王太子妃の保護
「まずはわたくしに発言をお許しくださいませ」
フローレンスをしっかり抱えたまま、ルディーシャが強い調子で言った。
中央の椅子に腰かけた国王が鷹揚に手を振れば、ルディーシャはまっすぐシヴィアを見る。
「状況を分かって頂く為に、ベールを少しまくります」
「はい。仰せの通りに」
ルディーシャが捲った布の下から現れた顔に、国王も王妃も、王太子もアルシェンさえ息を呑む。
「何と、惨い事を……」
国王は低い声で言った。
王妃も、涙をうかべつつ、目を吊り上げて言う。
「分かりました。話をしましょう。その前に」
「ええ、フローレンス、貴女はあの者と露台でお茶をしてらっしゃい。お菓子も沢山用意させたの」
ぴくっと腕の中で身体を跳ねさせたフローレンスが、確認するようにシヴィアを見て、シヴィアは微笑んで頷いた。
「ゆっくり、冷ましてからお茶を頂いてね。後でお口が痛くならないように」
「はい、お姉様」
ゆっくりとルディーシャが床にフローレンスを下ろせば、フローレンスは侍女の待つ露台へととことこ歩いて行った。
アルシェンが、ため息を吐いて頭を抱える。
「まさか、あれ程の怪我を負わされているとは……耳で聴くのと目で見るのは大違いだな……」
沈黙が降りた後、重々しく国王が先陣を切った。
「まずは二年前、公爵とシヴィアが城に来た時の話をしよう」
王妃と王太子夫妻には伏せられ、アルシェン王子と国王だけで内密に動いていた内容が三人に知らされる。
それぞれが、嫌悪や憎悪、憐憫といった表情で、ただ頷きながら国王の話を聞く。
ヒルシュ、フローラ公爵夫妻の事故への疑念。
ヒルシュの父である先代にして現公爵であるエルフィアに対する毒殺疑惑。
前公爵夫妻の遺児であるカッツェへの2年に及ぶ虐待。
シヴィアがカッツェと公爵を救い出し、公爵家の後継となったのは、カッツェへ爵位を返還する為だという事。
夫妻の事故に公爵夫人ディアドラが関わっている事への調査ではまだ証拠は掴めていない。
ちなみに、毒殺については既に毒を盛っていた子飼いの侍女と、侍医は捕まえてあり、証言もさせてあるらしい。
祖母は金を掴ませて、遠くへ逃がしたと安心しているそうだ。
そこで王子が、今断罪してしまった場合の余波についてのシヴィアの見解を告げる。
カッツェが成長するまで、領地で公爵指導の元勉学を修めている事、公爵の寿命が残り少ない事も。
一旦、そこで説明を終えると、王太子妃ルディーシャの提案が始まった。
「フローレンスは、シヴィアがお城にはもう来れない、勉強ができないと泣いていたの。フローレンスを屋敷に残して登城する事は出来ないから、お姉様は行くのを止めてしまう、と」
まさか、妹がそこまで思い至っていたとは知らず、シヴィアはハッと顔を上げて、そして俯いた。
「左様でございます。あの家に妹だけを置いていく事は出来ないので、領地に戻る際にも伴って行こうと思っていました」
「そうか……」
アルシェンにとっても、シヴィアが去る事は痛手だが、妹があんな怪我を負わされているのだから我儘も言えない。
ところが、ルディーシャが続けた。
「それでね、わたくし思いましたのよ。二人を離宮で保護したらどうかしら?って。未来の側近として召すなら混乱は起きないでしょう」
何処となく嬉しそうな様子で言うルディーシャに、王妃は頷きつつ言った。
「それは名案だわ。でも貴女、女の子を手元に置きたいだけではないでしょうね?」
「そんな、お義母様。あんな酷い事をされた娘を、元居た場所に返せと仰いますの?」
「いいえ、それは断じて許しませんけれど」
と何故か二人が盛り上がっている。
何だか思っていたのと違うわ、とシヴィアは首を傾げて二人を見ていた。
「あの二人は娘を欲しがっていたものでね。今まさに念願が叶うと思って喜んでいるんだよ」
王太子が呆れた様に言えば、アルシェンも半眼で女二人を見遣る。
婚約者候補として召してくれればいいのに、とアルシェンは密かに思いながら。
王家は万能の様に扱う方もいますが、国によって、王家の権限の強さも違えば、風習や歴史によっても多々変わってくると思います。
基本的には他家の事に何でも口出ししていい訳ではないと思います。領地にしても国ではあるものの、それぞれの裁量や自治権もあるので、税金についても国で定められた範囲内なら問題にならないように。王家が出張るとしたら貴族同士の争いに裁定を求められた時でしょうかね。




