公爵家のお茶会
レミントン公爵家のお茶会が始まった。
王城にほど近い場所に広い邸宅と庭を構えていて、庭の中にある森を抜けると王城の外壁が現れる。
外壁の手前には人工的な堀があり、公爵家の庭にも背の高い格子状の柵が設けられていた。
領地にある屋敷ほどではないが、王都にしては緑も多く広い敷地である。
晴れ渡った青空の下、招待客を十分持て成せる家具が庭に置かれ、離れた場所では親達が歓談する場も用意されていた。
だが、今回の主役は子供達である。
第一王子アルシェンは既に何度か王妃の主催するお茶会に出席していたが、その下の第二王子エルキュールと第三王子フランシスは初のお茶会である。
しかも三人揃ってというのは、それほどまでに王家はシヴィアという次期女公爵を大事に保護しているのか、と貴族達を驚愕させるに余りあった。
母親代わりとでもいうように、シヴィアの横にはでん、と王太子妃ルディーシャが寄り添っていて。
招待客との挨拶も一緒に交わしているのだ。
その間、王妃イレーヌは、公爵邸の応接室でディアドラと久々の対面を果たしていた。
「半年ぶりになるかしら?レミントン公爵家も次世代の後継者があの素晴らしい娘で安泰ね」
「大変名誉なことでございます。まさか、孫娘を手厚く保護して頂けるとは」
扇の下の笑顔は、あくまでも穏やかな笑顔ではある。
但し、それはまだ牙を剝く時ではないからだと、イレーヌも知っていた。
「ええ、そうね。もう一人の孫には随分な仕打ちをしていたけれど、今後あのような振る舞いはわたくしが許しません」
「あれは躾の一環でございますわ。皆様の前では猫を被っているようですけれど、残念ながらあの娘はシヴィアと違って悪辣で暴虐さを秘めた娘ですのよ。躾は必要なのです。王家とはいえ他家の教育に口出しをする権限はございません。……とはいえ、シヴィアとも約束致しましたから、体罰はもう行いませんわ」
体罰は行わないが、それ以上の手段をもって片付ける気はあった。
ディアドラの隠し切れない怒りを見て、イレーヌもまたそれを感じ取る。
「そう。それなら良くてよ。別に口出しをしたい訳ではないの。でももし、助けを求められたらその限りではないという事を伝えたかったのよ」
フローレンスが王妃や王太子妃に助けを求めれば、対処すると言っているのだ。
ディアドラは歯噛みしたい気持ちを落ち着けた。
まったくもって忌々しい娘……!
優秀で美しいシヴィアの後ろに隠れて、まんまとディアドラの手を逃れて王族に取り入ったのだ。
これでもし、フローレンスが王族に連なる事になったら、自分の立場も危うい。
外戚としての権力を振るう前に、あの悪魔の様な娘が権力をもってして、ディアドラを消し去るだろう。
「それは大変有難い事ですけれど、あの娘は躾も何もなっておりませんの。とても王族の方々と親しくできるような素養も爵位もございませんわ」
「心配は無用です。こちらで存分に教育は与えますから。それに何を心配しているのか分からないけれど、シヴィアやフローレンスを孫達と娶わせる事はないので安心なさい」
いきなりイレーヌが宣言したのは。
フローレンスだけでなく、シヴィアも王子の相手にはしないという事で、ディアドラの瞳が怒りに満ちた。
「その様な事、何故仰るのです。わたくしへの当てつけでしょうか?」
「あら、おかしなこと。……シヴィアの望みでもあるのよ。あの娘は女公爵になりたいと望んでいるの。もしも王子達の誰かが婿入りする事になれば、勿論邪魔はしなくてよ。わたくしは貴女と違って、人間を物扱いしませんから」
そう言われれば、ディアドラも少しだけ息を吐いた。
そうだった。
シヴィアにはこの公爵家を継いでもらわなくては。
もしも、シヴィアが公爵を継がなければカッツェかフローレンスかという、究極の選択をしなければならない。
そして、そのどちらもディアドラにとっては死刑宣告と変わりないのだ。
思い当たって、ディアドラはやはりシヴィアは素晴らしい存在だと肩の力をほっと抜く。
王子が婿入りというのも、悪くはない。
もし、未来の王に子が出来なかったり、儚くなれば、もっと。
悪辣な事を思い浮かべながら、悪女は扇の下で口角を吊り上げた。
色々間違っていたので訂正しました。ご指摘感謝です!




