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アルシェンの覚悟

だが、続けられたルディーシャの言葉は、エルキュールだけでなく、アルシェンやフランシスの予想外でもある言葉。


「いいえ、王家に嫁ぐこともありません」


「……それは、何故かお伺いしても?」


母と子ではなく、王太子妃と王子として、アルシェンは厳しい面持ちで問いかけた。

前から抱いていた自分の望みを真っ向から否定されたのだ。

何故か、理由が知りたいと思うのは当然である。

ルディーシャは真っすぐにアルシェンに目を向けた。


「それがシヴィアの申し出であり、王室として認めたものである、と言っても其方達は納得しないでしょう。……悪女ディアドラの話は耳にした事がありますね?」


「ええ、でもそれは、彼女達の祖母であり、孫のシヴィア嬢やフローレンス嬢の罪ではありません!」


悲鳴のように庇うエルキュールに、同意するようにアルシェンも頷いた。

でも、シヴィアの申し出である。

もっと深い事情があるに違いない、とアルシェンは静かにルディーシャの言葉を待った。


「悪女の血を王室に入れてはならない、とシヴィアは考え進言したのです。王妃殿下もそれを承認なさいました。ですから、レミントン家の姉妹を王家へ嫁がせることはないのですよ」


「いや、……でも、それではシヴィア嬢はどうなるのです……」


悲痛な顔を向けるエルキュールに、流石にルディーシャも眉尻を下げた。

ルディーシャとしても何より心配している所である。


「それは、彼女がこれからの人生で決めていく事。わたくしも出来る限りの援助は惜しむつもりはない、けれど」


言葉を区切って、ルディーシャは息子達を一人一人じっと見つめた。


「シヴィアにとって何が幸せなのかをお考えなさい。貴方達が王家に連なる者である以上、彼女は決して受け入れないでしょう。答えも持たずに問い詰めなどしたら、あのを徒に苦しめるだけですよ。追い詰めるような真似だけは、母としても王太子妃としても絶対に許しません」


「……その御言葉、胸に刻みます。母上が、それほどまでにシヴィア嬢に心を砕いて下さっている事に感謝致します」


告げられた断絶の言葉は悲しい。

それでも、アルシェンにとっては、自分の大事な人間であるシヴィアが周囲に護られている事が嬉しかった。

愛を求めない彼女が、周囲に愛されることが何より嬉しい。

そして、友人であるアジールからの手紙に、漸く納得出来たのだ。


あの子を見守っていて。

全てを諦めている眼をするから。

目を離したら消えてしまうわ。


何を、と一笑に伏す事は出来なかった。

アルシェンは見つけることが出来なかった何かを、アジールは見抜いていたのかもしれないとその時思ったのだ。

原因は、全て悪の根源であるディアドラに繋がっている。

シヴィアは清廉で謹厳であるがゆえに、自分の中に流れる悪女の血すら許せないのだろう。

だから、全てを拒絶してしまうのだ。

それでも。


「王太子妃殿下、……いいえ、母上。私は揺るぎない覚悟を持っています。もし、別の道があり、彼女が受け入れてくれれば、その時は」


「シヴィアが認めるのならば、邪魔立てしないと誓いましょう」


ぺこりと短く一礼をして、アルシェンは部屋を後にした。

幾つもの答えが浮かんでは消えて行く。

絵空事では、シヴィアを納得させることは出来ない。

王位など、と捨ててしまえば、彼女を酷く落胆させるだろう。

物語の中にはそれほどまでに自分を、と感動する女性も存在するようだが、シヴィアは違う。

王の責務の重大さを分かり、その王に相応しいと彼女が認めてくれている以上、自分からそれを放り出す訳にはいかない。

たとえ、シヴィアを諦める日が来たとしても。

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