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悪の種子  作者: ひよこ1号


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無垢な優しさ

近々行く、とだけしか言っていなかった領地への訪問を、シヴィアの決定で翌日行く事に変えたのだが、家族の中で反対する者はいなかった。

ディーンは面倒ごとは嫌いなので、シヴィアが引き受けた事に感謝していたし、ディアドラも公爵位をシヴィアが得る事に満足していたのである。

リアーヌも、娘のフローレンスの為に伯爵家が残されるのだから有能な者を婿にすればいいし、フローレンスが美しく育てば公爵位を継ぐシヴィアに伯爵家を押し付けて嫁に出しても良い。

三者三様に笑みを浮かべて、領地へ向かう公爵と次期公爵を見送ったのである。


綺麗な服を着せられて、先に馬車に乗せられていたカッツェはきょどきょどと瞳を動かすものの、ぎゅっと拳を握りしめて、不安げに身体を縮こまらせていた。


「カッツェ、今まで助けられずに済まなかった」


ぼんやりと見上げた虚ろな目には、何の表情も浮かばない。

何が起きているのかさえ分かっていないのだろう、とエルフィアは不憫に思った。

カッツェの向かいに座っているシヴィアは、そんなカッツェの口に星の形をした飴を押し込んだ。


「甘い物なんてあまり食べられなかったでしょう。どう?美味しくて?」


そう聞かれて、カッツェはこっくりと頷いた。

かつても誰かが笑顔で、美味しい?と聞いてきたような、懐かしい記憶が頭を過り、何故だか涙が溢れて来て頬を伝って滑り落ちていく。

口の中は幸せな甘さで一杯で、あの恐ろしい家からどんどん離れていくのが嬉しくて。

ぼんやりと朧げな父と母の思い出のある場所から離れていくのが苦しくて。

泣いても怒鳴られたり小突かれたりしないのが不思議で。

カッツェは泣き疲れて眠るまで、窓の外を見ながら涙を零し続けた。


途中で宿に泊まりながら、公爵領へと向かう。

その間にもシヴィアは祖父と色々な事を話し合った。


「お祖父様、お祖母様が解雇した使用人達はどうしておりますか?」

「移動できる者は領地で雇っているが、後の者はカルシファーに一任してある」

「分かりました。領地で新しく、使用人を雇い入れて教育を受けさせます。教師をお探し頂けまして?カッツェも教わるのですから、上等な教師でないと困ります。わたくしの侍女になる者も、お祖父様が厳選なさってください」


シヴィアにディアドラの宛がった侍女を遠ざけられてから、エルフィアの体調は目に見えて良くなっていた。

完治はしないが、薬の効果もあるようで、夜もぐっすり眠れて普通の食事も摂れるようになっている。

幼い二年を酷い扱いで過したカッツェを、シヴィアは甲斐甲斐しく助け、世話を焼き、食器を手に持たせては手本を見せるように目の前で食べる。

雛鳥のようにカッツェもシヴィアの真似をして、食べていた。

そんな二人を目にするだけで、エルフィアの心に後悔が渦巻く。

ディアドラを拒絶して排除するよりも、きちんと導けたのならヒルシュとディーンもきちんとした兄弟に育ったのではないか。

お互いを尊重して助け合えば、ヒルシュの優秀さの幾分かでもディーンが得られたのではないか。


だがもう一方で、思う。


どんなにこちらが導こうとも、悪に染まる者もいるという事を。

それとは逆に、誰にも教えられていないのに善良なる道を歩む者がいて、正しくとも虐げられた者達を援ける手助けをする奇跡があるという事を。

カッツェはまだ、己の状況を分かっていない。

それを知った時、この二人がどうなるのかは分からないが、祖父として、シヴィアには決して不幸になって欲しくは無かった。

友人でもある国王には、全て吐露したのである。

涙を流す友人を前に、厳しく調査をする旨を約束してくれた。

そして、シヴィアにだけは必ず温情を与えるとも。


目の前の幼い二人は陰惨な権謀を知らぬように無垢な優しさに満ちていた。

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― 新着の感想 ―
ディアドラは根が腐ってるから導きようがないな
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