妹について考える姉
嫌いだから注意されたのではないと分かって、安心したようにフローレンスは微笑んで姉の胸に頬を擦りつけた。
大好きな姉に、大好きと言われて嬉しかったのである。
でも、抱きしめているシヴィアの心は複雑だった。
シヴィアの前では優しいフローレンス。
母リアーヌの前では祖母に似て恐怖を与えるフローレンス。
祖母ディアドラの前では暴力を振るわれるほど憎まれるフローレンス。
そのどれもが抱きしめている小さな身体に詰まっているのかと思うと、複雑な心境になる。
あくまで、シヴィアに向ける優しさは、母の感じるフローレンスの恐怖と暴力とは乖離していた。
どちらが本当かは分からないし、どちらも本当だという事もあり得る。
リアーヌは今、祖母や父から離れて、かつて住んでいた伯爵邸へと戻っていた。
身近な世話にはルハリを付けている。
公爵邸で初めてシヴィアが接した小間使いだ。
気弱で臆病なルハリならば、同じように気の弱いリアーヌとも気が合うだろうし、彼女の淹れるお茶はとても美味しい。
医師も時折向かわせて、リアーヌの精神状態も落ち着くかどうか見守るつもりだ。
そして、シヴィアがフローレンスに言った言葉には何一つ嘘はない。
嘘は無いのだけれど、呪いのようだと感じてしまう。
大好き、優しい、そう口にする事で、フローレンスを縛り付けているような気がするのだ。
実際に、ディアドラのような悪辣な人間になって欲しくないという、祈るような気持ちもある。
抑止になれば、とも思う。
けれど、シヴィアは自分だけでは足りないのではないかという漠然とした不安があった。
今はまだ幼く無垢で素直な部分が大きいけれど。
成長して、色々な事柄が加わった時、もしフローレンスがシヴィアを憎むような事があれば。
そんな事になってしまったら、何よりも悲しいのだけれど。
それよりも、フローレンスの抑止になれなくなるのが問題だ。
もっと、フローレンスにとって、大事な相手を増やす必要がある。
小さな妹を抱きしめて、その頭に口づけを落としながら、シヴィアは考え込んだ。
食事の後、フローレンスに薬を飲ませて昼寝をさせると、シヴィアは勉強部屋へと戻った。
相変わらず、周囲の人目には晒されるけれど、王妃と王太子の保護下に入ったという事は、王宮関係者には既に広まっているのだろう。
悪意的な眼差しではなく、興味や好奇心といった雰囲気が大きい。
そして、何処か「利用してやろう」という邪な気持ちも見え隠れしている。
関わってこない限りは、シヴィアの方から触れる事はしない。
まだ政治をするには基盤も能力も整っていないのだ。
家庭の問題からも気持ちを切り離すと、シヴィアは勉強の事だけに集中し始めた。
まだ小さいのに、妹の事を考えて一生懸命なお姉ちゃん。




