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男の俺が女になったのはあまりにも突然だった。
『女体化の呪いココニアリ!』と、デカデカと記された箱を見つけたのはたまたまだった。
幼馴染のジョイフルとともに散歩をしていたらそれがあったのだ。
「なんだこれ?」
「さあ?」
「とりあえず開けてみるか」
考える間もなく、俺がその謎の箱を開けると瞬く間に煙ができた。
「危ねぇ!ジョイフル逃げろ!」
俺は咄嗟に幼馴染のジョイフルを押して箱から遠ざける。
「マリス!」
それから瞬きする間もなく、俺の全身は煙に包まれた。
真っ白になる視界のなか思ったのは、ジョイフルに煙が当たらなくて良かったということだ。
何かあった時に困るのは、貧乏男爵の三男の俺よりも、金持ち伯爵家の長男ジョイフルだ。
まあ、何とかなるでしょう。
そんな楽観的なことを考えていると、煙はすぐに消え去った。
明瞭になる視界の後にすぐに違和感を覚えた。
「ジョイフル、お前デカくなってないか?」
そして、別のことにすぐに気がつく。
股間が異様に軽い……!
無意識に股間を握ろうとするが、空振りだった。
つまり、14年間ぶら下がり続けていたブツがなくなっているのだ。
「な、ない!?」
そういえば、開けた箱には『女体化の呪いのココニアリ!』と記されていた。
まさか、と、思い俺は両胸を揉むように手を当てる。
「こっちもないぃ!!」
いや、ないわけではない。つい先ほどまでなかったムニッという感触は、間違いなく女性が持つアレの感触なんだと思う。
触ったことが無いのでわからないが。
つまり、そういうことだと思う。
「ジョイフル!俺、女になっちまった!」
俺が煙に包まれてから一言も発しないジョイフルに思わず叫ぶ。
ジョイフルは、というとポカンとした顔をして俺を見ている。
「……」
「おい!どうしよう!」
泣きそうだ。女になってしまったら、親兄弟から何と言われるのだろうか。
間違いなく結婚相手を見つけないといけない。幸い婚約者はいないが、この呪いがいつまで続くのかわからない。
ていうか、14年間男だったのに男と結婚なんて無理だ。
チューすることを想像すらしたくない。
ジョイフルは、なおも無言で俺のことを見ている。
「何か言ってくれ!」
必死になってジョイフルに縋り付く。
ジョイフルは嫌がる様子もなく。なんなら、俺の両手を包み込むように握りしめてとんでも無いことを言い出した。
「……可愛い。結婚を前提に婚約してください!」
まるで鈍器で殴られたような告白に俺の頭は考えることを拒否した。
つまり、気絶した。
真っ暗になる視界で、思ったのは。
男と結婚するなんて無理だ。という事だった。
俺が女になったことは、恐ろしいことにあっさりと受け入れられた。
「ずっと娘が欲しかったのよ!」
「可愛い、妹!」
「パパと呼んでくれ!」
家族の反応は手のひら返しと言ってもいいレベルだった。
とくに酷かったのはジョイフルだった。
「マリス!結婚を前提に婚約してくれ!」
鼓膜が破れそうな大音量でジョイフルは毎日のように俺のところへやってきた。
もちろん、真っ赤なバラの花束を持参してだ。
昨日まで友達だった奴からの熱烈な告白に、俺は戸惑いよりも生理的な嫌悪の方が勝っていた。
「うるせぇ!黙れ!」
勢いよくジョイフルをぶん殴ると、その場に座り込む。
そう、座り込むのだ。いつもなら吹っ飛ぶのに。
それが、自分が女になってしまった事を見せつけられているように感じて余計に腹が立った。
毎日のように、ドレスを着させられて、マナーだの、茶のしばき方など色々と手解きを受けて俺はうんざりしていた。
苦痛のような日々に、ある日終わりが訪れた。
それは、王立学園の入学案内の通知だった。
呪いで女になった旨を伝えると、「女の子ってたまにそういう時期ってありますよね」という、生暖かい返事と入園の許可の返事が来た。
俺にそれが来たということは、同い年のジョイフルにも当然来るわけで。
「マリス、王立学園を卒業したら結婚してくれ」
いつものように、しれっと遊びにやってきたジョイフルは、珍しく変化球のプロポーズをしてきた。
「はぁ!?」
当然のように俺は、何を言っているのだとジョイフルを睨みつける。
しかし、家族の反応は違った。
「いいわね。そうしましょう。ジョイフルくんならマリスのことを受け入れてくれてるし」
母親の反応に父親も兄弟もこくこくと頷いている。
「俺は、嫌だ!」
「いいじゃない。幼馴染同士の結婚なんて少なくないんだから」
そういう問題じゃない。
「マリス、両親からの承諾ももらったから」
「……」
親公認になった俺とジョイフルの関係に危機感を覚えた。
このままでは結婚させられてしまう!
俺は頭を抱えた。
だって、男と結婚なんて無理だから。
どうやったら逃げられるのか、俺は色々な本を読み漁ることにした。
そして、「白い結婚をしてお飾りの妻」になれば問題は解決することに気がついた。
だから、俺は王立学園で愛人のいる男を探し出して、白い結婚をするつもりだ。
「何事も!やってやれないことはない!」
やる気満々になった俺は鼻息を荒くして、王立学園に入園した。
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