本当に欲しい物は誰かに貰いたくはない
「どちらが怪我をしても国同士の問題に発展しましてよ。もし勝負をなさりたいのなら弓になさいませ」
国同士の問題に言及するにあたり、シヴィアは姿勢を正して、言葉遣いも戻した。
アルシェンもアジフも、ふむ、と一考する。
「それもそうか」
「折角だから賭けをしようではないか」
納得して頷いたアルシェンに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてアジフが提案する。
「何を賭けるんだ」
「欲しい物に決まっているだろう」
うーんと、アルシェンは悩んで天井を見上げる。
「お前から欲しい物なんて、ないんだよなぁ」
「はぁ?世界屈指の富豪だぞ。何でも好きな物を望めば良いではないか」
「うーーーん??」
欲しい物、とシヴィアも思い浮かべた。
金に飽かせて手に入れたい物など、王子という身分ではなさそう、と思いつつ。
シヴィアにとって欲しい物は何なのか、考える。
目標にしているカッツェの幸福は、誰かに叶えて貰うものではない。
お金は公爵家にも潤沢にあるし、ドレスも宝石も今はまだそれほど必要にはなっていないし、最低限で良いのだ。
傍らのアジールに目を遣れば、アジールもうーん?と考え込んでいる。
「改めて聞かれると、そんなに無いものね、欲しい物なんて」
「ええ」
アジールの呟きにシヴィアも頷いて見せる、が嬉しそうなアジフの声が上がった。
「俺は決めたぞ。シヴィアを貰おう」
「駄目だ!シヴィアは物ではない」
うん?とシヴィアは首を傾げる。
欲しい物って人間も入る物なのかしら?
ばっとアジールも起き上がる。
「シヴィア、良いだろう?」
「ええ、宜しいですわ、わたくしの参加を認めて頂けるのなら」
「シヴィ!自ら賭け物になるなどと言うな!」
悲痛な声と真摯な眼で言われて、ずきりとシヴィアの胸が痛む。
「そうですわね。以後、気を付けます。では、わたくしの戴きたい物はジルに致しますわ」
「えっ?わたくし!?」
対岸の火事を楽しんでいたアジールが仰け反った。
「さあ、最後にお前の欲しい物を言え」
「分かった……俺が勝ったら、シヴィアに一生触れるな」
氷点下の冷たさで言い放った言葉に、アジフは呆気にとられた。
「それは欲しい物とは違うだろうが」
「では、触れないという約束を頂こう。お前の名に懸けて」
「クッ……面白みも遊び心も無い奴め……良いだろう。勝てば良いだけの話だ」
そして、男同士の思ったよりも真剣な勝負を制したのは、まさかのシヴィアだった。
「弓の名手だなどと聞いていないぞ!」
「ここまで得意だったとは……」
怒るアジフに、驚くアルシェン。
二人にシヴィアは微笑みかけた。
「あら、乙女には秘密が多うございましてよ」
「領地の狩りではそこまでの腕ではなかっただろう……」
何だかしょんもりとしながら言うアルシェンに、悪戯っぽくシヴィアは笑った。
「ふふ。花を持たせる程度の腕はあるという事ですのよ」
「くっそ……弓を指定したのはその為か!」
やさぐれて、どかりと地面に胡坐をかいてアジフが言う。
その言葉に穏やかな笑みでシヴィアは答えた。
「あら、何のことだか分かりませんわ。さあて、ジル、貴女はわたくしの物よ」
「ええぇぇ!ジフ、この馬鹿!貴方が女装してお相手なさいよ!……でも、約束は約束ね…何をすればいいの」
どんな事を要求されるのかしらと、眉間に皺をつくりつつシヴィアを見れば、シヴィアはくすくすと笑った。
「お国に帰られましたら、お手紙をくださいませね。わたくしのお返事にはかならず返事をして貰います」
「……まあ……わざわざ貴女の物になどしなくても、喜んで出しますのに」
もじもじ照れ照れとアジールは満更でもなさそうに身体を揺らしているが、むすっとした顔でアジフが言った。
「そこは普通、俺を望むだろう」
「……いえ、特には要りません」
一瞬考えて、シヴィアはにっこりと答えた。
アルシェンも嬉しそうに頷く。
「不用品だな」
「俺に対して冷たすぎやしないか」
文句を言うアジフに、呆れたようにアジールも言った。
「自分の言動を省みなさいよ、馬鹿ジフ」
不貞腐れたアジフ以外の三人がくすくすと笑い合う。
穏やかな時間が流れ、別れの日は明日に迫っていた。
皆様、良いお年を。
フローレンスが不憫過ぎるので、年明けと共に救出することにしました。
しばしお待ちくださいませ!




