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悪の種子  作者: ひよこ1号


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22/69

そして娘は怪物になった

シヴィアが王城に出かけている間、公爵邸には新たな使用人と家庭教師が遣わされていた。

その中でも礼儀作法の教師は、ディアドラとリアーヌの嫁姑の前で、使用人達の指導を行っている。

必ず立ち会いをして、使用人達の勉強を見届けるようにと指示したのはシヴィアだ。

ついでに小さな妹も、その授業に参加させられては嫌がって逃げている。


「駄目よ、フロー。きちんとお稽古をしなくては」

「いやあ。だってお母様はフローは何もしなくていいって言ったものー!」


確かに、そう言っていた事はある。

優秀なシヴィアが全て熟してくれるのだから、と。

でも、今既に公爵位を受け継ぐ可能性も出てきていては、そうも言っていられない。


「もう、駄目なの。きちんとお稽古をしなくてはいけなくなったのよ」

「いやあ、いやあ」


ぐずるフローレンスを厳しい目で見たディアドラが、冷たい声で言う。


「あちらへ連れてお行きなさい。授業の邪魔ですよ」

「すみません、お義母様」


犬でも振り払うように扇を持った手を振られて、仕方なくフローレンスを連れて別の部屋へと避難する。


「お母さま、遊びましょう」


無邪気に微笑む娘は可愛い。

けれど、このままでは将来恥をかくのはその可愛い娘なのだ。


「お稽古をしないフローとは遊びません」

「何でぇ?いや、いや!」

「何でお姉様みたいに出来ないの……フローは良い子でしょう?」


今まではお姉様より可愛いと言ってくれた母が、お姉様みたいにしろと言ってきて、フローレンスは訳が分からなくなる。

やりたくない事はやらなくていい、とそう言われて来たのだ。


「やなの!」


手近にあった布をフローレンスが力任せに引っ張れば、長卓の上に載せられていた花瓶ががしゃん!と音を立てて机の上に転んだ。

生けられた花も散らばり、卓の上から水がぽたぽたと落ちて来て、リアーヌは愕然とした。

眼には怒りを宿していて、敵を見るかのように見てくるその目は、まるでディアドラだったのだ。


「……勝手になさい………」


震える声でそれだけ言うと、フローレンスを振り返りもせずにリアーヌは自室に逃げ込んだ。

ずっと可愛がってきた、自分に似ている筈の娘が、まるで昔の化け物のような義母に似ているだなんて。


「嘘、嘘だわ……わたしの可愛いフローレンスは何処に行ってしまったの……」


震えながら、リアーヌは泣き崩れた。



花瓶の倒れる音が響いて、カルシファーから見に行くように言われた侍女のメアが駆けつけると、そこにはフローレンスが一人で立っていた。


「まあ、お怪我はございませんか?お嬢様」

「ふぇえぇ」


優しい言葉にフローレンスは侍女の元に走り寄って抱き着いた。

居間の食卓には無残に散らばる花瓶の欠片と、放り出された水と、濡れた布が水を滴らせている。


「まあ……花瓶が……」

「大丈夫ですか?今、片付けます」


後から来た小間使いが、丁寧に花瓶の欠片を回収して、花も布も纏めて片付けられる間メアは、フローレンスを自室へと連れて行った。


「お嬢様、たとえ怒ったり悲しかったりしても、花瓶を壊してはいけませんよ」


目線を合わせるように跪いて真っすぐに見つめながら言えば、ぷく、とフローレンスは頬を膨らませた。


「違うもの。フローは悪くないの。……お母さまがやったのよ!」

「そうでしたか。それは失礼致しました。では奥様にもご注意致しますね」


メアが言えば、フローレンスはその服を引っ張って首を横に振った。


「いいの。本当はフローが悪いから。お稽古をしたくないって言ったから、怒られたの」

「お稽古をしないと立派な淑女になれません。立派な淑女になれなかったら、素敵な殿方と結婚出来ませんよ」


フローレンスはその言葉に渋々ながら頷いた。

お姉様は綺麗。

お姉様は優秀。

お姉様は王子様と踊った。


欲しい、とフローレンスは思った。

けれど、手に入れる為にはお稽古が必要なのだろう。

だったら、お母様もそう言ってくれればいいのに。

馬鹿みたい、とフローレンスはため息を吐く。


メアの報告を通じて、カルシファーは晩餐後の夫婦の寝室へ、フローレンスの様子を伝えに行った。


「フローレンスお嬢様は明日から、稽古に参加されるそうです」


その言葉を聞いたディーンは、沈んだ顔のリアーヌに笑顔を向けた。


「ほら、言ったじゃないか。癇癪をおこしただけだよ。たまたま虫の居所が悪かったせいさ」

「……そうかもしれないわね」


あの小さくも恐ろしい姿を見ていなければ言える。

それに、夫は長年鬼のような母を見て育ってきたのだから。


「それと、奥様が怒って花瓶を割られたとも仰っていたそうです」

「は?君が癇癪を起こして花瓶を壊したのか?」

「違います!そんな事はしていません!……何て子なの、嘘をつくなんて……!」


疑ったディーンもリアーヌの剣幕に、追及を止めることにした。


「まあ、それも良くある事さ。怒られたくなかったんだろう……相手は子供なんだから、君も寛容になれ」

「………でも、わたくし、怖いの」


娘なのに、得体の知れない何かになってしまったような娘が、リアーヌはただ怖かった。


癇癪を宥める強さか、言いくるめる賢さがあれば良かったのですが、怖くて逃げてしまった母。

動物的勘で母親を見下す娘、カオス!

これを書いていた時点ではフローレンスの牙がどちらに向かうか分かりませんでしたが……続きをお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
ほうほう 妹簒奪型の雛形が見え隠れし出すのね ちょっぴりホラーめいてもいて。うまいなぁ
これシヴィアちゃん修道院行きか己に流れる血を嫌うあまり自害しかねなくないかな?
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