宣戦布告
フローレンスの言葉は、宣戦布告の言葉とディアドラに伝わった。
時が来たら始末しよう、と考えが傾いたところで、シヴィアが更に挨拶をする。
「わたくしの王城通いを危険だと陛下が仰いまして、畏れ多くも第一王子殿下の側近候補として王城に部屋を頂くことになりましたの」
「ま、何て光栄なこと!」
先程までの憎々し気な顔から一転、華々しいシヴィアの扱いへ、ディアドラは歓喜の表情を浮かべた。
そして、シヴィアは喜色満面のディアドラに、膝を屈して軽くお辞儀をする。
「つきましては、フローレンスも王城に連れて参りますことになりましたので、暫くお祖母様にはお目にかかれないと存じます」
「……まあ…、でもそれはお邪魔になるのではないかしら…?」
まるで獲物を品定めする猛獣の様にフローレンスを見つめるディアドラを見て、シヴィアはにこりと穏やかに微笑んだ。
「いえ、ご心配には及びません。王太子妃様がフローレンスにも教育係を付けて、淑女としての教育を受けさせて頂けることになったので、今後問題を起こす事はないと存じます。わたくしもきちんと目を配りますので」
「あら、……そう」
残念そうに言うと、勝ち誇った笑みをちらりと浮かべたフローレンスを見て、ディアドラは眉を顰めた。
殴れるものなら殴りたいが、シヴィアの前では出来ないし、王太子妃まで出てきているのならこの話も断れない。
時間があれば、何とかなるのだけど、と思いながらシヴィアに微笑みを向ける。
「いつ、出発するのかしら?」
「お母様にご挨拶をして、用意が出来次第参ります。城からも使用人をお借りしていますので」
引き留める言葉を言えないように先手を打てば、ディアドラは笑顔を浮かべたまま頷いた。
繋いでいた手を一旦離して、シヴィアは優雅な淑女の礼を執る。
「それではお祖母様、ご機嫌よう」
姉の所作を見て、妹のフローレンスもぎこちなく淑女の礼を執る。
再びシヴィアから差し出された手を握って、二人は部屋を出ていく。
最後に振り返ったフローレンスは、悪魔のような笑みを浮かべていた。
扉がパタン、と閉じた後、ディアドラは扇を小卓に何度も何度も力の限り打ち付けた。
あの悪魔!
復讐する気だわ!
このわたくしに対して、何ていう生意気な目を向けるの!
絶対に許さない。
はあはあ、と息切れがするほど打ち付けて、扇は手の中でボロボロになって折れかけているのを見て、床に投げ捨てる。
うろうろと落ち着きなく部屋を歩き回るが、良い手は思いつかない。
今は城からの使用人が居て、護衛もいる。
その中で「事故」を起こすことも出来ない。
みすみす手の内から逃がしたくはないが、打つ手はないのだ。
馬車に細工をする時間も無ければ、シヴィアが巻き込まれては意味が無い。
あの娘はそれも分かっていて、あの偉そうな顔を……!
今までずっとディアドラは、敵だと思った人間は容赦なく排除してきた。
その権力と金もある。
けれど、その上をいく権力に守られた人間にはどうしたって敵わない。
可愛い息子の実の娘だろうと、優秀な孫のシヴィアの実の妹だろうと、
あれは、わたくしの敵なのだ。
まあいい、まだ子供だ。
機会はまた訪れる。
漸く落ち着きを取り戻したディアドラから、脅えた様に小間使い達が目を逸らす。
イゾルデだけは床に落ちた扇を、静かにいつもと変わらぬ表情で拾い上げて屑籠へと運んでいた。
主人公が気づかない所で静かに戦う悪女二人。




