残念な報せ
ふざけて話しつつ、用意された異国風の茶菓子とお茶を堪能している間に、いつの間にかかかっていた魚を釣り上げると、意外な事に丸々と太った鯉が釣れた。
二匹も釣れて、晩餐にはそれらを調理して出してくれることになったので、四人は楽しみに待っていたのである。
すっかり打ち解けて、王国の盤上遊戯をやったり、帝国に伝わる怪談を話したりなど遊んでいる内に、よく煮込まれた料理が運ばれて来た。
それぞれに違う味付けを施されていて、片方は塩と出汁に柑橘で味を調えた料理、もう一つは甘辛く煮られて香辛料を利かせた料理となっていて、其々に美味しく4人は満足げに頷く。
「中々旨いものだな」
「元々のお魚が淡白な味なのですね。色々な味付けが楽しめそうです」
嬉しそうなアジフに、シヴィアが頷く。
アジールも柑橘味の方を堪能しつつ頷いた。
「さすがはわたくしの釣ったお魚ですわね」
「誰が釣ろうと味は変わらん」
釣りに参加しなかったアジフの言い分に、アジールは無言で足を伸ばして蹴りを入れる。
アジフも心得ていて、その蹴りを枕で受け止めた。
「行儀が悪い」
今日は二人に合わせて、床に座って床に置かれた料理を食べている。
初めての料理に、初めての味。
部屋の内装も食べ方も異国風で、シヴィアは楽し気に微笑んだ。
「まるで異国に来たようで、楽しいですわね」
「ああ、そういえばそうだな。うん、悪くない」
アルシェンも頷いて、伝統料理と思われる豆を煮込んだスープを口にする。
自分達の国が褒められたようで、アジールとアジフも顔を見合わせて白い歯を見せて笑った。
「そうだろう。国を出たくないなどと言わずに、何時でも遊びに来るがいい」
「そうよ、シヴィ。わたくしの国の服は、きっと貴女にも似合うわ」
言われてみれば、暑い国というのもあって、アジールもアジフも薄着だ。
透ける布地や、幾重にも連なる金細工を纏っていて、動く度にシャリシャリと金属が擦れ合う音がする。
「ああ、飾り細工も随分我が国とは違いますのね。でも、ジルの褐色の肌に黄金が良く映えること」
足首につけられた金環も、鎖も、透かし彫りや華奢な造りで美しい。
白い肌より、より濃い肌の色の方が良く映えるのだ。
「そうかしら?嬉しいわ。金細工も美しいけど、珊瑚を加工した物もあるのよ」
「確か他の国にはない、虹珊瑚というものがあるとか」
「ええそうよ。明日見せてあげますわね」
美容と衣服と装飾品の話題は女性の大好きな話題である。
興味のない男性二人は、もぐもぐと夕飯を楽しみながら、二人の会話に耳を傾けていた。
だが、そんな歓談を打ち破る様に、声がかかる。
「アルシェン殿下、シヴィア様、城から使いが参っております」
こんな時間に何だろう?とは思うものの、急用には違いない。
「少し、失礼いたしますわね」
二人に挨拶をして、部屋から出た廊下に待機している使者の前に立てば、部屋の前に立つ護衛の耳を気にして、距離を置いてから話し始める。
「本日、コーブス伯爵家にてお茶会が開かれたのはご存知でしょうか」
そう聞かれただけで、何が起きたのか見当がついてしまった。
シヴィアは静かに頷く。
「ええ知っていてよ。わたくしはお断り致しましたけれど。妹が何か問題を起こしましたか」
「……は、仰せの通りにございます。妹君がコーブス家の令嬢に暴力を振るわれた、と」
そんな事もあるかもしれない、とは覚悟していたけれど、実際に聞くと落胆する気持ちが抑えられない。
でも、母も一緒に行った筈なのに、と問いかける。
「母はどうしておりますの?」
「それが、倒れてしまわれたようです」
最近少し疲れ気味なのでは、と思っていたが、ここにきてそんな騒動に巻き込まれて気絶してしまったのだろう。
「国王陛下より、お屋敷へお戻りになっても構わないと許可を得ておりますが」
「こちらの歓待についても問題ないぞ。シヴィのお陰で打ち解けられたからな」
戻る事も考えないではなかったが、さりとて戻ったところでこの国の為になる事でもない。
シヴィアは静かに頭を振った。
「こういう時こそお祖母様に働いて貰います。手紙を届けてくださいませ」
大事な用だし、家での様子も分からないので帰りません。
明日、お昼も更新します。




