そして、復讐を誓う
お姉様は助けてくれる、とフローレンスは知っていた。
いつでも正しくて、厳しいけれど、間違った事は許さないから。
扉が開いて温かい風と不思議な香りが鼻を擽って、それからシヴィアの声が耳に届いた。
毛布を被ったまま声の方に顔を向けたら、シヴィアの悲鳴が聞こえた。
フローレンスは、初めて感情を表に出して泣き叫ぶ姉を見た。
眼も口も大きく開いて、涙を溢れさせるその姿は、はしたない、と何時ものシヴィアなら言うだろう。
ああ、お姉様は、私の為に泣いてくれる。
お姉様だけが、私を愛してくれている。
そう思った途端、フローレンスは涙が溢れてきて優しい姉にしがみ付いた。
痛がるのではないか、と触れることさえ戸惑う手が、優しく頭を撫でた後、フローレンスを抱き上げてくれたのだ。
重いから、使用人に持たせればいいのに、と思ったけれど、それよりもフローレンスはシヴィアから離れたくなかった。
誰も、この暗くて汚くて寒い場所から、助け出してはくれなかったのだ。
毛布をくれた侍女もいれば、お祖母様の凶行を止めようと声を張り上げてくれた侍女もいたけれど。
食事も温かいスープも出されたけど、一口でフローレンスは嫌になった。
口の中が痛くて、顔を動かすのだって痛いのだ。
それに、あの汚い便器を使うのは嫌だった。
二度目の食事の時に、侍女に頼んで使用人のトイレを使わせて貰って部屋に戻されて。
そこからは、一口ずつ、スープと紅茶を口にした。
今は、シヴィアが温かいスープに息を吹きかけてから、口元に運んでくれている。
約束通り、寝てから起きてもシヴィアは傍にいてくれて、一緒に食事も摂ってくれていた。
「さ、もう一口お食べなさい」
「ん……」
頷いてから口に含む。
今はあまり痛くなくて、スープを食べるのも苦労しなかった。
それから、果実を小さく切ったものを、シヴィアが口に運んでくれて、それをぱくりと口に入れる。
「お姉様も、お食事して」
「ええ、貴女のお食事を終えたらね」
「もうお腹いっぱいよ。お姉様が食べ終わったら、お菓子を食べたい」
「分かったわ、仕方のない子」
優しく微笑んで、シヴィアは寝台の横に置いてある小さな円卓の上の食事を食べ始めた。
背筋を伸ばして、美しい姿勢と所作で食べている。
それは、礼儀作法の先生をしてくれている家庭教師よりも素敵だった。
食事をしながらも、フローレンスと目が合えば、優しい微笑みを見せてくれる。
「まだ先の話になるのだけれど、領地へ行く時は貴女も連れて行く事にするわね」
フローレンスの記憶の中では、この屋敷に来た時に、何だか色々あって、父親ではなく姉が爵位を継ぐ事になったのだ、とお祝いがあった。
話もした事がない祖父と姉が領地へ行ってしまい、それでもその時は優しかった母のリアーヌと一緒に毎日楽しく暮らしていたのだ。
偶に会う祖母は、何だか意地悪で好きになれなかったけれど。
でも今は、憎い。
「お祖母様と貴女を此処へ残していく訳にはいかないもの」
心配そうなシヴィアにフローレンスは頷いた。
ディアドラが言っていた。
母は愚図で鈍間だと。
だから、フローレンスを助けられないし、自分の身も守れない。
父親は無能だからフローレンスが閉じ込められても気づいていないし、祖母の言いなりだから気づいても助けに来ない。
「お姉様と一緒に行きます」
邪魔だと思われたら、あの悪魔の事だからまたぶったり閉じ込めたりするだろうし、シヴィアが遠くに居たら助ける事もできないから、小さなフローレンスは死んでしまうだろう。
生き延びる為には、姉に倣ってきちんと色々な事を身に付けなくてはいけない。
そしていつか、あの意地悪なディアドラと原因を作ったビアンカに復讐するのだ。
まだ先になりますが、婆と孫の仁義なき戦いが。




