沈黙嫌いのティルが凄い嫌そうな表情をしたが、これ以上機嫌を損ねてもダメだと思い黙って付いて行く事にする。




 岩と少しの緑しかない荒野が広がり、緩やかな起伏の多い世界を歩いて行く。


 2,3日しか経ってないのだろうが、ティルがこんなに口数が少なく黙っているのは初めて見る。騒がしくなるとリィムが直ぐに不機嫌になる為であった。むしろ喋る量が少な過ぎて顔色が悪くなってる。喋らないのが余程ストレスなのだろう。


「見えてきた。アレが火の精霊の集落。」


 リィムが前方に見えてきた小高い山を指さす。確かに山の上の方に家らしき物が何軒が立っているのが見えてきた。


「精霊なのに家を作って住んでいるのか。」


「中には人間も少数だが一緒に住んでる事もある。精霊も人間と同化した際に少しづつ人間味を帯びて来る。精霊も快適性を求めるのは当然の事。」


「もう普通に喋って良い? 流石に沈黙は火の精霊的には拷問だわ……。」


 目的地が見えた事で、制限が終わる事を希望するティルが口を開いた。よくここまで静かにしていたと思う、新記録だろう。


「そんな拷問聞いたことが無い。ティルは火の精霊でもかなりやかましい方だ。」


 リィムはジト目でティルにそう言うと、スタスタと町の入り口の方に向かっていく。やっぱりそうだよな、と思いつつ俺も無言でそれについて行く。


「ちょ! 待ちなさいよ。やかましいって酷くない!? って無視はしないでよー! 無視だけはやめてー!」


 ティルの声が響くが誰も相手にしなかった。

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