寵姫(予定)の心情
やだなぁ……。美少女になったのも自分を見てわっふるしたりレズポルノでキマシタワーしたりするためであって、ヤローの肉棒を受け入れる心理的な準備なんてできてないっつのに。それに、人間である以上美貌っていつか崩れるだろ?やなんだよ、そういうの。しかし若くして死ぬのなんて前世でこりごりだし……。なんて言って断りゃいいかなあ……。下手に断るとえらいことになるし、相手ってのは天皇の息子みたいなもんだろ? ……やだなあ、いろんな意味で。皇族に嫁ぐって意味では誉れあるわけだが、常にマスゴミのゴシップのタネになったり皇族メモリーだなんだかんだつってテレビに映されるわけだろ? あー、やだやだ。世の皇族の苦労がこんな形でわかるとか、冗談じゃねえや。とはいえ、ぶち壊しにしたら実家にも入れねーだろうし……。
……以上が、彼女の心情であった。彼女の今尚残る意識の前世は、彼であった。彼は一応、本来ならば上流階級であり、事実曾祖父や祖母の代までは上流階級であったものの、戦争が全てを狂わせた。彼の父の頃には田舎に疎開した上に下町の出と言っても良いレベルでしかなく、母は正真正銘の平民であり、彼自身は障碍もちという状態でありいわば落第寸前の中流層といっても差し支えない状態であった。
そして、当然ながら彼は彼女に生まれた際に上流階級の真実を嫌というほどに知ることになり、何度も逐電を考えるほどであった。彼女が逐電を選ばなかったのは、皮肉にもその立場と美貌であった。初めて彼女が鏡を見た際に鼻血を出しそうになったのは、彼の意識がありありと残っており眼前の美少女、いや、当時は美幼女か、の美貌に見惚れてしまったからであり、更に彼は彼女の美貌というものを野に出したら即座に犯されるのは確定であろうことを前世の同人誌でよく理解していた。
更に言えば、彼女は上流階級の、更にその上澄みの嫡子であり、さらに彼女の実家には非常に可愛がられて育てられた。故に、その実家に泥を塗る行為もなんとなく行えなかった。彼は怨念には万倍の報復をぶつけて発散せねば気が済まない性質であったが、同時にそれは受けた情けに対しては必ず何らかの形で恩を返さねば、相手がなんとも思わなかったとしてもなんとなく後ろめたく感じるだけの、まあつまりは人情というものに非常に重みを感じる性質でもあった。まあ尤も、その情けと恨みに関しては彼の独自の論理が働いている以上、客観的なそれではなかったのだが。
その、彼女の情けと恨みのプラマイ勘定で計算した場合、実家の歓喜を考えたら縁談を破綻させるのもまた拙いということは納得できていた。しかし、結婚である以上相手は男性である、更に言えば皇族でもある。彼はまだ、彼女に生まれて嫁がされた上に自身が処女の喪失と出産の苦痛と子育ての苦労を背負い込む覚悟が出来てはいなかった……。