終わった後の、その世界(3)
「保波っ!!」
「……お母様?」
「術が成功したのね!」
……さて、どうするか。
蘇生したのは良いが別人格でした、とかだったら確実に疎まれるだろうし、そもそも今の自分の状況すらおぼつかない。前の住人らしい人物の記憶を引っ張り出してそれなりに糊塗してしのげるかもしれんが、それやったらバレた際の激怒が想定できるし……。
「保波っ、今が何年何月何日かわかるっ!?」
「……わかりません」
うん、ここは正直に答えよう。嘘ついて下手に状況が悪化するよりも正直に、かつ聞かれないことを言わなければ、それなりになんとかなろうて。
「うーん、そうよね。保波が寝ていたのは術が開始する前からだから、だいたい今は、元号暦で賀栄二年の長月下旬、長ケ暦に直して漆參陸年八月晦日ね」
「……うん?」
……あれ、やばくね?
「か、かえいにねん、ですか」
嘉永2年ってことは、黒船襲来まであと何年だ!? ……六年だったか五年だったか、あるいは七年だったか、多分その辺だろ。とはいえ、都なんだから、明治維新でむちゃくちゃな立場にはならんと信じたいが、ええい今のうちに大東亜戦争に備えねば。……って、今女だからそれも難しいか、どうしよう……。
「ええ。それがどうかしたの?」
「……江戸湾の浦賀沖ってどうなってますか!?」
「……えど?」
「はい!」
「……江戸って、どこのことなの?」
「えっ」
「えっ」
……うん?
「……お母様、ここって都、ですよね?」
江戸知らないってことは、さすがに無いと思うが、っていうか、もう東京、ってわけでもないし、ちょっとまて、したらどうなるんだ、一体……。
「ええ、そうよ。……保波、疲れてるならまだ寝ていた方がいいわ。子守歌歌ったげるから、もっかい寝なさい」
「は、はーい……」
……と、とりあえず確かにもう日も暮れているし、明日考えるか。