恐怖のお茶会
コーブス伯爵家の令嬢のビアンカは、祖母からある話を聞かされていた。
昔々、とても卑しい身分の男爵令嬢が、公爵様に取り入って結婚したのです。
学園に通っていた時も、酷く意地悪な令嬢で、何人もの令息を侍らせていたのですが、誰も彼女と結婚してくれる者はいませんでした。
同じように身分の低い男性からの申し出には、決して首を縦に振らなかったからです。
彼女は侍女として働いていた公爵家で、産後の肥立ちが悪く臥せっていた夫人が死んだ後、まんまとその後釜に座ったのですが、夜会に訪れる度に誰かの悪口をいい、誰かに意地悪をしました。
だから、その悪魔のような女性、ディアドラは皆に嫌われてしまったのです。
お祖母様は、お気に入りのドレスにワインをかけられて、着られなくなってしまったのよ。
いいこと?
レミントン伯爵のご令嬢には気を付けなさい、ビアンカ。
ビアンカはお茶会が始まる少し前、仲の良いご令嬢達に注意喚起をした。
今日招待されているレミントン家のご令嬢には気を付けて、と。
そして、現れた令嬢は可愛らしく挨拶をして、お祖母様に聞いていた禍々しい黒髪の紫の瞳の悪女、とは全然違う金色の髪のご令嬢で、ビアンカはなあんだ、と安心した。
「今日が初めてのお茶会なの?」
お茶会を開催する主催の娘だから、ビアンカはそう会話を切り出した。
フローレンスは可愛らしい笑みを向けて、頷く。
それからちょっと困った顔をした。
「お母様は社交が得意ではないの。だから、私も機会がなくて」
思ったより上品な言葉で話す事に興味を持った、寄り親の侯爵家から来た令嬢、ヒルデが質問をする。
「お姉様のシヴィア様は第一王子殿下と婚約されているとお聞きしてますけれど、お茶会にはいらっしゃらないの?」
「お姉様は王子殿下とは婚約してませんの。でもご学友でいらして、お勉強が忙しくてお茶会にはあまり参加出来ないようです。でも、いつかは我が家でもお茶会を開いて、王子殿下もご招待致しますわ」
皆に注目されたのを良い事に、フローレンスは胸を張って実現出来るかどうかも分からないことを言ってのけた。
だが、まだ幼く多感な少女たちは、まあ、と目をキラキラさせてその話に食いついた。
「その際は是非、わたくしも参加したいです!」
「私も!」
「招待状を送ってください!」
令嬢達にもてはやされて、フローレンスはにこにこと上機嫌で微笑む。
誰も彼もが自分にすり寄る事が気持ち良かった。
けれど逆に、本日の主催であるビアンカは主導権を奪われたようで何だか面白くない。
思わず、言ってしまった。
「伯爵家のお茶会に、王子殿下が来るわけないでしょ」
その言葉に小さな子供達も顔を見合わせる。
それもそうか、と納得しかけたが、いい気分に水を掛けられたフローレンスが負けじと声を上げる。
「伯爵家のお茶会じゃないわ!公爵家のお茶会だもの!」
「この子達は男爵家と子爵家なんだから、公爵家のお茶会に行ける訳ないでしょ!」
「招待すれば来られるじゃない!」
言い合いになった二人を、周囲はあわあわと見つめる。
一瞬詰まったビアンカは、フフンと鼻を鳴らして言った。
「貴女は伯爵家でしょ、公爵になるのはお姉様なんだから、貴女が茶会を開く訳じゃないわ!」
「わたくしがお姉様にお願いするもの!」
苛々のつのったフローレンスはそこで、怒りのあまり手元にあった紅茶をビアンカにぶちまけてしまった。
「きゃあ!……貴女、お祖母様の言った通りだったわ!男爵令嬢の悪女、ディアドラと一緒じゃない!」
「違う!」
更に激高したフローレンスは持っていた茶器を思い切り、ビアンカに投げつけた。
「ぎゃっ」
余りの痛みに悲鳴を上げたビアンカに、周囲も流石に大きな悲鳴を上げた。
「いた……痛い……っうあああああん」
「フン。顔に傷がついた貴女は傷物令嬢ね!いい気味だわ!」
大人達が驚いて駆け付けたが、怒れるフローレンスと大泣きするビアンカと脅える子供達を見て、事態を何となく察した。
近づきたくない、でも行かなければ、と近づいたリアーヌは、フローレンスの怒り狂った瞳と目が合うと恐怖と緊張のあまり、倒れてしまったのである。
クリスマスにお送りするお茶会のお話ではないですね!!
メリークリスマスひよこ。
皆さんは温かい場所で美味しいご飯を食べて安全にお過ごしください!




