目と見
今回は西村柴乃視点です。
赤佐の同期で内科勤務。
やけに執着してるなって。
そんなの今までなかったじゃん。
朝のカンファレンスに行く途中、遅れそうで急いでたら話し声が聞こえて。
角を曲がったら黄波先生に迫ってる哉がいた。
一瞬陰に隠れたけど、時間も時間。
哉たちも遅れちゃうし。なんか腹立つし。
「ちょっとちょっと、朝から何してんのさー」
座り込んでる黄波先生に目をやれば、顔を赤くして俯いてしまった。
哉は哉で、邪魔されたからって舌打ちなんかしちゃって。
そんなとこ、看護師さんとか患者さんとか、あんたにキャーキャー言ってる人達が見たら泣いちゃうよ。
「カンファレンス遅れるよ?」
「うるさい」
…理不尽極まりない。
黄波先生を立たせて、慣れた手つきで腰に手を回す。
極めつけに「西村に見せてやる?」なんて言い出して。
黄波先生は焦ってるけど、あれは本気で嫌がってないな。
カンファレンスに向かう途中も、終わってからも色々と質問をぶつけるけど取り合ってくれなくて。
そういえば前、「付き合ってはない」って言ってなかった?
あんなのどっからどう見ても付き合ってんじゃん。
お昼にも黄波先生にちょっかい出してみたけど、哉は明らかに機嫌悪くなってたし。
「めんどくさいから嫉妬されたらもうその子とは会わない。」って言ってたのに。
哉が嫉妬するのはいいのか…王様かなんかなの…?
それとも単純に自覚がないのか。
「あー!気になるー!」
診察室でコーヒーを飲みながら、仰け反って天井を見る。
「また女の子ですか?」
なんて笑う看護師さん達。
「そう、今日暇な子いないかなってー」
「えー?」
ちょっと誘えば色付いた声が返ってくる。
これだよ。
こういうやり取りが楽しいんじゃん。
…哉だって昔は一緒に遊んでたのに。
付き合ってないってことは黄波先生一本狙いなの?とか、色々考えてるうちに診察が終わっていく。
気になるから呑みに誘ってみよう、そう思って重くなった肩を回しながら外科棟に向かう。
「赤佐せんせー知らない?」
「仮眠とるとかで、仮眠室に…あ、でも寝不足だから15時までは絶対起こさないでって…」
「大丈夫大丈夫!ありがとね!」
手を振って、仮眠室に直行する。
ノブに手をかけると内側からドアが開いた。
「うわっ、え、なんだ哉か」
「…なにしてんの」
「今日呑みに行かない?って誘いに来たんだけど」
「行かない、予定ある」
それだけ言って去っていった。
「なに今の…」
哉らしくない。
態度は憎さ3割り増しだけど。
でも、すごい可愛い顔をしてたから。
隙なんか絶対作らないやつなのに、緩んだ顔で。
「寝起きだから…?」
不思議に思っていると中から黄波先生が出てきて。
掛け違えたボタンと、赤い顔。
なるほど。
「あ…西村先生、」
「黄波先生、ボタンずれてる」
手を伸ばすと避けるように身を引いた。
「あ、ごめんなさい、ありがとうございます」
明らかに挙動不審。
病院でなにやってんのさ、この子達は。
黄波先生も去っていってしまったあと、仮眠室の前にひとりだけ残されて。
付き合ってないなんて絶対嘘だ。
「ふたりして可愛い顔しちゃってさ!」
リア充め、なんて虚しい悪態を吐いて。
「はあ、だれか声掛けるかぁ」
伸びをしながらため息をつく。
さっきの二人を思い出しながら、欠伸をして。
私もいつか好きになれる人に出会えるかな、なんて柄にもないことを考えた。