成長する人もいれば変われない人もいる
「お姉様、お願いがございますの」
「あら、村で何かあったのかしら?」
晩餐の席でフローレンスの笑顔を見て、シヴィアは艶やかな黒髪を揺らして首を傾けて聞き返す。
フローレンスは、大きく頷いた。
「ええ。村の娘達をわたくし付きの小間使いに育てたく存じます」
「まあ、それは村にとっては喜ばしい事ね」
シヴィアが祖父を見れば、祖父も重く頷いた。
そしてフローレンスに聞き返す。
「どうして小間使いにしたいのだ?」
「はい。仕事だけではなく、親しい友人として招きたいのが一つございます。もう一つは、村の子供達の将来の選択を広げる為に。少女は小間使いに少年達は才能があれば騎士に、無くても力仕事が出来れば従僕に。そうなれれば、村で仕事をする人員を確保しつつ、収入源になるかと存じます」
ふむ、と祖父は頷いて沈思する。
「確かに、天候や災害に左右されない収入が各家にあるというのは良い事かもしれぬな」
「では、村民の為の学校を作りましょう。簡単な礼儀作法と文字と計算を学べるのであれば、商家へも勤める事が出来ますし、孤児院の子供達にも一緒に学ばせれば彼らにも将来が拓けますわ」
「うむ。明日から忙しくなりそうだ」
シヴィアが補足すれば、祖父はにこやかに頷く。
そして、祖父は手を伸ばしてフローレンスの頭を撫で、フローレンスは嬉しそうに破顔した。
「お祖父様、明日も村に遊びに行っても宜しいですか?」
「うむ。だが昼食までにしなさい。お前にもまだ学ぶ事があるのだから」
「はい。あの子達にも家のお手伝いもございますものね」
昔より遥かに聞き分けの良くなったフローレンスを見て、シヴィアは改めて驚嘆する。
嫌々と泣いていたあの頃が嘘みたいに。
人は変われるのだ。
幼くても老いていても。
切っ掛けさえあれば、誰もが。
けれど、逆にどうしたって変われない人間もいる。
捨てられない物が多過ぎて、それを手放す事が出来ないのだろう。
祖母は、きっと変われないし変わらない。
彼女を変えようと思う人もいないのだ。
少し悲しい気持ちになって、シヴィアはカッツェに視線を移す。
祖母に対して同情めいた気持ちを持ちはするけれど、彼女の為に人生を歪められた人々が何人もいる。
カッツェは漸く自分の人生を取り戻す出発地点に立てたのだ。
皿に顔を埋めて食事をしていた、みすぼらしいあの子はもういない。
今はピンと背を伸ばして姿勢よく、礼儀作法通りに食事をする少年が目の前に居る。
それだけで、自分の存在と行いに価値があったのだと思えた。
でもまだ。
まだこれからよ、シヴィア。
心の中で自分を叱咤する。
安心してはいけない。
領地を富ませながら、妹と従兄の命を脅かす者から守り、祖母にとって何よりも価値のある存在で居続けなければ。
二人を守り通すには、それしか方法は無い。
今は王室の力を借りて調べるしかないけれど、祖母の悪事の証拠を掴んで、いつかは公爵夫人の座から退いてもらわなくてはならないのだ。
神が許した彼女の悪辣なる所業を明らかにして、追い詰める。
「シヴィ」
カッツェに名を呼ばれて目線を上げれば、彼は困った様に微笑んでいる。
「少し散歩に行かないか?」
「今から?」
問い返しながら窓の外を見れば、夜の帳が降りて、星も輝き出している。
出かけるには遅い時間だ。
「ああ、見せたい物があるんだ」
「ええ、それなら」
フローレンスは何も聞こえなかったような顔をして甘味を口にしているし、祖父はちらと見ただけで何も言わない。
二人で出かける事を咎められずに済んでほっとしながら、シヴィアは頷いた。




