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悪の種子  作者: ひよこ1号


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51/69

お姉様へのご褒美

「どう?お勉強は捗っているかしら?」


そろそろ休憩を、とヴィバリー夫人も考えていたところに、ひょっこりと王太子妃ルディーシャが顔を出したのである。


「これは、王太子妃殿下」

「ルディ様」


立ち上がって淑女の礼を執ったヴィバリー夫人の後ろで、フローレンスもたどたどしい淑女の礼を執る。


「あら、お邪魔をしてごめんなさいね。今後は挨拶を省略しても宜しくてよ」


困ったように言うルディーシャに、背筋を伸ばしたヴィバリー夫人は毅然と首を横に振った。


「そういう訳には参りません」

「参りません」


倣う様にフローレンスもふんすと首を横に振ったので、思わずルディーシャも侍女達もくすくすと笑った。

真似をされたヴィバリー夫人も優し気に目を和ませて、背を反らしたフローレンスを見遣る。


「ちょうど、休憩を入れようと思っていたところですの。フローレンス嬢はよく頑張っておいででしたよ」

「まあ、それではご褒美をあげなくてはね」


にこにことルディーシャが微笑み、いそいそと侍女と小間使い達がお茶の用意を整える。

美しい茶器一式ティーセットに菓子の盛り合わせを見て、フローレンスは目をキラキラと輝かせた。


「おやつ!」

「ふふ、そうよ。貴女のおやつよ」

「フローの……わたくしのですか?」


自分の名前を言いかけて、丁寧に言い直したフローレンスはとことこと、長卓テーブルへと近づいた。

長椅子ソファーに腰かけているルディーシャのスカートをきゅっと掴んで、一心にお菓子を見ているフローレンスに、ルディーシャも思わず抱きしめたくなる気持ちを抑え込む。


「ええ、そうよ。頑張ったご褒美」

「では、先生にもあげていいですか?先生もお勉強を頑張って教えてくれました」

「まあ……」


ルディーシャとヴィバリー夫人は目を見合わせて、微笑み合う。

夫人の目は既に涙ぐんでいた。

スカートを掴んでいた小さな手を離すと、フローレンスは椅子の近くに佇んでいたヴィバリー夫人の手を引いて、王太子妃の向かいの席へと連れて来た。

大人達は目線で許可を得、許可を与え、無言で誘われるまま長椅子ソファーに腰を下ろす。


「ルディ様もね、お仕事頑張ったので、一緒に食べましょうね」


幼い子供特有の、少し偉そうな言い方にも心を擽られて、侍女達も小間使い達も思わずくすくすと笑い声を立てた。

ルディーシャも、隣にちょこんと座ったフローレンスの言い分に、大きく頷く。


「嬉しいわ、フロー。わたくしも頑張りましたもの」

「ルディ様はえらいですね」


小さな痛々しい手で、ルディーシャの手を撫でるのを見て、心がちくりと痛む。

青黒い痣は依然として其処此処に、酷い暴力の痕を残している。

けれど同時に、温かくて小さな手が意思を持って動いている奇跡を感じて、心も温まるのだった。

ルディーシャは、ヴィバリー夫人とフローレンスに優しく声をかける。


「さ、お茶に致しましょう」



さくさくと焼き菓子を食べては、紅茶を口に運ぶ。

痛み止めのおかげで、フローレンスは何処も痛いところはない。

焼き菓子も口の中でほろほろと解け、甘さが口いっぱいに広がる。


ヴィバリー夫人とルディーシャは、ヴィバリー夫人の伯爵家の領地の事について話し始めた。

フローレンスには細かい事は分からないが、お城にお勤め出来るくらいの爵位と権威がヴィバリー夫人にはあるのだ。

姉のシヴィアも今のフローレンスと同じ五歳の時期から既に領地の切り盛りを始めていた。

それがどれだけすごい事なのか、改めてフローレンスはシヴィアに尊敬の念を抱く。

地理や歴史もだけど、特産品や天気のことを話していたのも知っている。

だから、時々二人の話にも質問を挟んで聞いてみた。


その傍ら、フローレンスはハンカチの上にクッキーを一つずつ載せ始めたので、ルディーシャとヴィバリー夫人は、あら?と無言で目線を交わして一心不乱に作業しているフローレンスを見守った。


「フローレンス、それはどうするの?」

「美味しかったので、お姉様にあげます!お姉様もお勉強を頑張っていらっしゃるので」


予想していたとはいえ、満面の笑みで言われて、ルディーシャは胸を押さえてため息を吐いた。

本当ならお行儀が悪いし、シヴィアに別に用意させることも出来るのだが、きっとシヴィアはフローレンスから直接受け取った方が嬉しいだろう。


「そう、優しいのね、フローレンス」

「お姉様は喜んでくださるかしら?」

「そうね。きっと喜ぶわね」


ルディーシャは微笑んで、フローレンスの頭を撫でた。

お姉様大好きっ子。

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― 新着の感想 ―
 (*´-`)ホゥ
いい扱いをされれば、いい扱いをかえそうと思うのは、自然な心の動きだよね。
良い点 「では、先生にもあげていいですか?先生もお勉強を頑張って教えてくれました」 一言 うわ泣いた。滂沱。 教育というか導き方でどの様にもなれる、って筋書にシフトしたのかな〜 これはこれで良…
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