嫁の不安と姑の目論見
二年という歳月、変り映えの無い生活に飽き飽きしていたディアドラの元に、一通の手紙が届いた。
時々贈られてくる、可愛い娘、シヴィアからの手紙だ。
そこには、王都に戻るという事が丁寧に綴られていた。
社交期間には今度王都に戻り、それが終わったら領地へ戻るという生活を送ることが書かれている。
第一王子と領地で踊ったという噂は、カルシファーに告げられて、驚きの悲鳴を上げたほどだ。
その日、ディアドラは眩暈がするほど悩んだのである。
自分の孫娘が王妃になったら、と思うとゾクゾクして止まらなかった。
再び、今度はもっと上に返り咲けるのだ。
でも、そうなると今度は公爵位が空いてしまう。
そこに、カッツェを座らせるのは嫌だった。
かといって、ディーンを座らせれば公爵家が傾くかもしれない。
カルシファーに調べさせたところ、伯爵領の実務さえ優秀なシヴィアが担っている。
いざとなったら、優秀な男をフローレンスの相手にして継がせればいい。
どうせ、あの娘では王妃など務まらないのだから、とディアドラはにんまりした。
優秀で美しいシヴィアが手元に戻ってくるのは嬉しい。
髪の色も目の色も、愛しい息子とわたくしの色。
戻ったら仕立て屋を呼んで、沢山のドレスを仕立てなければ、とカルシファーに伝えた。
それにもう一つ、嬉しい報せが書かれていた。
カッツェはあまり優秀ではないので、エルフィア承認の元、修道院に送ったという。
もし継ぐ者がいなければ、還俗させればいいと書かれていて、安心した。
これで脅威はなくなったのだ。
優秀な義息の子供だからと危険視し過ぎていたのだと。
教育も満足な食事も与えずに虐げなくても、その実力がないのが嬉しかった。
しかも修道院に一生閉じ込めておけばいい。
あのエルフィアが認めるとは思わなかったが、優秀なシヴィアを手元に置いた事でその落差が目に余ったのだろう。
「やっと、やっと認められるのね」
それは何一つ自分の成し得た事ではないのに、ディアドラは手紙を抱きしめて笑った。
自分の血を受け継ぐ子供が、美しくて優秀ならば、それを生み出した自分だって尊いのだ、と。
「わたくしも、そろそろドレスが必要になるかしらね」
年に数回しか呼ばれなかった夜会。
もしシヴィアが王妃になれば、外戚となるのだから、追従するものだって増えるだろう。
でも、同じ過ちは犯さないように気を付けないと、とディアドラは気を落ち着けた。
ここまできて、また全てを失うのは御免だった。
自分だけでなく、シヴィアまで巻き込んでしまったら、台無しになってしまう。
同じ頃、リアーヌはため息を吐いていた。
実の娘だからシヴィアが可愛くない訳ではない。
何度も取り上げられたせいで、まるでディアドラとディーン母子の子供のような気すらした事もあったけれど。
それでもずっと世話をしてきたのはリアーヌだ。
だが、フローレンスが生まれて一変した。
自分と同じ色を持つ子供が愛しくて仕方がなかったのだ。
幸いディアドラは、リアーヌに似た娘には興味がないようで、抱きもしなかったけれど。
それで良かった。
やっと得られた自分の娘に夢中になって、気が付けばシヴィアとの間に溝が出来ていたのだ。
何とかしようと思っている内に、義母と同居する羽目になってしまった。
そして、シヴィアだけを可愛がるディアドラはフローレンスを気にも留めない。
ディアドラがシヴィアを可愛がる分、自分はフローレンスを可愛がればいいと対抗心が芽生えてしまった。
いつの間にか、シヴィアが冷たい目で見てくるのに気づいたし、無視されるようになって気がついた。
自分がシヴィアを無視して関心を示さなかった事を。
優しい言葉をかけようにも、領地に行ってしまった。
二年間、一度もシヴィアから手紙は届かなかったのである。
父にも手紙は出してません。婆に手紙を出すのは、出さないと領地に突撃されそうで嫌だったからというのもあります。




