輿入れの日(1)
花も恥じらう程可憐な容姿をした少女が、憂鬱そうな顔をしていた。その少女の着ている服は、如何にも高級そうであり、事実その服一枚だけで庶民の家が何軒も建つほどの値が付く代物であり、その少女が両親から如何に大切に育てられているかが判るものであった。
では、そんな少女が憂鬱そうな顔をしているのに何故親は放置しているのか。否、本来ならばその少女は晴れやかな顔で旅立つ、はずであった。と、いうのも……。
「姫?」
随行人の一人が、その憂鬱そうな少女を見て不思議そうな顔で、姫、と呼びかけた。どうやら、その少女はどこかのやんごとなき身分らしかった。大方、緊張しているのだろう。そう思い、問いかけたが、返事がない。さては乗り慣れていない乗り物に乗ったから動いても居ないというのに酔いでもしたか。そう思いすだれを開けると、その少女は確かに顔色が悪そうだった。
「姫、そろそろ車が出ます。緊張しているのはわかりますが、そのために我々も相手の屋敷に向かうのです、ご安心くださいな」
どうやら、その乗り物はどこか別の者の屋敷に向かうらしい。だが、それならば親がついていかないのか。これだけの使用人を随行させることのできる親ならば、別に親本人が乗っていてもいいのではないか。しかし、そうも行かない事情が存在した。と、いうのも……。
「姫は、いかがなさったのであらしゃいましょうか」
随行している使用人の一人が別の使用人に問う。……その使用人も全員女生であり、姫と呼ばれた憂鬱そうな少女ほどではないものの、如何にもきれいどころを集めた、如何にも上流階級出身です、と自己紹介しているほどの見目麗しい外見であった。と、いうか、その佳人だらけの随行人すらも添え物に見えるほどの容姿端麗なる姫は、憂鬱そうなその顔すらも絵になるほどの容姿といえた。では、なぜその「姫」が憂鬱にしているのか。それは……。
「正直、私共にも判りません、輿入れというものは女生の華だというのに……」
……この姫は、今から他家へ嫁ごうとしているのだ。親元から離れるのが苦痛なのだろうか? 無理からぬことだ、何せ親元で今まで大切に育てられ、目に入れても痛くないほどの扱いを受けていたわけで、それがどんな形であれ婚姻の儀を行う以上は大切にしてくれた親元から離れる必要がある。不安があるのは無理も無いことであった。だが、それにしても妙であった。と、いうのも……。
「まあ、向こうに着けば考え方も変わりましょう。何せ相手は親王殿下であらしゃいますし、立太子こそされてはおりませぬが、皇位につくにおいて有力な候補であらしゃいます。……大方、粗相でもしないかと考えているのであらしゃいましょう」
……なんと、「姫」の嫁ぎ先は皇室であった。すなわち、この世で一番尊い家に嫁ぐわけで、緊張しているのであろう、そう周囲は考えていた。だが、「姫」の内心は実は、まあそれはなぜ憂鬱そうな顔をしていたかということもだが、こんな感じであった。
(……男とセックスとか勘弁してくれっ……!)
……「姫」の前世は、男性であった……。