仲直り
村へ遊びに来たフローレンスは、相変わらずディークだけは無視していた。
大人達にお昼までの子供達の時間を貰い、フローレンスは一緒に遊んでいる。
ディークはさりげなく話しかけるが、フローレンスは目も合わせない。
苛々しても、声を荒げても、何をしても無駄だった。
ディークは助けを求めるようにフローレンスの騎士を見るが、騎士は何も言わない。
取り成す気はさらさら無いようだ。
「何で!俺と話をしないんだ!」
そう激高したディークに、やっとフローレンスは目を向ける。
「だって、醜女のわたくしが話しかけたら可愛そうではないの。貴方はご自分の好きな女の子とお喋りするべきだわ」
「違う!あんまり綺麗だったから何て言っていいか分からなかったんだ!」
怒鳴ってから、自分の放った言葉に、ディークは顔を真っ赤に染める。
フローレンスは首を傾げた。
「お馬鹿さんね。だったら最初からそう、言えばいいのに。気を引きたくても、相手を悪く言ったら嫌われるだけなのよ?でも、綺麗と言われて嫌だと思う人はそんなにいないわ」
「……ごめん、謝る」
「いいでしょう。謝罪を受け取ります。これからはちゃんと褒めて頂戴」
「わ、分かった」
完全に立場が逆転した二人を見て、護衛騎士のミカエルは微笑ましそうに目を和ませた。
それからは、まるで最初から何も問題は無かったかのように、子供達は一丸となって遊び始める。
幸せそうな笑い声が、今は亡き妹の姿を呼び覚ました。
思い出の中の妹は、小さなままだ。
一生懸命後をついてきた、幼い頃の。
「お兄様」
不意に呼ばれて、ミカエルは一瞬間を置いて答える。
「……あ、フローレンス様」
「様はいらないわ、お兄様。少しかがんでくれる?」
言われた通りにフローレンスに顔を寄せるように頭を下げれば、花冠が載せられた。
「ふふ、お似合いよ、お兄様」
「素敵」
「素敵です」
子供達がはしゃぐように笑って、ミカエルは微笑み返した。
「ありがとう」
王都から来た美麗な騎士は、花冠も似合うのだ。
子供達よりも、大きく育った村娘達が頬を染めて遠くからくすくすと笑っている。
とても平和だ、とミカエルはその光景を見つめた。
思わず、過去に意識を飛ばしてしまう程、穏やかで懐かしい風景。
けれど、今は護衛中だ。
気を抜けばまた、自分の手から守るべき者の命が零れ落ちかねないのだと、改めてミカエルは仕事に集中する。
幸い村は大きくなく、余所者が村に来ればすぐ分かると村人たちは言っていた。
それであれば、多少は警備に余裕が生まれる。
王都のような大きな街では最初から警戒するのは不可能に近い。
今度こそ、幼い命を守り切ろう。
目の前の子供達のはしゃぐ姿を見ながら、ミカエルは改めて胸に誓った。
日も高く上ると、村の教会の鐘が鳴り、フローレンスは立ち上がる。
「時間だわ。皆さんまた明日ね」
「またな!」
フローレンスの挨拶に一番に返事をしたのは頬を染めたディークだ。
その後に少女達も少年達も次々に別れの挨拶をする。
ミカエルの側に歩いてきたフローレンスを抱き上げて馬に乗せると、ミカエルもその後ろにひらりと跨った。
馬上から小さく手を振るフローレンスに、子供達は大きく手を振り返している。
「さあ、帰りましょう」
言葉をかけてから、ミカエルは馬首を回し、屋敷へ向かって少しずつ速度を上げていく。
「お兄様、ディークがね、騎士になってくれるというの。剣を教えてあげてくれる?」
「ええ、良いですよ。ですが、村にいる間は貴女の警護が仕事ですので、注意を払いつつ稽古をつけるのは難しい」
ふうん、と言いながらフローレンスが小さな唇を尖らせて考え込む。
「でしたら、馬を貸してあげて、屋敷に来てもらうのなら良いかしら?」
「ええ、お嬢様が家の中に居て下さるのでしたら、公爵家の騎士がお護り出来るので私の時間を使えます」
「分かったわ。お祖父様と、お姉様に相談してみます。ありがとう、ミカエルお兄様」
もしも、この先学園に通うようになれば、行き帰りはミカエルが護衛に就く事は可能だ。
ディークという少年が今後も騎士として修練するならば、校内での護衛にも適している。
ディアドラがどの程度の執着を持って毒牙を剥いてくるかは分からないが、護りは固い方が良い。
フローレンスの案に口添えをしよう、とミカエルも遠くに見えて来た屋敷を見つめた。




